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フリービジネスモデルとクラウドコンピューティング

2010年11月29日(月曜日)

1.市場の二面性

最近フリービジネスが話題になっています。フリー(無料)またはそれに近い料金で基本的なサービスを提供して多くのユーザーを集め、少し高度な機能や特別な機能については有料サービスで提供するビジネスモデルです。このようなフリーのビジネスモデルの1つに“ツー・サイド・プラットフォーム(市場の二面性)”と呼ばれるものがあります。

2.アドビシステムズ社

アドビシステムズ社に、PDF形式の電子文書を扱う「アクロバットファミリー」と呼ばれるソフトがあります。コンテンツの再利用を防止する工夫があり、作成者に安心感を与えるので人気のソフトです。実はこのアクロバットファミリーソフトは市場の二面性を利用したビジネスの良い例でもあります。その市場には、【図】のように文章を作成する“書き手(グループ1)”と、それを閲覧する“読み手(グループ2)”の2つ異なるグループが存在します。

市場の二面性(アドビシステムズ社の事例)

【図】市場の二面性(アドビシステムズ社の事例)

アドビシステムズ社は“書き手(グループ1)”に対して“アドビアクロバット”という文書作成ソフトを提供し、“読み手(グループ2)”には“アドビリーダー”という文書閲覧ソフトを提供します。つまりアドビシステムズのビジネスは、2つの異なるグループ間の取引を促す為の市場(プラットフォーム)を提供しているビジネスと言えます。

3.ビジネスモデル

このモデルは両者に対する価格設定にアイデアがあります。“読み手(グループ2)”の数を拡大させるように文書閲覧ソフトを無償で提供するアイデアです。“書き手(グループ1)”にとっては読み手が多ければ多い程、自分のコンテンツを読んでもらえるメリットを感じ、たとえ“アドビアクロバット”が有料でも利用します。一方、読み手はソフトの代金を払ってまで利用したいとは思っていませんが、“アドビリーダー”は無料なので、抵抗なくダウンロードして利用します。

つまり、アドビシステムズ社は、読み手に対しては、無料でアドビリーダーを提供することにより読者を増やし、書き手に対しては、その多くの読者を背景に有料でアドビアクロバットを提供するモデルを作り上げました。書き手に対して有料ソフトを購入するインセンティブを働かせたわけです。

一見すると簡単に見えるのですが、もしこの価格設定を逆にしたならば、このモデルは成り立たないことは容易に想像されます。この価格設定は、どちらのグループを優遇するべきかを良く考えたビジネスモデルになっています。

4.ネットワーク効果

このように異なる2つのユーザーグループを結びつけ、両方のグループのニーズを満たし、さらに相互にメリットを感じさせ、お互いを引きつけさせる現象を“ネットワーク効果”と呼びます。アドビ社の例では、読み手のグループに優先価格(この場合は無料)を設定し、その価値を引き出してネットワーク効果が最大になるようにしています。読み手グループの規模(数)があるマスを超えれば、ネットワーク効果により、さらに多くの書き手が集まり、しかも高い対価を払ってでも利用します。そのことにより、書き手からの売上が大きく伸び、読み手の獲得とサービスにかかる費用を上回ります。その結果として読み手が無料の顧客であってもアドビ社全体では収益が上がることになります。

5.クラウドコンピューティングのビジネスモデル

最近のIT変革の中核は“所有から利用へ”と、クラウドコンピューティングに向かっています。フリーの世界ではグーグルの検索モデルが王者ですが、そのグーグルもクラウド化へ向けて驀進しており、クラウドビジネスを考える場合、フリーのビジネスモデルを切り離して考えるわけにはいきません。

クリス・アンダーソンの著書「FREE」によると、フリーのビジネスモデルは4つに分類できるそうです。そのモデルを良くみると、アドビ社の例も含めて、BtoCモデルであって、BtoBやBtoBtoCのモデルの例は少ないです。何故BtoCモデルが多いのかは不思議で、BtoBモデルがあまり話題にならないのは疑問のあるところです。

ネットワーク効果について考えてみると、BtoBモデルとBtoCモデルとでは明らかに違いがあります。BtoBは企業間の競争が存在し、同じグループには競争相手を入れたくないと思うセンシティブなモデルとなっています。その為、アドビ社のような“類は友を呼ぶ”効果を簡単には期待できませんし、課金の仕組みも片方のグループだけを無料にするわけにはいきません。さらに市場も二面性(ツー・サイド)から3つ以上のグループが存在するマルチ・サイド・プラットフォームへと複雑化しています。その辺りの事情がBtoBモデルが少ない理由となっています。そのようなBtoBモデルにおいてネットワーク効果を最大化するためには、以下の2つの視点を入れることが重要です。

  1. お客様の経験価値(カスタマーエクスペリエンス)の適切な評価と、その価値を高める仕組み
  2. 優先顧客(無料もしくは低価格顧客)の生涯価値評価による優先顧客と有料顧客との価格戦略

最近クラウドの1つとして社会インフラ領域に注目が集まっていますが、そのモデルはBtoBまたはBtoBtoCのモデルであり、先に述べたように事例も多くありません。大変チャレンジングな課題と言えますが、ネットワーク効果の最大化を図る為には、上記2点を取り入れたサービス体系を作ることが重要なテーマとなります。

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【調査・研究】


藤原寛文

藤原 寛文(ふじわら ひろふみ)
株式会社富士通総研 執行役員常務
1973年 早稲田大学理工学部電気工学科卒、富士通株式会社入社。
金融システム部にて都銀のオンラインシステム開発に従事。1999年以降、インターネット、CRM、ユビキタスのソリューション開発に従事。2005年 富士通総研 執行役員常務。