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「おもてなし産業化」で産業構造転換を

2010年11月29日(月曜日)

3度目の円高が突きつける「日本のアイデンティティ」の転換要請

数えてみれば3度目となる円高の大波が、日本の量産製造拠点に、海外化・国内空洞化の圧力として襲いかかっている。人口減少に伴う内需の長期的縮小、安いがそれなりの品質の製品を良しとする新興国中間層の爆発的な拡大、日本が誇る高品質高機能製品を日本人の約1/10の賃金で作ってしまう近隣諸国の急増という現状を見れば、従来の円高期にも増して、このままの生き方で済むとは思われない大きな環境変化を感じる。一旦中国で作り方を覚えられた量産品と同じモノに国内生産で対抗しようとするのは、人々に幸せをもたらさない虚しい我慢競争を強いるだけだ。生き延びた時間が多少延びたとしても、地方で閉鎖された量産工場の寂しい姿が、最終的な行き着く先を暗示している。

日本はこれまで、「内需保護、先進国の違いの分かる消費者向けの量産・高品質モノづくりの国」というアイデンティティで生きてきた。しかし、いよいよそのアイデンティティを別のものに、本格的に変える時期が来たようだ。覚悟の程が試されている。

日本が変わるべき新たな産業構造の姿として、米国など他の先進国の産業構造転換の流れの類推から、「さらなるサービス産業化を進めよ」とする向きは多い。しかし、サービス産業化への転換は、日本では長年叫ばれながら、なかなか国民の賛意が得られなかった。「日本が強いとされたモノづくりの軸から離れて本当に成功するのか?」「製造業に比べ1人当たり付加価値が低いサービス産業に転じて、豊かな暮らしを維持できるのか?」という不安が根強く、議論は収斂しないままだ。産業転換に伴うこうした不安をどうやれば解決・払拭できるかの明確な答えを準備できないと、日本のアイデンティティ転換の議論は、いつまでたっても袋小路から抜け出せない。

その国の強み産業を核にしないと生きられない

今後のその国のアイデンティティや望ましい産業構造の姿を考える上での基本は、どの国も、その国民の強みに立脚した産業を核にしないと成功しないという事実を肝に銘じることだ。日本も例外ではない。たとえ先進各国に見られる産業構造高度化の一般的法則がサービス産業化に向かう、中でも金融産業に向かう等であるとしても、それを鵜呑みにせず、各国が独自に考える必要がある。

日本の強みは、もちろん長期的には質的に変化するものではあるが、現状、依然としてモノづくりへの執着やモノづくりの巧みさにあることは明らかだ。素材へのこだわり、部品間のすり合わせへのこだわり、品質へのこだわり、多機能へのこだわりなどは、かつて世界一のシェアをとった鉄砲や、世界的工芸品化した日本刀などの鉄製品、千年以上保持されている木造建築の多さなどに示される、古から続く伝統だ。現在においても、化学分野のスペシャリティ製品に見られるナノ繊維などの材料や素材、アジアを席巻するEMS工場のラインに設置された日本製の部品挿入機、自動車分野にも及ぶリチウムイオン電池技術の先行性など、世界最先端を行くモノを輩出し続けている。従って、今後の日本産業構造も、モノづくりの屋台骨の上に構築されるべきである。

モノ単独では、市場に受け入れられにくくなった

しかし、日本の強みがモノづくりにあるのは事実としても、状況は厳しい。先進国の大国の中で、産業界として世界で最も研究開発費を投じているにもかかわらず、その成果としての技術やモノ製品が、技術者の満足度は満たしているが、売れるモノづくり、儲かるモノづくりに結実しない傾向が近年次第に顕著になってきている。このズレの実態を認識し修正することが、まず最初に取り組まれるべきことだ。技術至上主義で、ひたすら高品質・高機能なモノを、違いの分かる、自分を認めて向こうからやってきてくれる顧客しか相手にしない志向から、こちらから顧客に向かって積極的に説明し、顧客のニーズも取り入れた、売れて儲かるモノづくりに転換する必要がある。

そのためには、モノ単独の優位性に加え、モノが醸し出す物語性などの「コト」的要素を入れ込む商品企画、デザイン、ブランド、広告、販売、そういったトータルな活動とモノづくりを融合させる工夫が必要だ。

デザイン力やブランド力強化に関して具体的にいえば、ポルシェやフェラーリのデザイナーとして活躍したデザイナー奥山清行氏が、彼の、そして同時にわが故郷山形の鋳物企業や木工家具企業の職人と協力し、彼ら職人の優れたモノづくり技術に奥山氏のデザイン力を融合する「山形カロッツェリアプロジェクト」の先行事例が有名だ。地域特性に溢れた絨毯や家具、土瓶などが、従来の大量製品ではないが必ずしも一品ものの工芸品ではない、ちょうど地域の中小企業が生きていくのに扱い易い量の製品として、奥山氏が土地勘のある欧州など海外市場に広めている。地域の中小企業に乏しいのは、技術や技能でなく、設計、デザイン、ブランド、販路などの出口であり、こうした部門を強化すれば、地域から直接世界市場向けのチャンスが開ける。腕はいいが無口な山形の職人も、いいモノを作るだけではダメで、デザインを加味し、自分たちから実際に顧客に届けて説明しないと売れないことに気づき出している。

先進国と日本の貿易関係を見ると、日本が輸入超過なのは、意外にもアジアの量産大国でも欧米のハイテク大国もなく、イタリアとフランスだ。こうした国の地域発のブランド品が、日本でも受け入れられているように、今後世界で受け入れられるようになる。わが国のモノづくりの1つの方向を示している。アジアの人々がさらに豊かになれば、デザイン力・ブランド力がついた日本製品は一層魅力を増す。

モノとおもてなし文化の融合

これまで欠けている上記の項目を強化するのに加え、モノに、さらなるわが国の民族的強みや特質を融合させて、新たなモノや産業に仕立てる視点も重要だ。そうした日本の強み候補を数え上げれば、「きれい好き」「安心安全を大事にする気持ち」「もったいない精神」「相手を思いやるおもてなし精神」などが考えられる。こうした日本人の精神をベースにしたモノ+α産業を国内外に普及させ、真の強みの上に乗った日本の産業構造の転換を図るしかない。そこに日本独自の「おもてなし産業化」への転換の道が開けてくる。安心で安全な食材・料理と最先端診断機器完備の医療病院ホテル展開、人型で安全なロボットと介護、膜技術ベースの安全な水供給ビジネス、IT装備と人が合体した警備、モノと日本人の相手を思いやる「おもてなし」の心、が融合した製品や産業がまだ続々と浮かぶ。

単なるサービス産業化と違うおもてなし産業化

こうした「おもてなし産業」は、従来の、単なるサービス産業とは発想が異なるものだ。サービスはその語源からして、「奉仕する」という下から目線である。日本では「タダ」というイメージも強い。しかし「おもてなし」は、相手を平等な立場で思いやる、もしくは立場の弱い人に対して余裕・余力のある立場の人、専門家が手を差し伸べるという、ホスピタリティに近いスタンスである。もともとホスピタリティは、疲れた巡礼者や旅人に、館の主が食事や宿泊を提供し、代わりに彼らから彼らが訪問した地域の情報を提供してもらうという、相互性や相手に対するいたわりが同時に存在する歓待の仕方であるし、日本の「おもてなし」は、例えば茶の席で、亭主が客の心に思いをやり、客もまた亭主の心に思いをやるという、平等な立場での相互性と相手に対する心遣いがある。常に相手の心を先回りする、一歩前に出て研究研鑽を積まないと相手にも満足していただけない仕事である。その代わり、専門家として、それなりの互恵的な報酬を得ることができる。単なるサービス産業との違いである。

また、「おもてなし」とは、もともと、「モノを持って成し遂げる」という意味があり、モノ側の洗練も必要だ。このような、日本の2つの強み、モノとおもてなしの気持ちが合体した「おもてなし産業化」が今後の日本の方向の1つだろう。

確かに、こうした分野では大金を稼ぐというタイプの産業には育ちにくい。しかし、これからは皆が、特に停滞色が強い地域をベースに、ほどほどに稼いで、心豊かな生き方を目指すことが、その国独自のアイデンティティになっていくと思われる。

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安部忠彦

安部 忠彦(あべ ただひこ)
1976年 東京大学理学部、1978年 東京大学大学院修了。学術博士(金沢大学)。
(株)三菱マテリアル、(株)長銀総合研究所を経て、現在、(株)富士通総研 経済研究所エグゼクティブ・フェロー。
専門調査・研究分野は、企業の研究開発活動、国、地方自治体の科学技術政策、産業調査(リーデイング産業、空洞化問題、国際分業問題)、技術経営、サービスイノベーションなど。