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スマートグリッド政策:内閣主導の「新成長戦略」と「エネルギー基本計画」の実行を

2010年7月26日(月曜日)

2010年6月18日に、スマートグリッドに関連する2つの重要な政策が閣議決定された。1つは国家戦略室が策定した「新成長戦略」であり、もう1つは経済産業省が策定した「エネルギー基本計画」である。両者は共にスマートグリッドを推進することをうたっているが、その具体的内容は大きく異なる。

1.「新成長戦略」に見るスマートグリッド政策

2009年9月の政権交代に伴い、新たに総理のブレーンとして内閣官房に国家戦略室が置かれたことは、ご存知の通りである。昨年の12月からわが国の成長戦略の策定に当たっていたが、「『元気な日本』復活のシナリオ」と題した民主党内閣としての包括的な経済政策が、ようやくまとまった。それは、「7つの戦略分野」と「21の国家戦略プロジェクト」を擁し、「戦略」と呼ぶにはあまりにも総花的ではあるが、何にせよ「グリーン・イノベーション」が掲げられ、その中で「スマートグリッド」についても触れられている。アメリカのオバマ政権では、2008年の選挙期間中から、「スマートメーターや分散型蓄電」を含む「必要不可欠なイノベーション」として、「スマートグリッドへの投資」が明確に位置づけられていた(*1) が 、日本でも環境エネルギー政策が、単なる地球環境保護のためではなく、イノベーションによる経済成長の手段として認識されるようになったことは、第一歩として評価できる。

とは言え、「グリーン・イノベーション」に占める「スマートグリッド」の存在感は非常に小さい。例えば、「日本型スマートグリッドにより効率的な電力需給を実現し、家庭における関連機器等の新たな需要を喚起する」だけでは、政策的には何も言っていないに等しい。後半の「21の国家戦略プロジェクト」や「工程表」でも、スマートグリッドに関する記述は具現化されておらず、政府が何をするのか不明である。より具体的に規制改革などに触れられているのは、「再生可能エネルギー・急拡大」についてであるが、これと比べればスマートグリッドへの関心が低いことは否めない。勿論、再生可能エネルギーによる分散型発電の導入が進めば、間接的にスマートグリッドの普及にも寄与する。しかし、このような書きぶりは、国家戦略室の優先順位が温室効果ガスの25%削減という目標にあり、その手段としての再生可能エネルギーの普及政策を重視し、スマートグリッドはそのための施策の1つに過ぎないことを示している(*2)

実は筆者は、スマートグリッド政策の研究者として、この国家戦略室による成長戦略の策定作業に若干の貢献をさせていただいた。即ち、国家戦略室に赴き、スマートグリッドへの各国の取り組み状況を踏まえ、日本が採るべき政策を提言する機会を得た。その最大のポイントは、スマートグリッドは電力網の連続線上の変化ではなく、技術革新に基づく歴史的なイノベーションであり、太陽光発電やEVなども網羅して新たな社会インフラとなること、だからこそ、経済成長を実現するための各種政策を統合する理念として位置づけるべきということであった。しかし、昨年12月の「新成長戦略(基本方針)」において関連性の薄い「6つの戦略分野」が発表された段階で、このようなアイデアは既に採用困難だったのであり(*3)、今回の「新成長戦略」も鳩山内閣の至上命題であった環境保護のためなのか、個別産業分野の育成のためなのか、それとも筆者が主張する国家規模のイノベーションのためなのか、本来の目的がよく分からないものになってしまった。

2.「エネルギー基本計画」に見るスマートグリッド政策

6月18日に閣議決定されたもう1つの政策である「エネルギー基本計画」は、「エネルギー政策の基本方針を具現化するもの」である。エネルギー政策基本法に基づき、経済産業省が3年ごとに見直すことが義務付けられている。2007年の「基本計画」では、スマートグリッドという言葉は一度も登場しなかったが、今回の「基本計画」では、スマートグリッドが大きく扱われている。

即ち、「次世代エネルギー・社会システムの構築」の項において、スマートグリッドを整備すること、更に「交通システム、市民のライフスタイルの転換などを複合的に組み合わせたスマートコミュニティの実現を目指す」ことが明記されている。ここまでであれば、「新成長戦略」と特段の違いはないが、注目すべきは、これを実現するために、電力市場のサービス化・自由化を打ち出している点である。

  • 2020年代の可能な限り早い時期に、原則全ての需要家にスマートメーターの導入を目指す。
  • 需要家が自らの電気・ガス・水道等の需給情報を一元的に把握・管理することが可能となるよう留意する。
  • エネルギー需要情報については、個人情報の適切な管理等セキュリティの確保を前提としつつ、第三者が利用できるような環境を整備する。
  • エネルギー需要情報を活用した様々なサービスを創出し、内需の喚起及び外需の獲得を図る。

ここに書いてあることを意訳すれば、第1に、日本も欧米諸国に後れを取らないように、スマートメーターを全家庭に設置するということである。明示されていないが、政府の何らかの支援を前提に、電力会社にそのような取り組みを徹底させるのであろう。とは言え、これは10年程度かけての目標であるため、諸外国と比べて特筆すべき点はなく、既に計量法により10年ごとの電力量計の取り替えを義務付けられている電力会社にとっては、それほど大きな負担ではない。

第2に、現在は公益事業のメーターは各(供給)事業者の所有物であり、そこに記録される情報は事業者によって料金徴収などのために独占的に管理されているが、それを家庭などの需要家に開放するということである。これは、電力を使う側から見れば当たり前のことのように思われるかもしれないが、電力の供給側から見れば非常に厄介な、できれば触れて欲しくない問題である。病院のカルテの情報が、それを物理的に作成・管理している病院のものか、サービス料金(医療費)を支払って個人情報を供出している患者のものか、その電子的利用を巡って対立があるように、スマートメーターの活用において大きな鍵となり得る。

更にこの内容は、現在は各業法に応じて別々に設置されている公益事業のメーターが統合される可能性を示唆している。需要家から見れば、自宅に3つの異なるメーターが設置される必要はない。技術的には、電力、ガス、水道といったメーターを1つにすることは可能になっているのであり、これをスマート化するのに合わせて統合する動きは、海外では既に始まっている。そしてメーターの統合は、エネルギー業界内の業際を超えた再編に波及するかもしれない。実際「基本計画」の中では、「複数のエネルギーを扱い、顧客や地域の特性に応じて、最適に組み合わせて供給できる総合エネルギー企業体(ガス・アンド・パワー、オイル・アンド・ガス等)の形成を促していくことも重要」と指摘されている。

第3に、上記の使用履歴情報を需要家本人だけでなく、更に第三者であるサービス事業者にも開放するということである。一般の需要家にのみ電力の使用履歴情報が開放されたところで、それを基に各家庭が取り組む省エネはたかが知れている。それを専門のサービス事業者に委ねてこそ、大きな効果が期待できると共に、新しいサービス市場が拡大するのである。これまで電力(供給)サービスとは、地域ごとに電力会社が独占し、一方通行で選択肢がなかったが、そこに新規参入が起こり、サービスの内容や価格を巡って競争が生じることを意味している。

第4は、上記の3点をまとめた内容になっており、このようなEMSサービスを本格的に確立することを宣言している。

3.「エネルギー基本計画」の先進性

このように、「エネルギー基本計画」におけるスマートグリッドの記述は、非常に具体的な上、これまでにない改革的な内容を多分に含んでいる。2010年5月21日付けのオピニオンで指摘した通り、スマートグリッドの本質はサービス化にあり、そのための最重要政策は電力市場の自由化である。しかしそれは、既存の電力会社が最も抵抗する政策でもあり、電気事業を所管する経産省(の中でも資源エネルギー庁)がよくここまで踏み込めたなというのが、筆者の率直な感想である。スマートグリッドに関する政策について、どうして「基本計画」の方が先進的で、「新成長戦略」は関心が低かったのだろうか?

まず思いつくのは、「新成長戦略」は内閣が自ら策定したものであり、「基本計画」はエネルギーを所管する経産省が策定したものであるため、当然前者の中でエネルギー関連は一部に過ぎず、抽象的な内容に止まらざるを得ないという理由である。確かに、「新成長戦略」は工程表などを除いて54ページ、「基本計画」は65ページであるから、それぞれの中でスマートグリッドに割ける文章量に大きな差が出るのは止むを得ない。しかし筆者は、これが本質的な理由ではなく、6月11日付けのオピニオンにおいて指摘したように、国家戦略室による「新成長戦略」の策定の仕方に大きな問題があったと考える。

筆者はかねてより内閣主導の政策形成について研究してきたが(*4)、本来各省庁に事務を分担管理させている議院内閣制において、内閣がわざわざ「国家戦略」に取り組むことの意義は、省庁に任せていては実現しないような先進的な改革を実現するところにある。これまでにも内閣の補佐機構において、「e-Japan戦略」や「知的財産戦略」が曲がりなりにも策定されてきたが、その最大の意義は、所管の省庁が抵抗するような政策を内閣の力によって採用することにあった(*5)。だとすれば今回も、改革に対して後ろ向きな所管省庁に対抗して、先進的な政策を立案するところにこそ、国家戦略室への期待があったはずである。

しかし、そうはならなかった理由は、国家戦略室にとって「新成長戦略」を作ることが自己目的化してしまい、本来戦略において最も重要な「選択と集中」がなされなかったからである。現在の国家の状況に鑑みて、どこに資源を集中させるべきかという戦略的判断がないままで、とにかく成長戦略の策定を命じられた国家戦略室は、各省庁へのヒアリングから策定作業を始めざるを得なかった。だからこそ必然的に、「新成長戦略」が総花的になったのであり、その中で各戦略分野を有機的に繋ぐ統合理念など存在せず、スマートグリッドも各論の各論のような位置づけになってしまった。

一方で、エネルギー分野を所管する経産省の「エネルギー基本計画」は、予想以上に改革的な内容になった。筆者はかねてより、スマートグリッド政策が経産省の中ですら縦割りとなって効果的に進んでいないことを批判してきたが、この点は認識を改め、率直に評価したい。想像するに、関連する審議会や研究会が省内で乱立する中で、2009年11月からはこれらを横断的に取りまとめる「次世代エネルギー・社会システム協議会」を設置するなど、経産省はスマートグリッドを重点領域と位置づけて縦割りの弊害を軽減する努力を続けてきたのであり、今回の「基本計画」においても、エネ庁だけでなく情報ユニットなどの意見も十分に取り入れたのではないか。

勿論、その前提として世界的にスマートグリッドの重要性が高まっていること、日本企業にとっての有望産業としてインフラ輸出の考え方が認知されるようになってきたことも、上記のような改革を後押ししているのだろう。日本企業は、リチウムイオン電池、太陽光発電、EVなど、スマートグリッドの要素技術においては世界最先端にあるが、それらを統合する新たなネットワークインフラを構築するという観点に立てば、必ずしも世界最先端ではない。世界的なパラダイム転換の渦中にあることを十分に認識した上で、新たな産業の枠組みとなる競争条件や法規制とはどのようなものか、そのためにはどのような改革が必要かを、新たな発想から問い直す必要があるのである。

4.内閣主導のスマートグリッド政策の実行を

「エネルギー基本計画」が先進的ならば、あとは経産省にその実行を任せれば良いのかと言えば、そんなことは全くない。上記のスマートメーターに関わる自由化政策は評価するが、まだ何も実行されておらず、「導入」を除けば期限を明記していない。スマートグリッドを本当に実現するためには、家庭まで含めた電力市場の開放や、電力料金の自由化(dynamic pricing)が不可欠であるが、それが一朝一夕には進まないことは、エネ庁自身がよく理解している。だとすれば、電力会社にとってマイナスが少ないスマートメーターの導入までを合意して、それ以上の市場自由化はしないという話になっているとの邪推ができないでもない。

そして新たな社会インフラを建設する政策は、自動車交通、通信、林業やバイオマスまで関連してくる省際的課題であり、トップダウンの力が働かなければ実現されない。それは経産省もよく認識していると見え、「基本計画」の中でも、スマートグリッドの展開について、「内閣官房、国土交通省、環境省、総務省、農林水産省、文部科学省と一体になって、関連施策を集中的投入する」としている。

だとすれば、スマートグリッドの実現にはやはり内閣の指導力が欠かせない。「新成長戦略」においては、スマートグリッドへの関心は低くなってしまったかもしれないが、各論は経産省に委任したものと解釈し、その実行においては、内閣の責任の下で関係省庁に指示を出すべきである。具体的には、国家戦略室の中にスマートグリッドの専任部署を作り、ここを事務局として更なる政策を練り、予算を重点配分し、あるいは省際紛争を裁定し、投資の重複を排除する。そのために外部有識者からなる諮問委員会を作るのである。

2009年12月30日に発表された「新成長戦略(基本方針)」の冒頭において、自民党政権における数多く立案された戦略の「失敗の本質」を、「政治のリーダーシップ、実行力の欠如」と断罪した当時の菅国家戦略担当大臣は、今総理大臣として、「新成長戦略」と「エネルギー基本計画」を実行する最高責任者なのである。参議院選挙で敗退した結果、現在の菅総理は、総理官邸は、意気消沈したように見える。その結果、国家戦略室を総理個人への政策提言に特化するよう機能縮小し、予算編成に関与しなくするといった、後ろ向きの政策変更ばかりが聞こえてくる。リーダーたる者、どのような苦境に立たされようとも、決して弱音を吐くことなく、前向きに攻める姿勢を忘れるべきではない。それが一国の総理大臣ならば尚更である。

菅内閣が、関係省庁と連携しつつ、スマートグリッド政策を強力に実行することを期待したい。

注釈

(*1) “Barack Obama and Joe Biden: New Energy for America,” 2008年3月。この中では、政権獲得後に実行に移されることになる投資助成や実証実験が、具体的に提案されている。

(*2) 「再生可能エネルギー・急拡大」の項目では、「系統運用ルール策定」、「系統連係量」の拡大などに触れられており、これらはスマートグリッドにも関係してくるが、分散型発電の普及の手段として位置づけられている。

(*3) この点は十分に承知していたから、筆者は国家戦略室に対してスマートグリッドに関連した個別の規制改革なども提言したが、残念ながら十分に反映されなかった。

(*4) 例えば、拙稿(2008)「総理主導の政治における諮問機関の役割」『公共政策研究』。

(*5) 2005年に郵政民営化法案を内閣官房において立案したことは、その典型的な例である。

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高橋主任研究員顔写真

高橋 洋(たかはし ひろし)
【略歴】1993年 東京大学法学部卒、ソニー(株)入社、1999年 タフツ大学フレッチャー大学院修了、2000年 内閣官房IT担当室主幹、2007年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2009年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、成城大学非常勤講師、(株)富士通総研経済研究所主任研究員
【著書】『イノベーションと政治学 情報通信革命〈日本の遅れ〉の政治過程』勁草書房 2009年