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政府の財政試算は条件の違いによってどの程度変わるか

2010年7月6日(火曜日)

政府試算の概要

政府は「財政運営戦略」(6月22日閣議決定)を策定し、今後の「経済財政の中長期試算」を示したが、この試算は、今後、基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下PB)を黒字化させ、政府債務残高のGDP比を低下させていくためには、税収アップが不可欠であることを強く滲ませる内容となっている。

慎重シナリオ(1%台半ばの名目成長率)では、2020年度のPBは21.7兆円の赤字、成長戦略シナリオ(3%超の名目成長率)では、2020年度のPBは13.7兆円の赤字であり、2020年度までにPBを黒字化させる政府の目標を達成するためには、この分、税収をアップさせるか歳出を削減する必要がある。いうまでもなく、このような多額な歳出削減は不可能であり、仮に赤字分のすべてを消費税で賄うとすれば慎重シナリオでは8~9%(最終的な消費税率は13~14%)、成長戦略シナリオでは5~6%(最終的な消費税率は10~11%)の消費税率の引き上げが必要な計算になる。

政府の試算は計量モデルを基礎としたものであり、財政試算でもうひとつの方法として行われる、名目成長率や長期金利、歳出の伸び、税収の弾性値(名目GDPが1%増えた時に税収が何%増えるかを示す値)などをあらかじめ設定して機械的に行ったものではない。したがって、同じ計量モデルを用いない限り、条件が変わった時に、最終的に必要な消費税率の引き上げ幅がどのように変わるかはわからない。ただ、政府の試算結果から、機械的試算で用いられる前提条件がおおむねどのような数値になっているかは推測できる。そこでここでは、推測された条件を基にして、政府試算と条件を変えた時に、必要な消費税率引き上げ幅がどのように変わるかについて試算を行ってみた。

【表】政府試算をベースとした財政試算

マクロ経済 歳出
名目成長率
(2011年度以降)
長期金利
(2011年度以降)
2011~13年度の歳出キャップ 社会保障関係費の伸び
(2014年度以降)
社会保障関係費以外の歳出の伸び
(2014年度以降)
慎重シナリオ (1)基本ケース 1.7 2.7 あり 3 1.1
(2)歳出キャップなしのケース 1.7 2.7 なし(2011年度から右記の伸び) 3 1.1
(3)税収の弾性値が低いケース 1.7 2.7 あり 3 1.1
(4)社会保障関係費の伸びが高いケース 1.7 2.7 あり 4 1.1
成長戦略シナリオ (5)基本ケース 3.3 3.6 あり 3 1.9
(6)歳出キャップなしのケース 3.3 3.6 なし(2011年度から右記の伸び) 3 1.9
(7)税収の弾性値が低いケース 3.3 3.6 あり 3 1.9
(8)社会保障関係費の伸びが高いケース 3.3 3.6 あり 4 1.9
(9)長期金利が高いケース 3.3 4.3 あり 3 1.9
歳入 財政収支、債務残高
税収の弾性値
(2011年度以降)
消費税の引き上げ幅 最終的な消費税率 PBが黒字化する年度 債務残高(GDP比)のピーク時
2013年度 2018年度
(注1)2010年度の名目成長率、長期金利は経済企画協会「ESPフォーキャスト調査」(6月調査)の平均値を使用。名目成長率1.3%、長期金利1.38%。
(注2)2011~13年度の歳出キャップとは、この間の歳出額を2010年度の額で固定するもの(国債費、決算不足補てん繰り戻しを除く)。
(注3)「―」は、2100年度までに収束しない場合。
慎重シナリオ (1)基本ケース 1.9 5 4 14 2022 2043 242
(2)歳出キャップなしのケース 1.9 5 6 16 2020 2042 245
(3)税収の弾性値が低いケース 1.1 5 7 17 2018
(4)社会保障関係費の伸びが高いケース 1.9 5 5 15 2021
成長戦略シナリオ (5)基本ケース 1.5 5 0 10 2022 2023 195
(6)歳出キャップなしのケース 1.5 5 2 12 2021 2023 200
(7)税収の弾性値が低いケース 1.1 5 3 13 2020 2023 196
(8)社会保障関係費の伸びが高いケース 1.5 5 1 11 2021 2023 195
(9)長期金利が高いケース 1.5 5 0 10 2022 2029 218

「慎重シナリオ」で条件を変えた場合

政府の慎重シナリオでは、2011年度以降(2023年度まで)の平均名目成長率は1.7%、平均長期金利は2.7%、平均消費者物価上昇率は1.1%になっていると推測される。歳出の想定は、2011~13年度まで歳出キャップを設け(国債費、決算不足補てん繰り戻しを除き2010年度の額で固定)、2014年以降については、社会保障関係費は高齢化要因で増加、それ以外の歳出は消費者物価上昇率並みに増加するというものである。ここで社会保障関係費の伸び率は明らかではないが平均3%と推測した。歳入は各年の税収額が示されており、これを基に2011年度以降(2023年度まで)の平均の税収の弾性値を計算すると1.9となる。

以下では、これらの条件を基に機械的試算を行う。2020年度前後にPBを黒字化させるという目標を置き、そのために消費税率の引き上げをまず2013年度に5%行い、それでも足らなければその5年後の2018年度に再度引き上げると考える。政府の慎重シナリオから算出された条件で試算を行うと、2013年度に消費税率を5%、2018年度にさらに4%引き上げると(最終的な消費税率は14%)、2022年度にPBが黒字化するという結果が得られた(表中の(1))。この結果は、政府の慎重シナリオの結果に近いものといえる。

次に条件を変えると、機械的試算の結果がどのように変わるか計算してみた。まず、2011~13年度に歳出キャップが設けられない場合は、必要な消費税率の引き上げ幅はどの程度変わるだろうか。歳出キャップがなく、2011年度以降、社会保障関係費が平均3%増加、それ以外の歳出は消費者物価上昇率並み(平均1.1%)増加すると想定すると、2013年度に消費税率5%、2018年度にさらに6%引き上げると(最終的な消費税率は16%)、2020年度にPBが黒字化するという結果が得られた(表中の(2))。歳出キャップが設けられない場合、必要な消費税率引き上げ幅は基本ケース(表中の(1))と比較して、2%増すことになる。

次に、税収の弾性値が低いケース(表中の(3))を考えてみた。政府の慎重シナリオから算出される税収の弾性値は1.9となっているが、通常、財政の機械的な試算を行う場合、税収の弾性値を1.1とする場合が多い。景気の回復期で法人税収が急激に増える時期などでは、税収の弾性値は短期的には10を超えるような大きな数値になることはあるが、あくまでも一時的なもので、長期的な数値は1.1程度と考えられるからである(財政制度等審議会の財政の長期試算などでもこの値が用いられている)。この条件の下では、機械的試算からは、2013年度に消費税率5%、2018年度にさらに7%引き上げると(最終的な消費税率は17%)、2018年度にPBが黒字化するという結果が得られた。ただし、PBは一時的に黒字化するものの再び赤字化し、政府債務残高のGDP比は発散するという結果になった。

最後に社会保障関係費の伸びが平均4%とより高いケース(表中の(4))について考えてみた。このケースでは機械的な試算からは、2013年度に消費税率5%、2018年度にさらに5%引き上げると(最終的な消費税率は15%)、2021年度にPBが黒字化するという結果が得られた。ただし、社会保障関係費の伸びが高いため、2100年度まででも政府債務残高のGDP比は低下に向かわないという結果が得られた。

以上の結果から、慎重シナリオでは、税収の弾性値が低かったり、社会保障関係費の伸びが高かったりすると、財政再建がかなり困難化することがわかった。つまり、政府の慎重シナリオでは、条件が少しでも変わると、財政再建を実現するのが難しくなるということである。

「成長戦略シナリオ」で条件を変えた場合

成長戦略シナリオでは、2011年度以降(2023年度まで)の平均名目成長率は3.3%、平均長期金利は3.6%、平均消費者物価上昇率1.9%になっていると推測される。歳出に関する想定は慎重ケースと同じである。2011年度以降(2023年度まで)の平均の税収の弾性値を算出すると1.5となった。成長戦略ケースの数値で、慎重シナリオと比べて気になる点は、名目成長率と長期金利の関係と税収の弾性値である。名目成長率と長期金利の関係については、慎重シナリオでは長期金利が名目成長率を平均1%上回っていたのに対し、成長戦略シナリオでは平均0.3%しか上回っていない。債務の増加スピードを示す長期金利が低いほど、財政状況の悪化スピードは遅くなる。

つまり、成長戦略シナリオでの名目成長率と長期金利の関係は、長期金利が名目成長率を上回る度合いが慎重シナリオより小さくなっているため、財政状況がより好転しやすい関係になっていることになる。一方、税収の弾性値1.5は、慎重シナリオの1.9に比べ低い数値であるが、逆にいえば、慎重シナリオでは税収の弾性値が高いという条件のため、財政状況がそれだけ好転しやすくなっていることを意味する。先に、慎重シナリオでは、税収の弾性値が低くなった場合、財政再建が困難化することを述べたが、そうならないために1.9という高い数値になっていると邪推したくなるほどである(政府試算はあくまでも計量モデルを基礎とした数値であり、そのようなことはないはずであるが)。成長率が低い慎重シナリオの方が、成長率が高い成長戦略ケースよりも税収の弾性値が高いという点も気になるところである。

これらの条件の下で、機械的試算を行うと、2013年度に消費税率を5%引き上げると(最終的な消費税率は10%)、2022年度にPBが黒字化するという結果が得られた(表中の(5))。この結果は、政府試算の成長戦略ケースの結果に近いものといえる。

次に政府試算から得られる条件を変えると、機械的試算の結果がどのように変わるか計算してみた。まず、2011~13年度の歳出キャップがないケースでは、2013年度に消費税率5%、2018年度にさらに2%引き上げると(最終的な消費税率は12%)、2021年度にPBが黒字化するという結果が得られた(表中の(6))。歳出キャップが設けられない場合、必要な消費税率引き上げ幅は増すことになる。

次に、税収の弾性値が低いケース(表中の(7))を考えてみた。通常の機械的な試算で用いられる1.1とすると、2013年度に消費税率5%、2018年度にさらに3%引き上げると(最終的な消費税率は13%)、2020年度にPBが黒字化するという結果が得られた。

社会保障関係費の伸びが平均4%とより高いケース(表中の(8))では、2013年度に消費税率5%、2018年度にさらに1%引き上げると(最終的な消費税率は11%)、2021年度にPBが黒字化するという結果が得られた。

最後に、長期金利が名目成長率を上回る度合いが1%とより大きいケース(表中の(9))では、2013年度に消費税率を5%引き上げると(最終的な消費税率は10%)、2022年度にPBが黒字化するという結果が得られた。政府債務残高のGDP比が低下に向かう時期がやや遅れるものの、(5)とほぼ同じ結果であり、長期金利が名目成長率を上回る度合いを少し上げた程度では、結果にはあまり影響しなかった。

成長戦略と無駄削減の重要性

以上の結果から、成長戦略シナリオは慎重シナリオに比べ必要な消費税率引き上げ幅が少なくて済む(最終的な消費税率は10~13%)のはもちろんであるが、成長戦略シナリオでは、仮に条件が少し変わって、税収の弾性値が低くなったり、社会保障関係費の伸びが高くなった場合でも、債務残高のGDP比は2020年代中に低下に向かうことがわかった。それだけ財政再建の確実性が高まることを意味し、慎重シナリオで少しでも条件が変わると、財政再建が困難化するのと対照的である。

これらの結果から、今後の財政再建に当たっては、成長率が高い成長戦略ケースに近い条件を整えることが重要であることが改めて確認された。また、2011年度からの3ヵ年の歳出キャップについては、設ける場合の方が設けない場合に比べて、必要な消費税率引き上げ幅は2%程度低くなることがわかった(慎重シナリオ、成長戦略シナリオのいずれも)。増税を行う前に、歳出の無駄を極力削減することも重要である。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年~2010年3月 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員
【著書】デフレの終わりと経済再生(ダイヤモンド社 2004年)、 図解よくわかる住宅市場 (日刊工業新聞社 2009年)ほか多数