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菅総理、日本がIMFのコントロール下におかれることはありえません!

2010年6月21日(月曜日)

菅新総理の心配

菅直人新総理大臣は6月17日、参議院選挙マニフェストを発表したが、そのハイライトは消費税10%に言及したことだ。もともと増税には慎重だった民主党が菅総理になって急に増税に傾いたのは、菅氏が財務大臣中に財政や経済について大いに勉強し、財政赤字を放置することの危険を十分に理解するようになったからのようである。国際会議に出て、ギリシャなどヨーロッパ諸国の問題を目の当たりに見てきたことも、彼の考え方に影響を与えたことであろう。日本経済新聞によれば、増税の必要性について『財政再建に取り組まないと、例えば国際通貨基金(IMF)のような機関に、箸の上げ下げまでコントロールされる』と危機感を表明した、とある。街頭演説でもそのようなことを繰り返し語っている。

だが、今の日本がそのようなことになることは考えられない。まずIMFとは何をするところなのか、から始めなくてはならない。WikipediaでIMFを引くと、以下の通りの記述がある。

<加盟国が国際収支が著しく悪化した場合などに融資などを実施することで、国際貿易の促進、加盟国の高水準の雇用と国民所得の増大、為替の安定、などに寄与する事を目的としている。(一部省略)為替相場の安定のために、国際収支が悪化した国への融資や、為替相場と各国の為替政策の監視などを行っている。(一部省略)1979年以降、「融資の効果を阻害するような政治状態の国」には、「政策改善」を条件にした融資を行うようになった。この際に、対象国に課せられる要求のことを「構造調整プログラム(Structural Adjustment Program)」と呼ぶ。このIMFの構造調整プログラムにより、アフリカや南米、アジアなどの発展途上国では、様々な経済問題(失業など)が発生し、社会が混乱に陥ったという見解が多い。>

日本にはIMFの出番は無い

これがIMFの仕事だ。菅総理はこの説明の後半部分にあるような構造調整プログラムを押し付けられるようになりたくはない、ということを言いたかったのであろう。だが、ここで明らかなように、国際収支が悪化した場合に初めてIMFの出番があるのであって、国際収支に問題のない国は初めからIMFから何かを言われるようなことにはならない。日本は中国やドイツとともに世界で最も国際収支の黒字が大きい。円は目下最強の通貨だ。菅氏が総理を勤めている日本国は実は最もIMFのお世話にはなりそうにない国である。逆にギリシャは長年にわたり大幅な経常収支赤字を続け、それを外国からの借金で埋め合わせをしてきたが、それが続かないところまでになり、まさしくIMFの支援を必要とする状況となっている。

だが、菅総理だけが誤解しているのではない。一部のエコノミストを含め多くの人は、日本はギリシャと同じ問題に直面、あるいはそれ以上に危険な状況にある、と真剣に考えている。日本の国債残高のGDP比率がギリシャよりも高い、というのがその理由である。

確かに国の借金であることは同じだが、それが外国からの借金か国内からのものかは、経済に対してまったく異なった影響を持つ。ギリシャ政府はGDPとほぼ同額という多額の金を主としてヨーロッパの銀行からユーロ建てで借りている。増税、公務員の削減、社会保障のカットなどに耐えて過去の借金を返さなければならない。返済先は外国だから、その分、国民が自分たちのために使える所得は減少する。国民全体の生活が苦しくなるので、街では反対のデモやストが起こっている。わが国の場合、国債の発行残高はギリシャよりも多いが、国債はすべて日本人が保有しているから、返済される金は国債を保有している日本人が手に入れることになる。したがって日本人全体としては自分たちのために使える所得は将来にわたって減ることは無い。これがギリシャとの違いだ。だから日本で起こるであろう問題はギリシャとは異なった性格のものになるし、対応も当然異なってくる。ギリシャは参考にはならない。

日本の問題1-経常収支の黒字はいつまで維持できるか

日本が心配しなくてはならないのは次の2点だ。第1に、今のように国債を吸収するだけの資金、すなわち国民の貯蓄が今後とも続くかどうか、言い換えれば経常収支の黒字はこれからどれだけ続くのか、ということだ。日本の家計の貯蓄は高齢化や所得の伸び悩みもあって、2000年頃から急速に縮小しており、これから団塊の世代が完全退職するので、その傾向はさらに加速するであろう。他方、企業部門の貯蓄は増えており、加えて所得収支と呼ばれる海外資産からの利子や配当金が増加しているため、経常収支が急速に減少することは無いであろう。民間のシンクタンクや銀行では、経常収支の黒字がいつまで維持できるか様々な試算を行っているが、2020年頃と見る向きが多い。最近の輸出主導の成長が続くようであれば、もっと先になる可能性もある。経常収支が基調的に赤字になる前に財政の均衡を実現しておかないと、外国からの借金に頼ることになり、いずれギリシャのような問題に直面することになる。

日本の問題2-予期せぬ日本国債売り

第2の懸念は、貯蓄はあっても日本の投資家が国債を買わなくなる可能性があることである。分散投資の視点からすれば、既に相当の量に達している日本国債は選好されないかもしれない。あるいは風評のような予期せぬきっかけで既存の国債も売られ、価格下落、金利上昇、さらに国債を大量に保有している銀行の信用不安が起こる、という可能性だ。現実問題としては戦争のような事態を除いて、経常収支の黒字国の国債が市場で売り込まれるという事例は筆者の知識の範囲では無いので、頭の体操の域を出ないが、投資家が日本国債を売却して国内外の株や債権に切り替えることはいつでも起こり得る。外資系ヘッジファンドがそのような画策をしているかもしれない。この場合にも返済不可能とか外国政府やIMFに支援を求める、ということにはならない。日本国債は円建てなので、最終的には日銀が国債を引き受ければ済むことだ。ギリシャはユーロ加盟国なので、このような通貨主権が無く、中央銀行による国債引き受けという選択肢はない。

中央銀行による国債引き受けはインフレをもたらすであろう。どの程度のインフレになるかは、返済された資金がどこに向かうかにより異なる。株や土地、その他の有価証券などの資産価格は相当上がるであろうが、海外に流出する可能性も大きく、国内物価への影響は未知数だ。ただし、国内の供給サイドは十分余力があるので、戦争直後のようなハイパーインフレは考えにくい。インフレになれば既存の国債の価値は減価し、実質的な負担は減る。歴史的にもインフレを通じて国債を縮小させていった例は少なくない。しかし、インフレになれば金利も上がり、新規の国債発行は難しくなる。その前に財政均衡に向けた道筋をつけておかなければならない。

財政は健全でも危機は起こる

このような市場の急変は予測不可能だ。格付け会社でも見逃すことが多い。ギリシャに続いてスペインに問題が広まっているが、スペインの財政は2007年まで黒字であり、ヨーロッパの優等生であった。スペインはリーマン・ショック後の世界的景気後退に加えて、住宅バブル崩壊による民間部門の落ち込みが原因となって景気が後退して税収が減少したり、社会保障支出が増えたりし、結果として財政赤字が拡大したのである。

さらにわれわれの記憶に鮮やかな1997年のアジア通貨危機も財政赤字が原因ではなかった。危機発生の直前までタイ、韓国、インドネシア、フィリピンとも財政は黒字であった。【図1参照】民間セクターにおける海外からの短期資金の大量流入とその後の急激な流出が危機を招いたのだが、民間景気が後退すれば税収は落ち、財政も赤字になる。財政さえ健全であれば問題は無いと考えるのは誤りだ。ここに挙げた問題国に共通なことは、国全体のバランスすなわち経常収支が赤字であったこと、その赤字を埋め合わせるのに外貨建ての借金に頼ったこと、危機以前に固定為替レートを採用していたことである。今の日本はこのいずれにも該当していない。

アジア通貨危機時のアジア主要国の財政収支

【図1】アジア通貨危機時のアジア主要国の財政収支

急がれる世界的規模でのリバランシング

2007年にサブプライムローンを証券化した金融商品が世界中に拡散し、リーマン・ショックを引き起こし、世界経済は急激な落ち込みを経験した。住宅ローンなど民間部門における過剰債務に起因する危機であった。2009年後半にようやく立ち直りを見せた矢先にギリシャで国債危機が発覚した。これは政府の過剰債務であるが、これほどまでの借金を可能にしたのはドイツやオランダの過剰貯蓄だ。

過去3年間に起こった世界経済危機は、このような過剰貯蓄と過剰債務の並存は限界に来ているというシグナルだ。今後世界経済が進むべき方向はこれを逆の方向に軌道修正することであるが、バランスを立て直すという意味で「リバランス」と呼ばれている。米国や南ヨーロッパの国々は消費を抑えて貯蓄し、輸出を増やす努力をすべきだ。日本、中国、ドイツは民間部門での消費と投資を促すよう環境づくりが求められる。一例としてコーポレートガバナンスを有効に機能させれば、最近目立っている企業による過剰貯蓄は配当や賃金の上昇という形で投資家や従業員に配分され、落ち込んだ消費を回復させるのに寄与するであろう。このような経済全体の体質改善無しには財政の均衡も望むべくも無い。6月末にカナダで開催されるG8およびG20でもこのような議論がなされるであろう。首脳同士の議論なので、財政だけではなく景気や雇用など経済全体の議論がなされるはずだ。菅新総理は今度はどのようなことを学んで帰ってくるのだろうか。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など