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スマートグリッドの今後の展開:サービス化が鍵に

2010年5月21日(金曜日)

1.スマートグリッドに対する日本での盛り上がり

2009年末頃から、日本においても“スマートグリッド”という言葉を頻繁に聞くようになってきた。日本経済新聞の見出しから引用すれば、昨年暮れの「東電など、電力各社、次世代送電網に1兆円」(2009年12月31日)という1面トップの記事は、電力会社の方針転換を感じ取るには十分であったし、今年3月12日には、「次世代送電網対応メーター、東電が実証実験、10月開始」と報道された。重電メーカーも本腰を入れ始めており、「次世代送電網、事業化推進へ、日立が統括組織」(2010年3月12日)との記事があったし、「次世代送電網、米GEが日本参入」(2010年2月25日)は衝撃的であった。

これらの動きを日本政府も支援しており、「次世代送電網、全国5000世帯で試行」(2010年4月8日)と実証実験が計画され、海外の市場開拓については、「経産省、インド都市整備、東芝など採択」(2010年3月23日)との案件もある。もっとも、この背景には海外での盛り上がりも影響しており、「中国、送電網に50兆円」(2010年3月13日)は、その最たるものであろう。

筆者は2009年11月に、「スマートグリッド=インターネット?」と題するオピニオンにおいて、日本の遅れに警鐘を鳴らした。即ち、スマートグリッドはインターネットと同様の構図を持ったイノベーションであり、独占的事業者による中央管理・閉鎖型のネットワークが、多様な主体が自由に参画できる自律分散・開放型のネットワークになる。その結果、電気事業の水平分業化が生じ、そのネットワークの上で様々な新規参入企業がサービスを開発するなど、大きなビジネス機会が生じる。しかし日本は、インターネットの時と同様、このような世界的な変化に後れを取るのではないかということだった。その後、日本でもスマートグリッドが盛り上がりを見せているのであれば、筆者の懸念は杞憂に終わったのだろうか?残念ながら、基本認識は変わっていない。一方で、スマートグリッドを分析するにつれて、インターネットとの違いも見えてきた。

2.スマートグリッドは電力流通量を増加させない

第1の違いは、インターネットは情報流通量を格段に増加させたが、スマートグリッドは電力流通量を増加させない点である。【図表1】のグラフは、日本でインターネットが一般に注目を浴びた2000年頃を境に、その前後の情報通信産業の実質国内生産額の推移を表したものである。通信業(横線)について、1995年と2007年を比較すると、10.2兆円から21.9兆円へと2倍以上に増加している。それでは日本の電力流通市場が、12年後に2倍になるだろうか?決してならないだろう。世界全体としては2倍以上になるだろうが、それは中国やインドといった経済発展著しい国における電力需要のいわば「自然増」の結果である。日本においてスマートグリッドを導入した結果、電力流通市場は現在と同程度と筆者は予想する。

日本の情報通信産業の実質国内生産額

【図表1】日本の情報通信産業の実質国内生産額

その根拠は簡単である。スマートグリッドは電力の需給を最適化する、いわば省エネのためのネットワークだからだ。スマートメーターを導入して電力需要を「見える化」すれば、それだけで無駄な電力が節約されて需要は減るし、Demand Responseによって確実にピークシフトを実現したとしても、それは電力需要総体を増やす話ではない。また電力料金は、ピークシフトに誘因を与えるためにDynamic Pricingになり、平均すれば低下するはずだ。再生可能エネルギーを利用した分散型発電の大量導入についても、それが火力発電に置き換わるから地球温暖化対策上、意味があるのであり、発電電力量が増加してもらっては困る。インターネットは、情報そのものを運ぶ通信網であった。だからこそインターネットが普及すればするほど、情報流通量も飛躍的に増大した。しかしスマートグリッドは、通信網である以前に電力網である。電力流通の量的増加という点において、スマートグリッドは力を持つどころか、それを効率化という名の下に抑制する方向に働くのである。

確かに日本でも、自然増の余地はある。発電電力量は戦後一貫して伸びており、最終エネルギー消費における「電気化率」も20%を超えるまでに高まってきた。環境制約上、今後とも電気化率が高まると想定され、特に運輸部門では、プラグインハブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)が普及し、ガソリンが電気に置き換わることが期待されている(*1)。一方で筆者の試算によれば、全てのガソリン車がEVに置き換われば、この動力源として2000億kWhの電力が必要になるが(*2)、これは現在の発電電力量の20% に過ぎない。しかも多くの自動車メーカーは、この状況が12年後に実現するとは予想していない(*3) 。勿論、日本では今後人口が減少するし、高い経済成長も期待できない。従って、限定的な自然増と料金低下が打ち消し合う形で、12年後も現在と同程度の市場規模と予測できるのである。

3.スマートメーターは置き換え需要が中心

第2の違いは、インターネットは端末としてのパソコンや携帯電話の普及に大きく貢献したが、スマートグリッドはスマートメーターの普及拡大に本質的には貢献しない点である。アメリカではスマートメーターの設置ブームが起きており、欧州でも各国が全世帯への導入を国家目標として掲げている。日本でも遅ればせながら、関西電力や東京電力がスマートメーターを導入して実証実験を始め、経産省は2020年代の出来る限り早い時期に全世帯に普及させる目標を掲げた(「資源エネルギー政策の見直しの基本方針」(案))。このように、スマートグリッドの分かりやすい入口としてスマートメーターが高い注目を集めているが、筆者はその市場規模は限定的と見ている。

その根拠は、現在議論されているスマートメーターは、既存の電気メーターの置き換え需要の域を出るものではないと予想されるからだ。やはり新興国の「自然増」は別になるが、日本やアメリカといった先進国では、当然のことながら電力そのものはほぼ全世帯に供給されており、従って機械式の電気メーターは既に設置されている。計量法19条に基づき、10年に1度これを取り替えて検定を受けることが義務付けられており、電気メーターは現在でも10年の周期で全て置き換わる計算になる。今イギリス政府も2020年を目標とするなど、各国政府は10年程度の期間をかけてこれを置き換えると言っているが、それはこれまでの電気メーターの更新速度と変わらない。とは言え、単価が何倍にもなれば市場規模は大幅に拡大するが、スマートメーターの価格については、商業生産開始当初は3万円といった声も聞こえるものの、量産化が進めば現状と同じ1万円あるいはそれ以下になるとも言われている。アナログの電気メーターをデジタルにして通信機能を付けても、日本ではその市場規模は拡大しないのである。

4.スマートグリッドの本質はサービス化

このように、スマートグリッドはインターネットとは異なり、ネットワークの流通量としてあるいはインフラ・ハードとしては、電力市場の規模拡大をもたらさないと予想される。それが、日本の電力会社がスマートグリッドに対して慎重な理由の1つでもある。しかし、だからこそ、このイノベーションの本質はサービス化にあることが見えてくる。インターネットも本質的にはそうであったが、特にスマートグリッドはサービス化が進んでこそ、その威力が発揮されるのである。

そもそも(一般)電気事業とは、電力会社が家庭などの利用者に対して「一般の需要に応じて電気を供給する」(電気事業法2条)「サービス」業と言える。しかし、その「サービス」とは、少なくとも日本では、ユニバーサルサービスの名の下に価格や品質において競合他社と差別化されたものではなく、利用者は地域独占体制の下で「サービス」事業者を選択できない。勿論その裏返しとして、電力会社には安定供給義務(同法18条)が課せられているのであり、実際日本では諸外国と比べても殆ど停電が起きず、利用者は公益事業ならではの便益を享受しているとも言える。しかし今後は、電力というコモディティを一方的に供給するだけだった「サービス」が、多様な選択肢を含む真のサービス業に生まれ変わることになる。

例えば、アメリカで盛り上がっているAMI(*4)の上では、BEMS/HEMS(*5)といったサービスが供給されようとしており、SSNやGridPointといったベンチャー企業が開発競争を繰り広げている。利用者にいつでも好きなだけ電力を使ってもらうのではなく、ピークシフトに貢献するスマートな使い方をすることで電気料金を下げるアドバイスが、サービス事業者によってなされようとしている。あるいは、通信機能を備えたスマートな家電を結んで、そのような使い方が自動的に実現されることも想定されている。

当然そのようなサービスは、供給する事業者によって内容が変わるし、同じ事業者でも内容が変われば(サービス)料金も変わることになる。インターネットにおいて、情報流通そのものを司るキャリア以外にISP(*6)などと呼ばれるサービス事業者が多数参入し、接続料金だけでなく関連ソフトやセキュリティ対応においてサービス内容を競っているように、電力サービスも選択の余地が広がるのである。これらの新たなサービスは、電力そのものを供給してきた電気事業者によってなされても構わないが、サービス専門事業者に対して市場が開放され、公正な競争が生じることが重要である。これが、本稿で言うサービス化である。

5.キラーアプリの鍵を握るEV

サービス化は、省エネやピークシフトを目的としたものに止まっていれば、その市場は限定的であろう。電力の利用方法が多様化され、様々な楽しみや利便性を生み出すものになることにより、サービスの市場規模も拡大する。その鍵を握っているのが、EVという新たな電力需要にあると思われる。日本の自動車保有台数は8,000万台に近い(*7)。これらの半分がEVになっただけでも、4,000万台もの「大型電気機器」が電力網に接続されることになる。その電力消費量は前述の通り限定的かもしれないが、それら自律的に移動する(モバイル)需要への供給、即ち充電を、いつどこでどのように行うかを最適化するには、膨大な情報の助けが必要であり、それこそサービス事業者の腕の見せ所である。

そのような電力に関する情報を消費行動に結び付けるサービスも考えられる。例えば、様々な関連機器を扱う充電スタンド店が、頻繁に立ち寄ってくれるEVのリチウムイオン電池の使用状況を踏まえて、新型の蓄電池への買い替えを提案すれば効果的だろう。あるいは、充電スタンドを併設した食品スーパーが、通信網としてのスマートグリッドを利用して充電料金の割引を提示することで、EVに乗った顧客を呼び込むことを考えるかもしれない。コンピュータのネットワークとして始まったインターネットに携帯電話が繋がり、「ケータイ」から発信されたブログがアクセスを集め、これに広告が掲載されているように、EVはスマートグリッドに繋がることにより、キラーアプリを生み出すのである。

多様なサービス事業者が参入し、サービス内容を競うようになって初めて、関連するハードウェアの市場も拡大する。スマートメーターは置き換え需要が中心と前述したが、日本の世帯数は変わらなくてもEVは同程度に増加すると見込まれ、これらにはスマートメーター的な機能が必要になる。同様に、各地に設置される充電設備にも、各家庭に設置される太陽光発電にも必要になる(*8)。更に、ただ「見える化」するだけのスマートメーターは1万円だとしても、EVの利用者に代わって最安値の充電スタンドを瞬時で検索すると共に、変動する電力料金とEVの残存蓄電量を踏まえて自動的に買電と売電(V2G)を繰り返してくれる、高性能のスマートメーターは、3万円でも買い手があるかもしれない。この段階になれば、最早「メーター」という名称は適当ではないだろう。住宅の壁面に据え付けられる電気メーターの既成概念に縛られない、電力の流通を監視して利用のあり方を最適化する機器、あるいは半導体チップやソフトウェアの市場は、何倍にも拡大することが予想される。更に将来的には、ITの世界でクラウドコンピューティングが勃興しているように、メーター側にインテリジェンスを置かず、通信網としてのスマートグリッド経由でこれらサービスが提供されるかもしれない。

このようなアイデアは、全てインターネットのアナロジーから容易に想像できることである。インターネットが登場する以前の電話会社は、ほぼ全てのインフラを自前で用意し、人が1対1で喋るだけの固定された「サービス」を、規制料金で提供していた。そのインフラを他のサービスのために、他のサービス事業者が利用することは想定されていなかった。そのため、電話線をコンピュータ・データが流通する、そのサービスをコンピュータ・メーカーが提供するとなった時に、規制改革が大きな政治的争点になった(*9)。しかし、政府の規制を原則として受けないインターネットの登場により、そのネットワークは開放されてパソコンでも携帯電話でも自由に接続できるようになり、無数のサービス事業者が参入し、その上で電子商取引を始めとした多様なサービスが花開いた。その結果が、前述の棒グラフの情報サービスの部分(網掛け)であり、1995年から2007年の間に3倍に伸びている。同様の変化が、即ち、ネットワーク・インフラが開放され、そこに多様な事業者が参入するサービス化が、これから電力システムにおいても発生するのである。その意味において、やはりスマートグリッド=インターネットなのである。

6.今後の展開:市場自由化の必要性

だとすれば、サービス化が進展しなければ、スマートグリッドは電力システムに本質的な変化をもたらさないことになる。家庭の電気メーターがスマートメーターに置き換わり、分散型発電やEVが多少普及ししても、ネットワーク・インフラが開放され、その上で新サービスが展開されるようにならなければ、スマートグリッドの市場規模は殆ど拡大しないし、利用者にとってのメリットも乏しい。電力会社にとっても、ピークシフトが実現したり新たなビジネスが拡大したりしなければメリットは乏しく、スマートグリッドはインターネットのようなイノベーションとは言えなくなる。

それでは、日本はサービス化を世界で主導できるだろうか?まず一般的に、日本企業はハードウェアの製造には強みがあるが、サービス化は苦手と言われている。インターネットの時にも、光ファイバーや半導体の特定の精密部品の分野では競争力を持ち続けたが、水平分業化されたコンピュータ産業ではソフトウェアなどに付加価値の源泉が移り、アマゾンドットコムやイーベイ、更にグーグルといった新たなサービス分野では、完全にアメリカの後塵を拝してしまった。これは、日本人の文化的な要因もあるかもしれないが、日本企業の意思決定の遅さやリスクを取らない姿勢、ベンチャー起業の難しさといった要因も大きい。実際、冒頭で示したスマートグリッドに対する日本企業の盛り上がりについても、既存の製造業が中心であり、ベンチャー企業によるサービス事業への参入は皆無といってよい。

次に、サービス化が進展するためには、電力市場が広く自由化されなければならない。風力発電の事業者が容易に送電網に接続でき、多様な発電事業者の競争の結果、電力料金が日々需給に応じて変動し、通信網としてのスマートグリッドがサービス事業者に開放され、電力需給情報が電力会社の独占でなくなる。また電気メーターの規格が標準化され、誰でも多機能な、あるいは廉価なスマートメーターを自由に製造・販売できるようになり、EVからの売電にも支障がないようになる。これらの多くは技術の問題というよりも、政策の問題である。そして欧米諸国では、既にこれら問題のいくつかは解決されているか 、解決に向けて取り組もうとしているのに対して、日本では自由化が進んでいない。

日本はインターネットの普及において、政策面でも後れを取った。独占的事業者の影響力が強大な通信市場を前提とし、地域網の「接続」問題の解決に10年以上の月日を費やす一方で、オープンなネットワークの上でサービス化の競争を促進するという発想になれず、省庁間で縄張り争いをするばかりで、サービス事業者の新規参入は阻害されてきた。その間に、アメリカのベンチャー企業を中心としたサービス開発競争は瞬く間にグローバル化し、ルーターなどのハードウェアも含めて世界市場を席巻してしまった。

スマートグリッドにおいて、その二の舞にならないようにするためには、産業界のプレーヤーの認識もさることながら、政策担当者の責任が大きい。個別の省庁に任せて部分最適に陥るのではなく、内閣としてこのイノベーションの本質を見極め、電力市場の自由化を含めて包括的な政策を展開することが欠かせない。鳩山内閣は、温室効果ガスの25%削減といった理念は先行しているが、オバマ政権などと比べて、スマートグリッドを中核とした現実的な成長戦略が見えてこない。海外との主導権争いにおいても、スマートグリッド=インターネットとならないように願いたい。

注釈

(*1) 資源エネルギー庁(2009)『エネルギー白書』によれば、2007年度の家庭部門の電気化率は45% に達するが、運輸部門は2%に過ぎない。

(*2) 三菱自動車のEVであるiMiEVが1km走行するのに125Whの電力、これのベース車であるiは1/18.6ℓのガソリンを必要とするので、換算比率は2.325kWh/ℓとなる。資源エネルギー庁の「総合エネルギー統計2007」によれば、2007年の最終エネルギー消費は乗用車用石油製品が5035万kℓ、貨物自動車/トラック用が3478万kℓであるため、これらの単純合計が上記の比率で電力に置き換わると仮定すれば、2.325×851.3億≒2000億kWhの電力需要が生じる。

(*3) 日本政府は、温暖化対策を踏まえ、2020年の「次世代車」の国内販売比率が20~50%になると目標を立てているが、日本自動車工業会の青木会長は、これですら「かなり高い数値で(実現は)厳しい」としている。日本経済新聞(2010年4月24日)。仮に2011年から16年の販売比率が10%、2017年から22年の販売比率が20%、新車の年間販売台数が500万台で推移するとすれば、2022年末の時点で「次世代車」の合計は、500万×(10×6+20×6)/100=900万台と、全保有台数の11%に過ぎない。

(*4) Advanced Metering Infrastructureの略称。スマートメーターを中心として家電などと電力会社とを結び、電力の利用状況を監視し、遠隔検針などを可能とする通信網のこと。

(*5) Building Energy Management System/Home Energy Management System の略称。ビルや住宅について、機器・設備の運用を総合的に管理し、エネルギー消費を効率化するシステム。

(*6) Internet Service Providerの略称。

(*7) 自動車検査登録情報協会によれば、貨物や軽自動車、二輪を含む自動車保有台数は、2010年2月現在で7911万台である。

(*8) 現状でも家庭が太陽光発電を設置すれば、買電用の通常の電気メーター以外に売電用の電気メーターも設置されている。

(*9) 1980年代のいわゆるVAN(Value Added Network:付加価値通信網)戦争では、電気通信事業法のあり方を巡って、郵政省と通産省が族議員も交えて激しく対立した。

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高橋主任研究員顔写真

高橋 洋(たかはし ひろし)
【略歴】1993年 東京大学法学部卒、ソニー(株)入社、1999年 タフツ大学フレッチャー大学院修了、2000年 内閣官房IT担当室主幹、2007年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2009年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、成城大学非常勤講師、(株)富士通総研経済研究所主任研究員
【著書】『イノベーションと政治学 情報通信革命〈日本の遅れ〉の政治過程』勁草書房 2009年