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  4. 企業における環境経営の動向と課題 ~環境・CSR報告書の調査より~

企業における環境経営の動向と課題

~環境・CSR報告書の調査より~

2010年2月1日(月曜日)

1.はじめに

環境問題のグローバル化やステークホルダーの要求増加により企業の社会的責任が増大し、法令対応に留まらない自主的かつ積極的な取り組みが求められている。

富士通総研では、独自に開発した「環境経営フレームワーク」(注1)を用いて、各社が公表している環境・CSR報告書を調査し、各社の環境経営の実態と課題の抽出を行っている。今回は東証33業種の売上上位企業70社の2009年度環境・CSR報告書を対象にした調査結果について報告する。

2.各社の取り組みの傾向

温暖化対策は調査対象のほとんどの企業で何かしら取り組みがされており、新エネルギーを導入している企業も6割程度に上る。取り組み内容は、製造業では製造プロセス改革や製造設備の省エネ化、新エネルギーの導入、卸・小売業では物流拠点の統廃合や輸送車両の大型化、ルート最適化による省エネ推進が多く見られる。また、電気や石油・石炭製品、鉄鋼などCO2排出量が多い企業ではクリーン開発メカニズム(CDM)や排出量取引試行への参画などオフセット(相殺)による削減にも取り組んでいる。一方で金融や小売など非製造業は排出権付きの商品やサービスを提供するなど、オフセットビジネスに取り組む企業も増え始めている。

廃棄物削減と化学物質管理は法規制の強化に伴い、製造業は各社対応を強化している様子が見られる。特に化学物質管理については、欧州のREACH規則やRoHS指令により多くの物質についてより細かな情報管理が求められており、グローバル企業ではサプライチェーン全体で化学物質の情報管理の仕組みを整備することが喫緊の課題となっている。

また、最近の傾向として「生物多様性」への対応を掲げている企業が徐々に増えている。但し、「生物多様性」への対応として植林活動などのボランティアを掲げている一方で、自社事業エリア内における活動が十分でない企業も多くある。それらの企業では活動の優先順位付けが出来ておらず、“分かりやすい”、“取り組みやすい”活動として取り組んでいると思われる。

このように各社積極的に取り組みを進めているようであるが、個別の取り組みを支える環境マネジメントの実態について次に見ていく。

3.環境マネジメントの実態と課題

環境マネジメントについては、環境経営フレームワークで定義している「環境経営基盤」、「環境活動の評価と対応」、「情報と伝達」、「モニタリング」、「ITへの対応」の5つの要素に分類して見ていく。

環境マネジメントの実態

【図表1】環境マネジメントの実態

拡大イメージ (108 KB)

  • 環境経営基盤
    業種を問わず、各社とも環境方針や目標を設定するとともに、環境委員会や環境担当役員の設置など、全社活動に必要な環境は整っている。ただし、一見活動環境が整っているような企業でも、比較して見ていくと方針や組織体制が親会社や国内に限定されていたり、目標設定も単年度のみで中長期目標が設定されていないなどの課題も見られる。
  • 環境活動の評価と対応
    製造業を中心に環境関連法規制への遵守状況(違反件数や苦情件数等)の情報開示は行われているが、各社が取り組んでいる活動の網羅性や妥当性に対して疑問の余地がある。例えば、環境活動の範囲という観点では、半数が自社の活動に伴う影響を自社の事業エリア内に限定している。
  • 情報と伝達
    製造業を中心に7割の企業がマテリアルバランスや環境会計の形で環境負荷情報や環境 活動のコストと効果を定量的に開示している。但し、開示情報の範囲やレベル感にはバラツキがある。
  • モニタリング
    内部監査について明示されていない企業は4割に上る。内部監査を行っている6割の企業に関してもISO14001の認証審査対応が多く、全社的な内部監査を実施している企業はまだ少ないと思われる。また、外部の第三者機関による客観評価を採用している企業は3割に留まり、信頼性という面では課題がある。
  • ITへの対応
    ITを環境情報の管理に活用している企業は、製造業における化学物質管理システムを中心に3割程度に止まる。しかし、「地球温暖化対策基本法」が制定されれば、国内排出量取引や排出量情報等の公表など、企業として、エネルギー消費量のより正確な管理が求められ、IT活用の場面は増えてくるであろう。

以上、5つの要素毎に実態と課題を見てきたが、総じて言えることは、各社の報告書の記載レベルがバラバラであり、この実態から推察するに各企業は環境問題への取り組みにおいて、“何をやるべきか”、“どこまでやるべきか”の判断が曖昧になっていると思われることである。しかし、ビジネスのグローバル化や規制強化、ステークホルダー要求の増大による環境リスクの変化に柔軟に対応し、事業活動と環境活動を両立させるためには、あるべき姿の全体像から考えるフレームワークのアプローチが必要である。次節では、見えてきた課題の中から今後対応が必要と思われる「環境活動に関する定量情報の開示」と「環境経営のスコープ」について考える。

4.見えてきた環境経営の課題(1):環境活動に関する定量情報の開示

環境会計は外部のステークホルダーとのコミュニケーションを取る上で重要なツールと捉えているが、開示内容を見ていくと、環境保全コストは記載されているが、それに対応する環境保全効果(具体的にはCO2排出量をxxトン削減した等の数値情報)の開示が出来ていない企業は3割ある。開示が出来ている企業においてもコストと効果の対比がされておらず、環境活動を評価するには情報が十分とは言えない。また、経済的効果(貨幣価値へ換算した数値情報)に至っては半数が開示しておらず、事業活動への貢献度が不明確である。

環境関連の対応コスト増などの環境問題を要因とする財務リスクが増大しつつある中、環境活動に係るコストと効果はステークホルダー、特に株主・投資家の注目するところとなっている。グローバルな動きを見てみるとCDSB(注2)が中心となって気候変動リスクに関わる情報を有価証券報告書で開示するフレームワーク作りが進んでおり、欧米の投資家はこのフレームワークを活用した情報開示の制度化を求めている。このように環境情報は財務情報と同様に外部のステークホルダーにとって重要な経営情報となりつつあるが、現状の各社の開示レベルでは、必要な要件を満たしているとはいえないだろう。

5.見えてきた環境経営の課題(2):環境経営のスコープ

「環境活動の評価と対応」では環境リスクを認識する際のスコープも重要な要素として定義しているが、「グリーン購入・調達」や「製品・サービスにおける環境配慮」に関する方針を掲げていない企業が半数に上っていることを踏まえると、スコープの考え方に疑問が残る。マテリアルバランスや環境会計の開示範囲も事業エリア内に限定している企業が多く見られる。トップメッセージや環境理念では、サプライチェーン全体での環境活動を掲げている企業においても、行動計画への落とし込みや活動の定量情報の開示が出来ていないケースが多い。

しかし、企業の環境負荷の影響は自社の事業エリア内だけでなく、調達先や顧客・消費者の活動にまで及んでいるのであって、企業の責任範囲をサプライチェーンに拡大して捉えるという考え方が主流となっている。例えば、廃棄物に関しては拡大生産者責任の考え方が導入され、リサイクル法に適用されている。カーボンフットプリントの制度化も、商品・サービスのライフサイクルを通しての温室効果ガス排出量の見える化により、消費者や事業者によるCO2排出削減を促進しようという取り組みである。

企業は環境活動の計画を策定する際には、自社の事業活動を中心にサプライチェーン全体を俯瞰しながら、何処にどんな環境リスクがあるかを棚卸すべきである。富士通総研では、この環境リスクの棚卸において、リスクマネジメントで使われるリスクユニバース(注3)の活用を推奨している。このリスクユニバースを外部環境(例えば、気候変動政策の強化や投資家の情報開示の要請等)に合わせて見直していくことで、外部環境変化への柔軟な対応も可能になる。また、定量的な評価を行うためには、LCAの手法を取り入れ、製品・サービスの原材料採取から製造・使用・リサイクル・廃棄処分までライフサイクル全体での環境負荷の計算と評価を積極的に行うべきである。

リスクユニバース

【図表2】 リスクユニバース

6.まとめ

ISO14001の認証件数はこの数年横ばい状態が続いており、新規件数では昨年初めて純減となった。各企業からは「ISOを取得したはいいが効果は疑問。止めてしまおうか?」、「現場部門・個人の意識が高まらない」、「取り組みが場当たり的で、妥当性・網羅性に懸念あり」との声も聞こえてくる。今回の調査結果とこれらの声を併せて考えると、環境経営は曲がり角に来ているのではないだろうか。経営者は環境担当組織の設置や社員教育、ボランティア活動など、現場では昼休みの消灯やPCの省エネ設定、紙の一律削減など色々行ってはいるが、“何をどこまでやれば十分か”がわからず、従ってISO活動もマンネリ化の傾向にある。

気候変動問題が世界的な注目を浴びている今、再度原点に立ち返って、フレームワークに沿った形で自社の環境経営の姿を見直すべきではないだろうか。地球温暖化対策基本法や省エネ法の改正等々、ますます規制が厳しくなっていくことを捉え、ビジネス環境変化への対応を今から進めておくことが肝要と考える。

注釈

(注1) COSO(Committee of Sponsoring Organizations of Treadway Commission)が提唱する内部統制やERM(Enterprise Risk Management)を実現するためのフレームワーク、GRI(NGO“Global Reporting Initiative”)の提示するCSRにかかわる報告のためのガイドライン、富士通グループにおける環境活動の実践などを参考に開発。

(注2) Climate Disclosure Standards Board(気候変動関連情報審議会)は、気候変動に関する正確かつ標準化された情報の開示に対するニーズの高まりを受け、2007年のダボス会議で発足したパートナーシップ。

(注3) 環境保全活動に関するリスクを事業プロセスと環境側面の2軸上で明らかにしたもので、企業の環境への取り組み全体を俯瞰するために用いる。これにより、環境への取り組みの網羅性を高めるとともに、どのプロセスに注力すべきかの見える化が可能。

関連サービス

【環境経営】
富士通総研では、環境負荷低減と経済価値向上の両立を実現するため、経営の視点でお客様の環境活動を評価し、改善提案を行うコンサルティングを提供することで環境経営の継続的な高度化を支援します。


藤本健

藤本健(ふじもと たける)
(株)富士通総研 内部統制事業部 シニアコンサルタント
1996年富士通(株)入社後、コーポレート部門、コンサルティング事業本部を経て、2008年より富士通総研へ出向。環境経営や内部統制などのリスクマネジメントに関するコンサルティングに従事。