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不可能ではない二酸化炭素排出量の25%削減(3)

~東アジア共同体で排出権取引制度を目指せ~

2010年1月3日(日曜日)

排出権取引はCDMとは違う

1997年の京都議定書には、CDM(Clean Development Mechanism)という、外国で省エネ事業を実施する場合にはそれによる削減を自国のものとみなす仕組みがある。日本は京都議定書の削減目標を達成するため2012年までに総計で4億トンの排出量の購入を予定している。ほとんどは中国からの購入で、そのコストはトン当たり15ユーロとして1兆円弱の負担をすることになる。だが、CDMは具体的な発電などのプロジェクトを政治、経済情勢が不安定な途上国で実施ししなければならず、かつ国際機関の認定を受けなければならず、コストも高く使い勝手が悪い。日本の資金で植林事業を起こしたのはよいが、その隣で現地企業が新たな伐採を始めたというような話もあり、我が国の産業界からは評判良くない。

国際的排出権取引(C&T)は、これとは大いに異なる。先進国ではすべてC&T制度が確立されるので、これを連結することができれば、日本としてはカナダや豪州、東ヨーロッパの安い排出権を購入することができ、25%を削減するコストは大幅に下がる。彼らが最も適当な方法で削減してくれればよく、特別なプロジェクトを実施する必要はない。現在、ヨーロッパの排出権価格は15~30ユーロだから、日本国内だけで25%削減する場合の10分の1くらいのコストだ。日本が大量に買いに回れば価格は急騰するという懸念はある。しかし、日本の排出量は世界の4%に過ぎず、それほど大きなインパクトを持つはずはなく、ロシアや東ヨーロッパには安価な省エネの機会は多く、排出権の供給も増えてくるであろう。何よりもEUや米国など他の先進国と同じ条件で排出権が購入できることになり、産業界が心配するような、日本企業だけが不利な条件で競争させられる、という問題が解決できることが重要だ。

発展途上国にも参加を呼びかけるべき

国際的C&Tはさらに発展途上国に広げていくことが可能だ。世界全体として二酸化炭素の排出量を減らしていくためには、発展途上国も含め、各国政府が責任を持って国全体の排出量を削減していくことが不可欠だ。米国が今回のコペンハーゲン会合で第三機関による検証に固執したのは正しい。大気汚染、砂漠化、水不足、国土の水没などで苦しんでいるのはむしろ途上国だから、合理的な負担関係ができれば、彼らにも参加可能なグローバルな排出権取引制度が可能だ。途上国では発電所のボイラーが古くなって穴が開いて蒸気が大量に漏れていたり、溶鉱炉の隙間から炎が噴き出しているなどの話をよく聞く。これらの穴や隙間をふさぐだけで大きな削減が実現できるであろう。コストはほとんどゼロだ。この削減量を市場で売却すれば対価を得ることができる。すなわち、これらの国は新たな輸出産業を得ることになる。彼らにとっても魅力ある仕組みではないか。ただし、そのためには彼らに国際的な枠組みに参加してもらうこと、すなわち国別に計測可能なコミットメントが前提となる。かかる約束のない国との間では排出権の取引をしても、相手側がその量の排出量削減をしたかどうかの検証が得られないため制度は機能しない。

東アジア共同体の具体的協力案件として推進すべき

東アジアの国々には日本は排出権の「いいお客様」という見方があるそうだ。であるならば、顧客としての力を十分発揮すべきだ。実は国際的な枠組みが出来れば日本よりも米国やEUのほうがはるかに大きな買い手になるから、これら先進国が団結して国際的枠組みに入るよう働きかければ、彼らも真剣に検討するのではないか。日本はそのような説得をすべきだ。先のCOP15で日本は目に見えた役割を果たせなかったようだが、それは自国の削減量と資金援助についてのみしか語らず、国際的な枠組みについて具体的な提案をしなかったからではないか。アジアにはこれから排出量が急増する国が多い。彼らを含めてC&Tについての何らかの枠組みが出来れば、地球温暖化交渉は大いに前進する。逆に枠組みに入らない国からは買わないことを明確にすれば、それらの国が参加するインセンテイブになる。幸いこの地域には豪州やニュージーランドといったC&Tを実施する国がある。彼らと協力する余地は大いにあるはずだ。

現時点ではEU、日本、米国とも、独自の判断で削減目標を決めている。これでは公平性は確保出来ない。客観的に各国の排出量を決める方式は何か。現時点でのGDPの大きさや排出量で比例配分するという考えもあるが、これではこれから発展する国からは不公平だとして受け入れられそうにない。筆者は人口比で割り当てるという考えがよいのではないかと考えている。その場合、わが国のみならず、先進国にとっては割り当て量は少なくなり不利だ。逆に人口の多いインドやインドネシアなどで相対的に多くの割り当てがなされることから、現在必要な量以上の割り当てを受けることがありうる。これこそ発展途上国にとり国際的な枠組みに参加するインセンテイブになる。その場合、何ら削減努力をせずに、排出量を輸出することができ、ホット・エアといわれる問題が起こる。しかし、世界全体の排出量は2020年、2050年の目標に向かって引き下げられていくので、このような国も割り当てられた量は減少し、問題は短期間で解消するであろう。発展途上国から見れば、低コストで削減できる余地は大きく、新たな輸出産業を得ることになるので、このスキームに魅力を感じるはずだ。我が国としては東アジア共同体の具体的行動として推進していくことができるのではないか。

セクターアプローチは排出権取引とあわせることで実施可能に

鉄鋼や電力、セメント、紙・パルプなど、産業ごとにエネルギー効率を上げるための最新技術を遅れた発展途上国の産業に移転していくことで世界全体として二酸化炭素の排出量を削減しようというのがセクター(業種別)アプローチだ。APEC地域では2005年から主要セクター毎にタスクフォースが形成され、技術的検討が進んできた。これは、もともと京都議定書から離脱した米国があまりに後ろ向きとみられることを避けるために打ち出したもので、我が国でも産業界を中心に熱心な支持がある。しかし、その成果と言えば、技術的な検討に限られ、誰が、どのような技術を、誰に対して、どのようなスケジュールで移転するのか、という技術移転のための具体論は何も決まっていない。最も重要な話、すなわちコストはだれが負担するのか、は議論にもなっていないようだ。その後、米国でオバマ政権が成立し、C&Tに向けて大きく舵を切り、セクターアプローチには熱心ではなくなっている。

オークションで得られる収入で途上国支援を

もとよりセクターアプローチでは、いくつかのセクターしかカバーできず限界がある。またセクター間の公正が確保されず、省エネの進み具合が不均衡になるなどの欠陥があるので、C&Tや環境税といった一般政策の代替案にはならない。コペンハーゲンでの会合でも、ほとんど議論にならなかったようだ。ただし、鉄鋼などの特定分野で、省エネ技術の移転が進むことは好ましいことであり、C&Tと並行して補完的に使えば効力を発揮すると思われる。特に排出権のオークションにより収入が得られれば技術移転のための財源が確保できる。

環境税との重複は避けるべし

C&Tは市場メカニズムを使いながら排出量を減らすことを目的としている点で環境税と共通点が多い。ただし、環境税ではどの程度削減できるか事前にはわからないという欠点がある。この2つの制度を併存させることは二重規制になるので政策として好ましいことではない。本年はわが国でも環境税の議論が本格化する模様だが、この点十分配慮する必要がある。現在EUでは2つの制度が並行して採用されているが、それは排出権の大半が無償配分されているからだ。将来、オークションが全面的に採用されるようになれば、環境税はフェーズアウトしていくのではないか。政府の立場からすれば、環境税収入が排出権売却による収入に置き換わることになるが、C&Tの方が国全体のコストは少ないはずなので、政府の税収は減ることになる。これは財政当局にとっては不都合化もしれない。政府が環境税を好むのはこのためではないか。

日本は積極的に原油、石炭の消費量を減らすべきだ

国内では我が国の削減量をできるだけ小さくするべきだとの考えが支配的だ。勿論、このような考えは日本だけではない。今回のコペンハーゲン会合は自国の削減量をいかに少なく、他国に多く負担させるかというせめぎあいであった。だが、将来を見通せば、できるだけ石油や石炭に頼らない経済に今から構造転換した方が日本のためになる。IEA の見通しによれば、現状のまま推移すれば、原油価格は2030年にはバレル当たり200ドルにもなるという。2008年度の日本の原油輸入額は14兆円だが、輸入量が減らないとすれば、2030年には28兆円になる。他方で、わが国の輸出額は長期的に低落傾向にあり、今後とも産業の海外移転が進むことやアジア企業の競争力強化などで日本の輸出は減り続けるであろう。とすれば、現在の水準で原油を輸入し続けることは国際収支の観点からも無理だ。米国が国際収支やドル相場の維持に苦しんでいるのは、エネルギー節約を怠ったため、石油の輸入が増え続けているからだ。省エネ、新エネ利用は日本経済の将来のためにも不可欠の課題なのだ。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2009年 取締役 エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など