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どのような成長戦略が求められているのか?

~法人税引き下げは意味あるのか?~

2009年11月12日(木曜日)

このところ日本経済の先行きが再び不安視されている。株価は下落し、デフレ傾向が顕著になっている。経済政策は混迷し、来年には二番底を心配する人が増えている。そして、全ての原因は民主党政権に成長戦略がないことだ、と喧宣されている。だが、政府が成長戦略を作れば経済は良くなる、というのは余りにも単純な議論ではないだろうか。そもそも市場経済の下で政府の戦略というのはどのような意味を持つのだろうか。そして、今までの日本にはそんなに立派な成長戦略があったのだろうか。大いに疑問である。経済はそんなにコントロール可能ではないし、政府の政策は大戦略に基づくというよりも、その時々の状況への対応の積み重ねと考えたほうが的確だ。

供給サイドから需要サイドへ軸足をシフトする成長戦略

とはいえ、マニフェストからはある程度のことは明らかになってきている。自民党政権は戦後一貫して経済の供給サイドを強化することで成長を実現してきたが、その結果、消費が抑圧されてきた。その痕跡は現在でも明らかだ。日本のGDPに占める設備投資の割合は15%と、他の先進国の10%よりかなり高い反面、消費の割合が60%と低い。輸出や公共事業が高いのも特徴だ。民主党政権がこれを逆転させ、消費中心の成長を目指しているのは明らかだ。子育てや教育に10兆円以上の金を投入するのだから、これからは消費関連産業が成長産業になるはずだ。

疑問ある法人税率引き下げ論

マニフェストには法人税率の引き下げは中小企業についてのみ18%から11%に引き下げるとあるものの、大企業については何も書かれていない。しかし、今後の議論で大企業の法人税引き下げが焦点になりそうだ。経済界は長い間これを主張してきたし、エコノミストの間でも法人税率の引き下げを支持する人が多い。理由は日本の法人税率は大企業の場合40%で、これは米国と同じだが、ドイツは30%、中国、韓国は25%程度となっており、今のままだと、法人税率の低い国に移転せざるを得ないことになる、ということのようである。

だが、筆者は法人税引き下げの効果を以下のような理由で疑問視している。まずは日本企業で法人税を払っているのは大企業で半分、中小企業では3分の1程度である。昨年度は景気が悪く黒字企業は29%だから、大半の企業は減税しても空振りになる。法人税を払っている企業は日本にいても十分収益を上げている企業であり、出て行く、行かないの議論をしているのは苦しい企業、すなわち法人税を払っていない企業だ。法人税率を下げても彼らを救えるわけではない。また法人税負担の重さは様々な控除などもあり、税率だけで議論しても全貌はわからない。日本の法人税収入のGDP比は4.8%とドイツ(2.8%)やフランス(4.0%)よりは高いが、米国(4.7%)や英国(5.1%)と同程度で、特に高いわけではなさそうだ。付け加えて言えば、日本では外国に比べて金利や配当性向が低く、企業財務にとっては有利な環境もある。

日本はすでに過剰なまでの設備投資をしている

より根本的な問題がある。法人税率を下げる狙いは企業の資金繰りを豊かにし、設備投資を促進させることにより成長を加速する、というものだ。だが、日本はすでにGDPの15%を設備投資に回しており、他の先進国よりも多くの設備投資をしている。ところが、このような高い設備投資にもかかわらず、日本の成長率は世界で最も低い。つまり投資が成長につながっていない。戦後長い間、日本企業の低収益性が問題視されてきたが、これも利益につながらない投資を続けてきたからだ。同じことは設備投資減税についても言える。設備投資はその時点では需要を構成するから成長を高めることにはなる。しかし完成してしまえば、供給力としてデフレ圧力を高めるだけに終わろう。わが国の問題は設備投資が少ないことではなく、むしろ設備の過剰なのではないか。なぜ投資が成長につながらないのか、法人税率の引き下げはこの点を解明した上でなされるべきだ。

議論すべきNational Innovation Systemのあり方

研究開発も同じだ。成長戦略の作成の過程で研究開発をいかに促進すべきか議論されるであろう。日本の研究開発費はGDP に対して3.4%と、これまた先進国の中では突出して多い。イスラエルやフィンランドなどの小国では日本よりも高いが、米国は2.7%、ドイツは2.5%と、わが国よりは大分低い。ただし日本の場合、国の資金の割合は15%程度と、かなり低く、民間企業頼りの構造なので、基礎研究がおろそかになるという弱みがある。

このような研究開発が経済成長につながっているかといえば、そうではないようだ。成長につながる技術開発をどのようにして進めていくべきか、企業は悩み続けている。数年前に技術経営(Management of Technology)議論が盛んに行われたが、はっきりした方向性が見い出せずにいる。先日の行政刷新会議での事業仕分けでも、科学技術予算の削減が主張され、これに対してノーベル賞受賞者らが反対の声明を出すなど、議論になっている。成長戦略という視点からすれば、研究開発資金を減らす、減らさないという議論もさりながら、どのような資金の使い方をすればよりよい成果が出るのか、検討すべきだ。筆者はOECDの科学技術産業局長をしていた頃、加盟国のNational Innovation Systemの比較研究をしたことがある。わが国の場合、国と産業界、大学の連携が不十分であり、資金の配分も硬直的、研究成果も十分に活用されておらず、評価制度が弱く、本当に伸び盛りの若い研究者が冷遇されている、という問題があることを指摘した。科学技術だからと言って聖域視するのではなく、このような問題を解決するために科学者、産業人を交えた検討がなされるべきだ。一般人は、なぜ日本にはマイクロソフトやグーグルのようなダイナミックな企業が現れないのか、疑問に思っている。

供給サイド効率化のために再度規制の見直しを

日本経済が再び成長力を回復するためには企業の成長力が高まることが不可欠である。主役は企業だ。政府のやれることはおのずと限られている。政府の施策に過大に期待すべきではないが、しかし政府には重要な役割がある。新政権の下では子育てや教育、医療に重点的に資源が投入される。とすれば、この分野が成長産業になり、雇用創出の中核を担うことになる。そのほか再配分政策を通じて個人消費が伸びることになるだろう。これらの分野で新しいビジネスが立ち上がって、様々な新ビジネスが出てくるであろう。だが、一般的に言ってこのようなサービス産業は製造業に比べて様々な規制を受けており、新規参入が難しい。農業も同様だ。やる気のある若者が既存の勢力に邪魔されて苦労している話は枚挙に尽きない。多くの場合、このような規制は消費者のためではなく、既存の事業者や業界団体などの既得権益を守るためにある。このような既得権益には新政権が排除したいとしている役人の天下り先になっていることも多い。小泉政権のとき規制緩和を進める気運が盛り上がったが、その後勢いが失せてしまった。あの時の議論を再度振り返って見るべきではないか。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2009年 取締役 エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など