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民主党25%削減目標に見るCOP15へ向けての我が国戦略

2009年10月16日(金曜日)

民主党新政権は、温室効果ガス排出量に関して「2020年までに25%減(1990年比)」と、麻生政権時代の「2020年までに8%減(1990年比)」(*1)と比較すると、大幅な削減目標を示した。この大幅な削減目標の設定に関しては、産業界を中心に景気に悪影響を与えるなど反対意見も根強い。富士通総研経済研究所では、かかる新政権の公約がわが国にどの程度の影響を与えるか、動学一般均衡モデルを用いてシミュレーションを行った。【図表1】は、主要国の中期削減目標を示しているが、主要国が全て京都メカニズムの活用、すなわち外国から排出権を有償で購入することを考慮しているのに対して、麻生政権時代の日本のみ途上国での削減を含まない自国のみでの削減目標(いわゆる真水)を示していた。これに対して民主党提案は諸外国と同様に排出権取引を積極的に導入することを考慮している点に注意が必要である。

【図表1】主要国中期削減目標
主要国中期削減目標

25%削減目標は「真水」で達成可能か?

鳩山政権の示した「2020年までに1990年比25%減」という目標は、排出権の国際的取引を考慮しているため、本試算においては、途上国での削減を自国削減にカウントするとした場合と国内努力だけで、換言すれば「真水」のみで達成した場合の比較を行う。

  1. 途上国での削減を自国削減にカウントする、すなわち国際排出権取引を前提とするシミュレーションでは、【図表2】に挙げる国が削減目標を達成すると仮定した。またそれ以外の途上国については削減努力をしないケース、すなわちBAU (Business-as-usual)からの削減分を排出権として先進国に売却することが可能と仮定した。この場合、排出権市場は完全に機能し、排出権の価格は世界で単一になる、と仮定した。
  2. 国際排出権の取引を前提としない削減シミュレーションは、主要先進国(日本、米国、EU、カナダ)が削減目標を自国内での削減のみで達成すると仮定した。
【図表2】主要国中期削減目標(*2)
主要国中期削減目標

海外削減の活用の重要性

1.真水のみでは過大な削減費用

削減費用であるが、自主削減のみでの削減費用は269.5ドル/炭素・トンと非常に高いもの(*3)となるが、途上国での削減を効率的かつ最大限用いた場合には、14.2ドル/炭素・トンと大幅にその費用は低下する。

【図表3】削減費用比較(2020年)
削減費用比較

2.海外削減活用で産業への影響は軽減

産業への影響を少し詳しく見てみよう。【図表4】は自国のみでの削減を行ったケース(自主削減のみ)と排出権取引を積極的に活用したケース(海外削減活用)の我が国産業別生産量への影響を示している。自主削減のみではどの産業においても生産量は低下するが、海外削減活用によりその影響は軽微、産業によっては微増に転じる。これは、世界全体で排出権について単一の価格が形成されることにより、削減費用が大幅に低下することと、エネルギー効率の高い我が国産業の国際競争力が高まることの結果である。

【図表4】我が国産業別生産量への影響(*4)
我が国産業別生産量への影響

3.海外削減の活用で日本の支払う金額

途上国での削減を活用する場合には、先進国は途上国から削減分を購入する必要がある。【図表5】は、削減分の売買によって生じる主要国・地域排出権売買収入を示している。中国は最大の排出権売却者であり、65億ドル程度の収入を得る一方で、EUが最大の購入者である。我が国の2020年単年の購入費用は12億ドルである。本シミュレーションでは、全ての国で費用の安い削減策から順次行われると仮定しているため、実際の移転費用はこの金額よりも高くなる可能性がある。

【図表5】主要国・地域排出権売買収入(2020年)
主要国・地域排出権売買収入

4.真水でどの程度削減すればいいのか?

途上国での削減を最大限活用した場合の我が国の25%削減の中身を示したのが【図表6】である。25%削減すればいいのではなく、2020年までにBAU(Business-as-usual)で増加する分に関しても削減が必要である点に注意が必要である。何も削減努力をしなかった場合(BAUケース)には2020年時点で1990年比11.3%増加するため、1990年比で25%削減目標達成には、2020年時点でのBAUからは1990年比36.3%の削減を達成する必要がある。世界全体での削減コストを最小にすることを考えた場合、わが国における削減分、すなわち真水部分は1990年比3.8%である。この数値の意味するところは、すでに大幅に省エネ化が進んだ我が国では低コストでの削減余地は限られている一方、途上国では低コストでの削減余地が非常に大きいことを意味している。中国、インドといった途上国を取り込み、世界規模での排出権取引を実現することがいかに重要かを示唆している。

【図表6】2020年25%減(1990年比)達成に占める真水分
2020年25%減(1990年比)達成に占める真水分

COP15へ向けて鳩山新政権の課題

以上をまとめると次のように言えよう。2020年までに自国内でのみ25%(1990年比)もの削減を行うことは、我が国が大きな負担を負うことになり、現実的ではない。低コストでの削減機会が幅広く存在する途上国での削減の取り込みが、我が国のみならず、世界経済と地球規模での温室効果ガス削減の達成において重要である。今回のシミュレーションでは、先進国の削減分を全世界で削減し、途上国のBAUからの削減分を排出権として認めているため、主要経済国フォーラム(MEF)で合意した「地球全体の平均気温上昇2℃以内」の合意を満たすには不十分な削減である。また、全ての国において安い削減策より導入が行われると仮定しているが、実際にはこの仮定通りに削減通りに行われるとは限らない。そのため、実際には排出権購入により資金の移転は本シミュレーションよりも大きくなる可能性があることに留意が必要である。

鳩山新政権は、12月にコペンハーゲンで開催されるCOP15へ向け、途上国での効率的な温室効果ガス削減実現が可能となる世界規模での枠組みを提案すべきである。

注釈

(*1):15%減(2005年比)

(*2):途上国はBAU(Business-as-usual)での排出を認めるものとする。BAUからの削減分は先進国に売却を行える。

(*3)EUA価格:€14.08/トン・CO2(2009年9月17日(point carbon調べ))

(*4)本シミュレーションでは、クレジット売却収入は削減を行った者に入るのではなく、削減を行った国の経済に一様に還流される。

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【調査・研究】


濱崎主任研究員

濱崎 博(はまさき ひろし)
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員
1995年 京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻気圏工学講座 前期博士課程修了、1995年 (株)富士総合研究所入社、1997年 MSc and DIC in Energy Policy, Imperial College Centre for Environmental Technology, Imperial College of Science, Technology and Medicine, University of London、同年 (株)富士通総研入社