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動き始めた包括的東アジア経済連携(1)

2009年8月21日(金曜日)

CEPEA 専門家会合の報告書

新聞報道でご存知の方も多いと思うが、去る8月15日、タイのバンコクにてASEAN 10カ国と日、中、韓、インド、豪州、ニュージーランド(NZ)の合計16カ国(ASEAN+6)の経済貿易大臣(ただし日本の二階経済産業大臣は選挙のため代理による出席)が集まり、東アジア包括経済連携(CEPEA, Comprehensive Economic Partnership in the East Asia) 構想に関する専門家会合の報告書を議論し、今後これを具体的に実現すべく、政府間の協議を開始することに合意した。筆者はこの専門家会合の議長として過去2年間、報告書の取りまとめに関わってきたが、一応責任を果たして一段落したところである。CEPEA の意義、この過程で起こった議論、今後に残された問題などについて私見を述べてみたい。

2つの報告書

話は2006年8月、東アジア経済大臣会合において、CEPEA構想について専門家による検討を行うことが合意されたことから始まる。このとき既にASEANと日、韓、中のいわゆるASEAN+3による自由貿易圏(FTA)構想の研究が2005年4月から専門家で進んでいた。構想の提唱者は中国であった。しかしながら、この専門家らが提案したASEAN+3によるFTA交渉を政府間で開始することについては各国から時期尚早ということで、もうしばらく専門家による研究を続けよということになった。結果的には中国が提唱していたASEAN+3によるFTA構想と、日本が後から提案したASEAN+6の専門家による研究が並行して進むことになり、外見的には日本と中国が東アジア統合に向けての主導権を争っているかの印象を与えることになった。後者については日本が提唱したこともあって日本から議長を出すことになり、経済産業省幹部から筆者に議長役を務めるよう要請があったものである。以来、合計10回の会合を経て報告書を取りまとめ、去る8月15日の経済大臣会合ではASEAN+3とASEAN+6の両方の専門家の報告を了承し、これからは双方の報告書に書かれた具体的提言を実現可能なものから順次、政府間で具体的に交渉していくことになった。

日中の確執

提言の中身に入る前に、そもそも2006年時点で中国と対立するようなASEAN+6構想をなぜ打ち上げたのか、私自身全て判っていると思っていない。だがASEAN+6には次のような意義があると考えている。

第一に、これからの世界経済で重きを増すのは中国とインドだ。世界貿易も環境問題もインドを除外しては考えられない。豪州、NZも政治的にも経済的にもますますアジアとの関係を深めているので、これら3カ国を含めるのはごく自然なことで、異存があるはずがない。

第二にインド、豪州、NZは経常収支赤字国だ。他のアジア諸国は大半が黒字であり、米国やEU への輸出で成長してきた。だが、そのような外需依存の成長が今回の世界経済危機で不可能であることがわかり、東アジアは域内での需要を高めていくことを求められている。インド、豪州、NZが包含されれば、全体としてより内需依存の構造が出来上がる。

第三に、産業構造的にも、これら3か国とその他アジアは補完関係的である。インドはITサービスで突出した実力を持っているが、製造業では弱い。中国や近隣アジア諸国はITや自動車の製造が強い。豪州、NZは農産物輸出国で、人口の多い中国や東アジアの市場開放に期待している。

第四に、これはあまりオープンな議論にはなっていないが、米国との関係だ。米国が入らない東アジア連携はどのようなものであれ、米国の警戒するところとなる。かつてのマハテイール構想、東アジア版IMF構想など、いずれも米国の強い反対にあって頓挫した。今回の話も米国をいかにして納得させるかが大きな問題と筆者は考えているが、その点、インド、豪州、NZが入っていることは都合が良い。3カ国とも米国とは良好な関係にあり、民主主義と市場経済を国家運営の基本とする国である。彼らがいればアジアが結束して反米的な方向に動くことはないという安心感を与えるであろう。逆にASEAN+3では中国の力が強くなりすぎて、そのようなバランスが保てない懸念が残る。

鍵となったASEAN とインド、豪州、NZとのFTA

東アジアの経済連携というと、ASEAN+3の方が金融協力を始め、実績がはるかに大きい。ASEAN+3で先ずFTA をまとめて、順次それ以外の3カ国に広げていく方が現実的ではないかとの意見は説得力がある。かかる議論に対抗するためには、インド、豪州、NZがASEANとの間で確固たる協力の基盤を持っていることが不可欠であるため、筆者はこれらの国を訪れた際に、貿易大臣や政府高官に、ASEANとのFTA交渉を急ぐよう要請した。その成果かどうかはわからないが、インドは2008年8月に、豪州・NZは2009年2月にASEANとのFTAに合意したため、ASEAN+6で広域経済統合を図ることが今や現実的なオプションであることを裏付けることに成功した。今回の大臣会合でASEAN+6で経済連携を進めることに合意を得ることが出来た裏には、このような努力があったからだと考えている。

報告書の中身であるが、CEPEA専門家会合では多くの提案をしているが、重要なものは、16カ国を包含する広域FTA圏に向けての政府レベルの研究に着手すること、地域内の貿易と投資を促進するための実務的障害(例えば各国で異なる原産地規則)の除去、経済協力をより効率的に進めるための体制作り、東アジアにおける政策調整を強化するための制度的枠組み(例えば東アジア版OECD)の創設だ。

日本の市場開放が不可欠

このうちFTAについて言えば、各国ともに既に何か新しいことが出来るとは考えていないようだ。特にASEAN 諸国ではこの3年間に域内、および6カ国の間でFTA 交渉を行ったばかりで、交渉疲れのようなものが強い。しかし、周辺6カ国とは二国間のFTA は完成しているので、ハブとしての役割は果たしているといえよう。問題は日本、中国や豪州、インドなど周辺6カ国だ。これらの国々との間ではFTAがない。日本について言えば、韓国、豪州、インドとの二国間FTAは、いずれもほとんど進んでいない。中国やNZとは交渉すら始まっていない。韓国との交渉については、相手側が乗り気ではないようだ。韓国の主要輸出品である工業製品の日本での関税はゼロかそれに近い水準にまで下がっており、FTAを締結してもメリットが少ないのに対して、韓国が関税を撤廃すれば日本の優れた工業製品が大挙流入するとの懸念が強い。豪州、NZとは日本が農産物の自由化に国内の抵抗が強く、これを除外した交渉を求めているのに対して、相手側が納得しないからである。日本の今回の総選挙では日米FTAが議論の争点となっているが、対アジア大洋州通商政策についても転機が訪れると良いと思っている。民主党の主張する所得補償方式は他の先進国でも採用されているやり方で、これと引き換えに数百%になる農産品に対する高関税を引き下げることが出来れば、日本は東アジアにおけるリーダーシップを回復することが出来る。

この点に関連して、忘れてはならないことがある。中国は世界中の国に対して貿易黒字を稼いでいると思われがちであるが、実はほとんどのアジアの国とは赤字になっている。それらの周辺国から原材料や半製品を輸入し、それを組み立てて米国やEU国に輸出して黒字を稼いでいる。つまり、中国はアジア近隣国に市場を開放し、多くのものを輸入している。このようにして中国は近隣諸国の工業化を助けている。翻って日本は原材料以外の輸入は少なく、一方的に黒字を稼いで、彼らの貴重な外貨を吸い上げている。中国が影響力を拡大しつつあるのは、このような市場開放政策によるところが少なくない。豪州やNZのような農産物輸出国も、最近は日本よりも中国や韓国に関心を持ち始めている。英国や米国が世界経済の中心になり得たのも、市場を開放し、その通貨(すなわち自国の借金証書)を世界に拡散させたからだ。日本が真にアジアのリーダーになるためには、市場の開放をさらに進めることが不可欠になる。そのためにはCEPEAは日本にとっての試金石なのだ。(以下次号に続く)

動き始めた包括的東アジア経済連携(2)

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2009年 取締役 エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など