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控除廃止と子ども手当創設が意味するもの

2009年8月12日(水曜日)

控除廃止と子ども手当の創設

民主党のマニフェストに掲げられた、子ども手当の財源としての所得税の控除見直し案(国税の配偶者控除、扶養控除の廃止)が波紋を呼んでいる(住民税(地方税)の配偶者控除、扶養控除は存続)。これに伴い、子どものいない一部世帯(65歳未満の専業主婦世帯のうち納税世帯、民主党推計では全世帯の4%)で税負担が増えることとなり、民主党案が単に子ども手当という給付を増やすばかりでなく、税負担をも変更させ、負担と給付のあり方の改革に切り込むものであることが明らかになったからである。

民主党案は、子どものいない世帯から子どものいる世帯に所得を移転させるものであり、与党はこの案に対し、特定の層の税負担が増えることを批判し、子育ての費用は国民全体で負担すべきなどと批判している。国民全体での負担とは、消費税率の引き上げで財源を賄うことを想定しているようである。しかし、消費税率の引き上げはすぐには難しく、少子化に歯止めをかけることが日本にとって重要な課題になっていることを考えれば、民主党案でも一定の理解は得られるように思える。

今回の民主党案は、これまでの負担と給付のあり方を一部変えようとするものであるが、この問題は単に子ども手当の財源を賄うという問題に止まらず、これまでの負担と給付のあり方を、より大きく変えていくことに通じる可能性を含んでいる。

英米の税額控除の仕組みと民主党案

そもそも日本の所得課税については、配偶者控除、扶養控除などの人的控除の部分が大きいため、課税最低限の所得が他の先進諸国に比べ高く、課税ベースが大きく侵食されているという問題が従来から指摘されてきた。加えて、配偶者控除については、高所得者が適用を受けている割合が高い上、控除の仕組みが税額控除ではなく所得控除であるため、高い税率となる高所得者層ほど大きな恩恵を受けられるとの問題があった。さらに、配偶者控除の存在が、夫が配偶者控除を受けられるようにするため、妻が働くとしても配偶者控除を受けられる範囲の所得(103万円)に止めようとするインセンティブが働き、既婚女性の労働供給を阻害しているとの問題もあった。

こうした問題を解決する一つの方法は、上記のような様々な問題を招く配偶者控除、扶養控除は廃止し、これに伴い負担増となる層については、新たな方法で給付を行うというものである。控除を廃止する場合、低所得者の負担が増えることになるが、この点を克服する仕組みとしてしばしば行われている提案は、給付付き税額控除の仕組みである。

税額控除とは、適用される税額控除額が納税額を上回る場合に、その部分を給付するというもので、例えば、税額控除額が5万円に設定されている場合、納税額10万円の人は10-5=5万円の納税で済み、納税額1万円の人は1-5=-4万円となり、4万円の給付が受けられるというものである。中高所得者層のメリットが大きい所得控除の仕組みに比較し、税額控除の仕組みでは低所得者が得られるメリットが大きい。ただし、この仕組みを導入するためには、個人の所得を正確に把握する納税者番号制度の導入が必須となる。

税額控除のイメージ

【図表1】所得に応じた税額控除のイメージ

拡大イメージ (23 KB)

さらにこの仕組みに子育て支援策を組み込む方法としては、子どもの数に応じた税額控除を組み合わせるという方法がある(英米で導入)。税額控除額を、上記の例のように定額にするのではなく、所得や子どもの数に応じて変えるというものである。より具体的には(アメリカの例)、労働のインセンティブが働くよう、所得ゼロでは税額控除額はゼロとし、所得が増えるほど税額控除額が増えるようにし、一定の所得に達したら逆に税額控除額を徐々に減らしていくというカーブで税額控除額を決定する。(【図表1】参照)これに子どもの数に応じた税額控除を加えると、子どもの数が多いほど税額控除額が大きいカーブとなる(子どもの数による税額控除については、高額所得者ではゼロ)。

こうした仕組みを踏まえると、民主党案の配偶者控除、扶養控除の廃止と、子ども手当の創設という政策の組み合わせは、英米の税額控除の仕組みに似た効果を生むことがわかる。ただし、民主党案は、所得制限を設けず子どもの数によってのみ子ども手当の額を決めるという点で、高額所得者では子どもの数による税額控除がなくなる英米の仕組みとは違いがある。民主党の仕組みを、所得控除のより大きな改革を含む、よりソフィスティケートされたものに発展させるとすれば、英米における仕組みは一つの手本になると考えられる。

最低賃金の引き上げ問題と税額控除

税額控除の仕組みは、子育て支援策を組み込むことができるのみならず、上で述べたように、所得に応じた額に設定することで、低所得者の労働インセンティブを失わせないまま、給付を行う仕組みに設計できるという点で優れている。

低所得者の支援策としては、現状では、生活費を給付することで直接的に支援する方法(生活保護)と、最低賃金を引き上げることによって側面から支援するという二つが主なものとなっている。しかし前者については、受給条件が厳しい上、いったん生活保護を受けると、労働のインセンティブが殺がれがちになるという問題がある。特に最低賃金が低く、その賃金で働いても収入が生活保護の受給額に達しない場合、この問題は深刻となる。

そこで、民主党が今回のマニフェストでも触れているように、最低賃金引き上げの必要性がしばしば指摘されるが、最低賃金の引き上げは、現状で辛うじて採算を保っている限界的な企業にとっては死活問題となる。安易な引き上げは、限界企業を倒産に追い込み、かえって低所得者の仕事の場を奪う場合も出てくると考えられる。税額控除の仕組みは、このように現状で問題の多い低所得者向けの二つの支援策に代わる政策として位置づけることもできる。

これまで述べてきたように、所得控除から税額控除への移行は、所得税負担に関する様々な問題(現行の控除が課税ベースを侵食している、高所得者ほど控除の恩恵を受けている、控除が既婚女性の労働供給を阻害しているなど)を消滅させるとともに、低所得者への支援策や子育て支援策を組み込むことができるなどの優れた特徴を持っている。

民主党の控除廃止と子ども手当の創設案は、これと似た効果を生む部分もあると考えられるが、より効果的な仕組みに発展させるためには、納税者番号制度の導入と併せ、税額控除の導入にもいずれは踏み込んでいくべきだと考えられる。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年より 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員(現在に至る)
【著書】図解よくわかる住宅市場 (日刊工業新聞社 2009年)、制定!住生活基本法 変わるぞ住宅ビジネス&マーケット! (日刊工業新聞社 2006年)、図解よくわかるCSR(企業の社会的責任) (日刊工業新聞社 2004年)、世界恐慌—日本経済最後の一手 (ダイヤモンド社 2002年) など