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高速道路料金は1,000円か無料か

2009年7月30日(木曜日)

上限1,000円の効果

景気対策の一環として開始された高速道路料金の休日上限1,000円への値下げをめぐり、その功罪が注目を集めている。仮に民主党が政権を取った場合には、高速道路料金は原則無料となり(割引率の順次拡大などの社会実験を実施し、その影響を確認しながら、高速道路を無料化していく)、更に大きなインパクトが表れることが予想されるからである。

高速道路を無料化した際のメリットとして強調されるのは、移動、輸送コストの引き下げによる、経済の活性化である。一般道から高速道路に分散されることに伴う渋滞緩和による時間コストの削減、地方から都市部への移動コストが削減されることによる人の移動や物流の活性化、地方の観光産業の活性化、地方への人口分散効果などが期待される効果とされる。この他、完全に無料化した場合には、料金所の人員が不要となり、さらにはETCさえ不要になる。

では、自民党の上限1,000円の政策では、どのような効果が表れたか。休日の交通量は地方の高速道路で1.5倍程度となり、料金引き下げと連動したキャンペーンにより、各地で観光活性化の効果が表れた。しかし、高速道路の利用が増えたことで、5月の連休中は本四架橋を始め各地で大渋滞が発生した。また、高速道路の利用が増える一方、それと競合するフェリーやJRなどの利用が減少したため、経営面で打撃を受けたところも現れた。また、公共交通機関に代わり自動車による移動が増えたことについては、CO2排出量の増加という点で環境対策に逆行することが懸念された。なお、地方への人口分散効果については、今回の期間限定の上限1,000円の値下げでは、日帰り旅を増やす程度であり、そうした効果が出ることまでは考えられない。

これまでの効果を総括すれば、観光活性化の効果はいくらか表れているものの、移動コストの従来からの秩序が崩れたことによる弊害も出ている。期待されていた一般道の渋滞緩和効果については、高速道路の利用が休日に集中したことで、逆に高速道路の渋滞を招くケースも出てきた。現時点で、料金引き下げが全体として経済にプラスの影響を与えたかといえば、微妙と思われる。公共交通機関から自動車へのシフトに伴うCO2排出量の増加という環境面の問題も無視し得ない。

無料化に伴う弊害の解決策

今後、民主党政権になり、現状のまま高速道路料金の原則無料化に踏み切ることになれば、こうした弊害が更に増幅される可能性があることは否定できない。移動の活発化による地域活性化の効果は、今回の観光活性化の効果に見るように、更に大きくなることが予想される。また、高速道路が無料になるのならば、地方に住み、高速道路を使って都心に通勤するというライフスタイルも現れ、多少は人口分散の効果も出てくるかもしれない。しかし、その一方で、競合する交通機関や環境面での悪影響という問題が深刻化することが予想される。

ただ、こうした問題に対処する手段が考えられないわけではない。環境面の問題を極力発生させないための1つのアイディアとして考えられるのは、高速道路の利用は環境負荷の少ないエコカー、将来的には電気自動車など全くCO2を排出しない自動車に限定、あるいはCO2排出量の多い自動車については有料にするというものである。これは高速道路を使い、より遠距離の移動をする自動車には、環境負荷面で最大限の負担をしてもらうという発想に基づく。これと併せて、エコカーの普及促進を促すため、現在行われているエコカー購入の助成策を、より基準を厳しくした上で継続していくという方法も考えられよう。

一方、自動車と競合する鉄道や船舶など交通機関の経営悪化の問題については、物流について、モーダルシフト(トラックによる輸送から鉄道・船舶の輸送へのシフト)を推進していくことにより、新たな収益源を生み出すというのが1つのアイディアである。この場合、交通機関事業者への事業転換のための助成や、利用者へのコスト面での助成が、少なくとも当初の時点では必要になると思われる。これまでモーダルシフトの進展が遅れてきたのは、コスト面のメリットがなかったことが大きいからである。

高速道路の無料化は、先にも述べたが、移動コストの従来からの秩序を崩すものであり、それに伴い各交通機関の需要を大きく変える効果を持つ。ただし、これをテコにして、ここで述べたようなエコカーの普及やモーダルシフトを推進していけば、より望ましい方向に導いていくことも可能になる。

誰が高速道路のコストを負担するか

ここまで高速道路無料化をテコにして、環境負荷の少ない方向に誘導するアイディアを述べてきたが、高速道路無料化が何らかの大きな変化を促すテコになるとすれば、より本質的には、これまでの高速道路建設の仕組み、すなわち、各路線の料金収入を集めて、ドル箱路線の収入を赤字路線の借金返済に回すというプール制を成り立たなくさせるという意味が大きいと考えられる。

この仕組みは、従来から、不採算路線の実態を隠し、無駄な道路が造られやすいとの批判を受けてきたが、高速道路料金が無料になれば、もはやそうしたことはできなくなる。新たな高速道路を造る場合には、自らの財布では工面できず、税金の投入が不可欠となるという点で、一般論としては、チェックが働きやすくなる(ただし、現在の仕組みでも税金投入は可能であり、その場合、十分なチェックが行われるかどうかは疑問)。そもそも1972年にプール制が導入される前では、東名や名神は30年かけて償還し、無料開放される計画だった。

ただし、プール制を廃止した場合でも、有料が良いのか無料が良いのかという議論は残る。高速道路料金で、他の高速道路の借金まで負担するのは不合理であるが、利用路線のメンテナンス費用だけは、利用者が負担すべきという考え方も成り立つからである。メンテナンス費用だけの場合、1,000円になるかどうかは別にして、料金は現行よりは当然低くなると考えられる。

無料にした場合は、建設費用、利息、メンテナンス費用の全てを税で賄うことになるが、これは負担者が高速道路利用者から国民全体に広がる形となり、これまでの考え方(建設費用、利息、メンテナンス費用は料金で償還、償還後のメンテナンス費用は税で負担)を根本的に改めることになる。考え方を改める場合の根拠としては、高速道路の便益は、利用者だけではなく、経済活性化をもたらすことなどを通じて全ての国民が享受しているためということになると考えられるが、民主党の無料化案では、無料にすることを強調するばかりで、負担が利用者から全国民に変わることには触れていない。

民主党は高速道路無料化の効果として、「生活コストの引き下げ」を最初に挙げるなど、そのメリットのみを強調しているが、その裏側には国民の税負担があること、また、税負担を増やしても無料化のメリットが大きいという理由をより国民に説明する必要があると思われる。同時に、自民党の上限1,000円への引き下げという、無料化前のいわば「社会実験」によって明らかになった弊害を、ここで挙げた解決策も含め、どのようにして克服していくかについても十分示していく必要がある。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年より 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員(現在に至る)
【著書】図解よくわかる住宅市場 (日刊工業新聞社 2009年)、制定!住生活基本法 変わるぞ住宅ビジネス&マーケット! (日刊工業新聞社 2006年)、図解よくわかるCSR(企業の社会的責任) (日刊工業新聞社 2004年)、世界恐慌—日本経済最後の一手 (ダイヤモンド社 2002年) など