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OECD鉄鋼委員会では中国とどのような対話をしているのか

2009年6月18日(木曜日)

話題は中国

先週、パリのOECDで定例の鉄鋼委員会が開かれた。このところ鉄鋼委員会の中心話題は中国である。中国はOECDの加盟国ではない。OECDは金持ちクラブとも呼ばれ、先進国が中心だ。中国は世界経済のあらゆる場面で存在感を高め、OECD側も中国との対話を深めようとしているが、中国はかつての日本のように各国から袋叩きに遭うのを嫌ってなかなか出て来ない。その中で鉄鋼委員会にはこのところ毎回のように代表を送ってきており、筆者も議長として率直な意見交換を促す一方で、他の国に対しては、中国側を追い詰めたり、不愉快にさせたりするような言動は避けるよう、影ながら気を配っている。

世界の鉄鋼生産の半分は中国

なぜ中国が焦点になるのか。中国は飛び抜けた鉄鋼生産国である。2008年で見ると、世界全体の生産量は12億トンだが、そのうち中国は4.3億トンである。シェアにして35%で、その数字は急速に上昇している(図1参照)。GDP では世界の1割にもならない中国が、鉄鋼だけは3分の1を生産している。製造能力で見ると、中国の割合は40%と、更に高くなる。鉄鋼は先進国では成熟産業で、設備の拡大は殆どない。その中で中国の能力は2000年から2010年までの間に3倍増になる見込みだ。遠からず、世界の鉄鋼の半分は中国製になるだろう。当然これは中国政府の産業政策に基づいて進められているもので、中国政府は鉄鋼産業の育成に殊の外、力を入れている。

中国が鉄鋼産業の育成を急ぐのは理由がある。中国はこれから鉄道や道路、港湾など、鉄鋼を大量に使うインフラ建設を進めなければならない。他方、国内では鉄鋼石や原料炭も生産でき、原材料の確保は容易である。ただし、技術面では日本などからの技術支援で相当向上したが、それでも高級鋼の生産や環境対策などはまだまだ劣っている。これを速やかに向上させるのが鉄鋼産業政策の目的だ。中国だけでなくインドなどでも、政府が鉄鋼産業の育成に積極的役割を果たそうとしている。

主要国の粗鋼の生産量

【図1】主要国の粗鋼の生産量

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世界の鉄鋼市況は中国が決める

先進各国が中国の鉄鋼政策に関心と懸念を持つのは次のような理由だ。中国は2001年のWTO 加盟まで、鉄鋼輸出は殆ど無かった。国内では良質の鉄鋼が生産できず、先進国から輸入していた。わが国にとっても中国は重要な顧客であった。しかし、国内生産が急増するにつれて輸出国の仲間入りをし、世界市場で中国の鉄鋼が目立つようになった。2008年では6000万トンで、世界最大の鉄鋼輸出国となり、世界市場で価格や需給に影響を与えている。このような中国の拡大は世界経済が順調に拡大している時には大した問題にならないが、景気後退期には決まって通商問題になる。昨年秋以降、世界経済が「100年に1度」といわれる大不況に突入するにつれて需要が急落し、現在世界の鉄鋼生産設備の稼働率は61%にまで下がっており、約4割の設備は休止状態だ。

難しい国有企業の取り扱い

不況になると保護主義が頭を持ち上げるのはいつものことだ。2009年4月3日のG20の首脳声明にも拘わらず、各国は巧妙な手で輸入を抑えようとしている。反ダンピングと補助金相殺関税だ。中国の鉄鋼会社は殆どが国営あるいは地方政府の息のかかった官営企業だ。その経営者は共産党の指名で決まり、資本主義国のように株主ではない。儲かっているかどうかではなく、生産量をいくら拡大したか、雇用をどれだけ増やしたかが評価のポイントのようだ。当然、採算は度外視して生産を続け、余れば海外に安売りをする。こうしてダンピング輸出が不可避となる。

ダンピングを行っていると認定するためには、コストが正確に把握できることが必要だ。販売価格がコストを下回っていることが条件だからだ。だが、このコストが社会主義的経済体制の下では正確に把握できない。資本は国が確保してくれるので、借り入れコストは当然市場より低い。配当は払っているのか、原材料はいくらで購入しているのか、国から供与された土地代はいくらかなど、国の政策により、生産コストが私企業よりも低くなっている可能性が高い。かくして先進国は中国の国営企業が補助金を受けていると考える。国の補助金を受けていれば、自国に入ってくる輸入に対しては相殺関税を賦課することは可能だが、米国やEU ではWTO上のルールを活用して、このような中国鉄鋼製品の氾濫を抑えようとしている。現在実施されているのは、中国が国内産の鉄鉱石などに輸出税をかけることで国内価格を下げ、国内企業に有利なようにしている措置で、鉄鋼委員会でもだいぶ前から議論されている。この措置は、輸出税をかけることにより輸出量が減り、本来であれば海外に出ていた原料が国内に出回ることになり、国内での鉄鉱石価格が下がる、その結果、中国の鉄鋼企業は競争力が高まり、逆に海外での鉄鋼石価格は輸出税の分だけ上がるため、海外のユーザー企業は不利になるという、要するに中国国内の鉄鋼企業に対する補助金と同じ効果を持つものである。これに対して、中国は自分たちこそ先進国の保護主義の犠牲になっていると反発する。中国が世界の半分を占める存在になった時、市場経済を前提とした世界の貿易ルールは深刻な挑戦を受けることになる。中国は市場経済であるとしているが、先進国は鉄鋼産業政策そのものが壮大な補助金システムであると主張する。同じ議論はこれから自動車や電子産業にも起こってくるであろう。

世界中の資源に手を伸ばす中国

最近になって更に世界中の話題となった問題が生じた。中国国有企業Chinalcoが豪州の有力資源企業Rio・Tintoを買収(正確には株式持分を9%から18%に引き上げ)しようとしたことだ。中国は今や世界で最大の貿易収支の黒字国で、外貨保有額は世界一だ。民間の貯蓄率も先進国より遥かに高い。要するに金はいくらもあるのだ。その財力に任せて世界中の資源企業に投資している。これだけ鉄鋼生産が増えると国内の原料だけでは不足で、海外からの鉄鉱石輸入は急増し、今や世界の鉄鉱石輸入の5割は中国である。中国が海外の鉱山に関心を示すのは当然だ。だが豪州を代表する企業が中国の傘下に入ることに国民が騒ぎ出し、中国びいきのラッド首相も反対せざるを得ないことになった。問題点は買収する中国企業が国営企業であり、豪州企業が民間企業であったことである。国のバックを受けた国営企業が純粋民間企業を買収するのはフェアでない、という主張は説得力がある。ただ、最近米国の自動車産業や銀行が事実上の国営企業になっていることを見ると、米国といえども手が全く汚れていないわけではない。欧米各国はかつて日本に対して抱いていた以上の警戒感を中国に対して感じている。

計画経済と市場経済は並存できるか

今回の世界的不況で、鉄鋼セクターでも世界的過剰設備があることが明らかになった。これから先進国企業は苦しい設備廃棄をすることになろう。他方で中国の鉄鋼企業は産業政策の支援の下で更に成長していくであろう。このままでは先進国企業が中国の国有企業との競争に敗れ、消えていく可能性が大であるが、先進国政府がこれを黙って看過するとは思えない。4兆元の景気対策は国有企業に有利に働くので、市場経済化にむしろ逆行することになる。中国にとっても貴重な国民の貯蓄を過剰設備を増やすために使い続けることが賢明とも思えない。既に今回の鉄鋼委員会でも、いくつかの先進国より懸念の表明があった。日本では中国についての議論は、中国はこれからどうなるか、日本は中国とどのように付き合っていくべきか、に議論が限られる。しかし本当の問題は、市場経済と計画経済はそもそも共存し得るのか、そのためのルールは如何にあるべきか、ということであり、世界は中国をそのような視点から考えているのだ。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など