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「環境の時代」をどう捉えるか

2009年4月24日(金曜日)

倫理学の視点から見た環境問題とは

世界各国において所謂「グリーン・ニューディール政策」が具体化され、日本においても追加景気対策の中でその具体策が提示された。

世界は正に「環境の時代」に突入しつつある。しかし、ポスト消費社会として短絡的に「環境の時代」を位置付けるのは妥当だろうか。サブプライムローンの破綻に端を発した経済危機に直面するに当たり、あたかもこれまでの消費社会に取って代わるように現れた「環境の時代」について、その位置付けを明確にすることなしには、さらにその先を見据えた長期的なビジョンを描くことはできないのではないか。

特に産業革命以降、人類は自由主義の思想の下、産業と経済を発展させてきた。その思想は「他者に危害を及ぼすことがなければ、行為はその行為者の自己決定に委ねられる」というものである。しかし最近になって、我々が行ってきた産業や経済への発展への取り組みは、実はその範疇を超えた、他者に危害を及ぼすものであることが明らかになってきた。その一つが環境問題である。そして危害を被る被害者とは、今後何万年にも亘って地球上で生活をしていく、将来の世代である。

人類が将来何万年にも亘って持続的に生活していくためには、回復可能な範囲を超えて、有限な資源を使用したり、廃棄物や排出物を出したりしてはならない。具体的には、第一に資源を利用する場合、リサイクルの高度化により、資源を投入した量がそのまま循環的に用いられなければならない。そして第二に、エネルギーは全て、太陽光発電をはじめとした、資源の燃焼を伴わないものとしなければならない。技術的に無茶な話に聞こえるかもしれないが、これらのルールを破ることは、産業革命以降、高々数百年間に生きる少数の世代が、将来の数万年に生きる世代の生存する権利を脅かす、あるいは奪うことを意味し、看過され得る問題ではない。

「環境の時代」をどう捉えるか

「グリーン・ニューディール政策」は、環境への関心が世界的に高まってきたところに、経済が危機的な状況を迎え、その打開策として脚光を浴び始めたものである。新エネルギー技術開発に伴う雇用や需要の創出、さらに新エネルギー技術力における国際競争力の強化等の景気高揚の効果が期待されるところである。これらはこれから暫くの期間に亘り続くであろう国際的なバブル崩壊の修復策の一環として、また倫理的な観点から「いつかは着手しなければならなかった」環境の分野に対する、将来の世代への投資として行われるものである。これは動機はともあれ、倫理的に否定され得ないものであり、また否定されるべきものでもない。

しかし、この機会にさらに考えるべきは、このバブル崩壊の修復策として位置付けられた「環境の時代」の後に訪れるであろう、経済が回復した後の社会に関してである。環境への配慮というものは、そもそも自由主義的な経済活動において我々がこれまで気付くことの無かった倫理的な制約条件を組み込むことであり、まさにニューディール政策的に、「正しい倫理性」という経済インフラを整備することに他ならない。環境が経済を主導するのは長期的に見れば一時的なことであり、本質的に経済を主導するのは、やはり人間生活の利便性や欲望を満足させる製品やサービスであると考えるべきである。「環境の時代」という過渡期において、高度なリサイクルと、資源の燃焼を伴わないエネルギーへの転換が達成された後に、漸く従来の消費社会の欠陥を修復した「循環型社会」が訪れるだろう。

「循環型社会」に向けての課題と解決へのアプローチ

とはいうものの、「循環型社会」への道は決して平坦なものではない。「グリーン・ニューディール政策」は、喫緊の課題に対応する意味合いを併せ持っていることは否定できず、経済危機への対応や失業問題の解消もその目的の一部である。日本政府による追加景気対策の中で掲げられた、省エネ製品の開発を促進するエコポイント制度の導入も、「循環型社会」の実現には直接的には繋がらない、短期的な視点に立ったものであることは否定できない。また環境問題というものは、上述したような世代間格差の倫理のみならず、先進国と発展途上国との間の世代内の地域間格差の視点等も取り入れる必要があり、グローバルレベルでの長期的解決に至るまでには、様々に入り組む既存の問題をクリアしていかなければならない。それ故に「環境の時代」は、ややもするとこのような短期的視点に囚われるあまり、長期的なビジョンである「循環型社会」への道が開かれぬまま収束してしまう、という危険を孕んでおり、これについては十分に注視する必要がある。

「循環型社会」という次なる社会への道を閉ざさないようにするため、例えばバランス・スコアカードのような、短期的な視点から長期的視点までを隈なく盛り込み、長いスパンに亘る問題に対し多角的に捉える手法を政策立案に採り入れ、長期的なロードマップを描いた上で、グローバルあるいは国レベルでのガバナンスを継続させていくことはできないだろうか(環境に関するガバナンスについては、FRIが開発した、「環境経営フレームワーク」を参考にされたい。これは企業の環境ガバナンスを対象として開発したものであるが、グローバル、国レベルへの応用も可能と思われる)。そうすることにより、環境への取り組みを、長期的ビジョンに沿ってグローバルあるいは国レベルで戦略的に進められることが期待できる。

「循環型社会」実現に向けた戦略マップ概観

【図表】「循環型社会」実現に向けた戦略マップ概観

喫緊の経済危機や失業問題への取り組みは勿論重要である。しかし、この「環境の時代」において、「循環型社会」を見据えた短期的、長期的視点をバランスよく織り交ぜたシナリオを立てて取り組んでいかなければ、本当の未来は見えて来ない。

【参考文献】加藤尚武『環境倫理学のすすめ』1991 丸善ライブラリー

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遠藤亘

遠藤 亘(えんどう わたる)
(株)富士通総研 内部統制事業部 シニアコンサルタント
【略歴】1995年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、住友電気工業株式会社を経て、 2001年 (株)富士通総研入社。
コンプライアンスを中心としたコンサルティングに従事。