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消費の直接刺激は必要か

2009年4月16日(木曜日)

異例の政策

今回の景気対策については、最初に規模ありきの寄せ集めであるとか、大盤振る舞いが過ぎるとか一部で批判がある。確かにそうした側面があることは否定できないが、極力、将来にとっても必要な需要を実現させようとする努力の跡はうかがえ、評価できる部分も少なくない。

昨年秋からの景気の急激な落ち込みが、リーマンショック以降の世界的な需要収縮にあることを考えれば、需給ギャップを何らかの形で埋める必要があることは明らかである。今回の景気対策では、消費の直接的な刺激策として、エコカーや省エネ家電を購入した場合の補助が盛り込まれた。これは従来日本では行われることのなかった異例の政策であり、消費者の購買意欲を高めることを通じ、今年度の景気を下支えする効果を持つ。

これに対し、消費の直接刺激は、需要を前倒しするものに過ぎないとの批判もあるが、本来、どのような景気対策も、多かれ少なかれ需要前倒しの要素が含まれるのであり、景気が自律的に回復するまでのつなぎとしての役割を果たすのは当然のことといえる。加えて、省エネ家電については、エコポイントという仕組みで省エネ性能に注意を向けさせることは、この先、消費者が家電を購入する際の商品選択に良い影響を与える効果も期待される。エコカーの購入優遇に関しても、古い自動車保有者の買い替え需要を促す効果を発揮することは確実である。実際、類似の制度を導入したドイツでは、新車販売が急増した。

一時的な消費拡大だけでは空しすぎる

しかし一方では、今回、さらに大規模な景気対策が講じられることで、財政状況がますます悪化し、将来の消費税率引き上げを含む将来の負担増が避けられないとの、消費者の認識がさらに強まっていくことは避けられない。消費者としては、定額給付金によって現金をもらったり、省エネ家電を購入した場合にはエコポイントが還元される仕組みを使って、外食や旅行をしたり、購入予定だった薄型テレビをもう1ランク上のものにアップしたとしても、自分のお金を使う消費については堅実であり続けるという行動は、当然予想されることである。その意味では、今回の政策は一時的にはかなりの消費刺激が見込まれるものの、制度が打ち切られた後は、その反動で自動車、家電の消費が落ち込むことは避けられそうにない。

しかも、政府の景気対策によって、消費者がささやかな贅沢をすることによって、当面の景気を下支えする役割を果たすにしても、それが終わった後で、世の中が何も変わらず、増税だけが待っているとすればあまりにも空しすぎる。したがって、景気対策によって、直接的な消費刺激策を講じる場合でも、環境面で日本の将来にとっても役立つ消費を徹底させるという方向性をより明確にすることが必要だったと思われる。

この点、例えば、自動車については、ハイブリッドカーに限らず、単に燃費の良い自動車を優遇対象(実質的にほとんどの新車)としたことは、業界の事情が反映された面が強く、不徹底さが残っている。また、省エネ家電として認められる家電製品についても、その基準が厳しくなければ、あえて前倒しで消費者に購入させるメリットは、環境面で大きくないと思われる。購入を優遇する自動車や家電製品の基準が緩ければ、業績不振に喘ぐ業界の単なる救済と言われても仕方がない。

仮に、最も厳しい基準が設定された場合、そうした基準を現時点でクリアできるメーカーのみが有利になり、一時的には特定企業にのみ恩恵をもたらすような政策になるかもしれない。しかし、現に対応商品がないメーカーについては、補助期間が今年度だけでは製品開発が間に合わないかもしれないが、例えば2年間の優遇措置とすれば、開発にも余裕が出てくるだろう。メーカーに対し、最も厳しい基準をクリアできる商品開発を促す支援策も併せて講じるという方向性も考えられた。

こうした結果として、消費者の支持を受けたメーカーが、さらに成長し、経済面でも環境面でも日本への貢献度がさらに増すことになれば、これは、消費者が商品選択を通じて世の中を変えるということにもつながったはずである。

より長期的な視点に立った制度設計

政策的な方向性は悪くなくても、制度設計や実施のタイミングが本来の意図と合わず、十分な効果が発揮されないケースは少なくない。定額給付金は、もっと早い、例えば今年初めのタイミングで、現金ではなく期間限定の商品券のような形で配布されれば、確実にその間の消費を増やすことができたはずであり、今年初めの景気の急激な落ち込みをいくらかでも和らげる効果を持ったと考えられる。しかし、未だすべての自治体で配布されておらず、しかも現金という形だと貯蓄に回る部分が出てくるため、その分消費刺激効果が減殺される結果になっている。そもそもこの政策は、原油価格が高騰していた時点で、家計補助として考えられた定額減税に端を発する政策であり、それがその後の景気の急激な落ち込みを経て、政策の目的を変え、ようやく実現されたものでもあるが、それさえ未だ完了していないところに、財政政策の実施ラグの大きさが如実に現れている。

省エネ家電の補助については、補正予算が成立すれば、早くて7月から実施される見込みであるが(自動車の補助については4月の購入分に遡って実施の見込み)、その頃は景気の底打ち感がさらに強まり、消費者マインドも幾分は好転し、消費を直接的に刺激する必要性は現時点よりは薄れているかもしれない(ちなみにドイツの場合、自動車の購入補助は今年1月に実施)。それでも、制度導入後は、先に高速道路料金の引き下げに合わせETC車載機の購入補助が行われた際にETCが各地の販売店で軒並み品切れになったように、家電販売に火がつくことにはなるだろう。現時点では早くも家電買い控えの動きが起こっているといい、大型量販店などでは、独自にポイントを上乗せすることで、消費者が早く買って損をしないようにする対応さえ迫られている。

政策が実施される時点で、消費の直接刺激の必要性が現時点よりは薄れているとすれば、消費の直接刺激の制度設計は、先に述べたように、対象商品を厳格化し、期間も伸ばすことで、将来にとって望ましい消費を刺激し続ける、より長期的な視点に立ったものにするという選択肢もあった。今から制度の枠組みを変更することは混乱を招くため、できないと考えられるが、今回の消費の直接刺激策はこのような不満を残すものであった。

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米山秀隆

米山 秀隆(よねやま ひでたか)
(株)富士通総研 経済研究所 上席主任研究員。
【略歴】1989年 筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了、(株)富士総合研究所を経て、1996年 (株)富士通総研入社、2007年より 慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員(現在に至る)
【著書】図解よくわかる住宅市場 (日刊工業新聞社 2009年)、制定!住生活基本法 変わるぞ住宅ビジネス&マーケット! (日刊工業新聞社 2006年)、図解よくわかるCSR(企業の社会的責任) (日刊工業新聞社 2004年)、世界恐慌—日本経済最後の一手 (ダイヤモンド社 2002年) など