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贈与税減免をどう考えるか

2009年4月10日(金曜日)

贈与税減税が語られる背景とその経済効果

世界同時不況を打開するため、追加経済対策が自民党内で検討されている。各種報道によると、現在、贈与税の減免が検討されている。これは、若年層が住宅などの取得を条件に、両親などから受けた贈与に対する課税を減免しようとするものであり、消費の促進が主な政策目標である。

高齢者から若年層への資産移転を促進するような政策が打ち出される背景には、日本の個人金融資産のうち、60%近くが60歳以上の者を世帯主とする世帯に保有(*)されていること、平たく言えば、高齢者が資産を溜め込んでいることにある。

また、相続税や贈与税に対して大きな誤解があることも、こうした政策が打ち出される背景の1つであろう。相続税によって資産の大部分が没収されるような「悲劇」が語られ、資産の承継に対して著しく高率の課税が行われていると認識している人も多い。しかし、

(1)相続税の課税最低限度額は、5,000万円+1,000万円×法定相続人数であり、そもそも課税最低限度額に達しない人が大多数である。

(2)土地などの不動産については、実勢価格よりも低く評価されることが多い。

(3)生命保険金、死亡退職金、居住用宅地、事業用資産、配偶者の相続分に対しては、一部が非課税とされるなどの優遇措置がある。

以上のことなどから、多くの人が相続税に対して抱いている認識は誤解といえよう。事実、平成18年において、人口動態統計によると死亡者数が1,084,450人だったのに対し、国税庁統計によると相続税の申告件数(被相続人数)は45,177件に止まったことからも分かるように、相続税は富裕層やそれに近い層でなければ課税されない。また、平成15年からは、相続時精算課税制度の導入によって、それまで禁止的に高い税率が課税されていた生前贈与についても、その促進が図られている。以上のことから、更に上乗せして贈与税の減免を行うことの効果は極めて限定的と考えられる。

贈与税減税の副作用

一方で、贈与税や相続税の減税という政策には様々な副作用が発生することも考慮すべきである。

まず、相続税や贈与税の減税という政策は、親世代の資産格差が子世代に継承されやすくなり、格差の維持拡大を助長するという公平性の観点からの批判がある。子供が3人ずついれば、親世代で1億円の資産格差があっても、子世代では3,000万円程度に資産格差が縮小するが、子供が1人ずつしかいなければ、子世代になっても資産格差は縮小しない。このように少子化が進む中での相続税・贈与税の減税は、これまで以上に資産格差の維持拡大を助長する恐れが強い。

更に、効率性の観点から見ても望ましくないのではないかとの批判がある。米国では、2001年にブッシュ政権の下で遺産税の廃止が議論された際には、ジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットといった富裕層からも、遺産税の廃止は「2020年のオリンピック代表選手を2000年のオリンピック金メダリストの子息から選抜するに等しく」、能力のある人が資源配分を決めるのではなく、たまたま親が能力をもっていたにすぎない人が資源配分を決めることにつながり、経済や社会に悪影響を与えるとする批判が起きた。日本においても「売り家と唐様で書く三代目」という川柳に代表されるように、親が有能であっても、子孫がそうではないケースが往々にしてあることが広く知られてきた。江戸時代以来、三井家などの多くの財閥家族では、もともと親族でない人を大番頭などに選び、意思決定に大きな役割を果たさせていたが、これも世襲だけでは、事業が継続できないことを認識していたからであろう。つまり、相続税・贈与税の減免は、有能な人がさまざまな意思決定に関わる機会を奪うことにつながり、社会や経済の効率性を損なう恐れがあるのである。

また、使用目的を住宅購入など、物的資産の購入に限定していることも問題を発生させ得る。日本は人口減少時代、つまり、物的資本に対して人的資本が相対的に希少な資源となる時代に突入しつつある。したがって、今後、経済成長の制約となるのは、相対的に見て土地や工作機械といった物的資本ではなく、人的資本や労働力である。つまり、長期的な経済成長を考える際には、住宅投資の促進よりは、医療や介護の従事者の育成も含めた人的資本の構築に力を入れるべきである。

パラダイム転換を踏まえた相続税・贈与税の見直しを

産業革命以降も農業が存続し、土地が生産手段の1つであり続けたように、情報革命がいくら進行したとしても、物的資本が生産手段の1つであることに変わりはないであろう。しかし、人的資本と比べた、その相対的地位は低下せざるを得ない。つまり、社会全体として蓄積すべき対象が、「物的資本から人的資本へ」と大きくパラダイム転換することとなろう。地球環境に配慮した社会を構築するために、環境負荷を与える者には課税を強化し、環境親和的な製品や技術への課税を軽減するのと同様に、人的資本によって構成される社会を構築するために、物的資本への課税を強化し、人的資本への課税を軽減するべきである。相続税・贈与税の見直しにおいては、単に格差の問題や目先の消費喚起にどのように対応するかだけでなく、パラダイムの転換を見据えた見直しが必要である。

(*) 総務省「家計調査」より筆者推計

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河野顔写真

河野 敏鑑(こうの としあき)
(株)富士通総研 経済研究所 研究員
2002年 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。2002年4月 東京大学大学院経済学研究科博士課程(~現在) 。2006年 (株)富士通総研経済研究所入社。
専門領域は公共経済、社会保障・医療経済、制度の経済学。