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不良債権処理が先か、それとも景気対策か

2009年4月1日(水曜日)

桜の咲く頃には

今年の年初、筆者は職場の新年の挨拶の中で、「桜の花の咲く頃には景気回復の兆しが見られるかもしれない。」と言った。多少は景気のいいことを、という程度の軽い気持ちで言ったもので、もちろん誰も真剣には考えなかったと思う。その時点では日本中、というより世界中弱気一色だった。

だが、3月後半になって好転の兆しが見られるようになってきた。景気の先行指標である株価が世界中で上昇に転じ、3月10日の底値から月末までに2割程度上昇した。特に低迷を続けていた金融株が値上がりに転じたことが目立つ。米国における金融機関の問題が山を越え、収益も黒字に転じたことが伝えられたからであろう。そして、もうひとつの重要指標である米国の住宅市場だが、中古・新築住宅の販売個数が1月以降上昇、7か月ぶりに上昇に転じた。そして2月には連邦住宅金融庁によると、2006年夏以降、下落を続けてきた住宅価格が1月に入って上昇に転じたと言う。このことの意味は大きい。今回の金融危機はサブプライム・ローンという信用度の低い住宅ローンの焦げ付きから始まったからだ。住宅価格が安定すれば、住宅ローンを証券化した証券の価格も安定し、市場での売買も再開されるであろう。ただし、わずか1ヶ月の動きで安心すべきではなく、あと2~3ヶ月、市場の動きを慎重に見ていく必要がある。

わが国では3月末に2009年度予算が成立したが、政府は直ちに追加の経済対策を講じる予定だ。環境や医療などの面で新たな需要を作り出すものだ。他方、世界を見渡せば、主要国はいずれも銀行への資本注入や不良債権処理など金融機関の建て直しと、個人消費喚起や公共事業の拡大など需要サイドの施策と、両面の対策を採っている。4月2日のロンドンでのG20 サミットでも議論されるが、どうやら当初米国が目論んだ各国ともGDPの2%に相当する景気対策を採る、という合意は難しそうだ。

不良債権処理が先か、それとも景気浮揚か

わが国では不良債権処理を重視するエコノミストと景気対策に期待するエコノミストで意見が分かれる。これは90年代の『失われた10年』がいかにして克服されたかについての理解が異なるからである。

前者は不良債権処理が進んだから景気回復が可能になった、という考えであり、このような考えに立てば、米国もヨーロッパも日本の例に倣って不良債権処理を優先的に進めるべし、ということになるし、これをやらずに景気対策を講じても、無駄に終わるだけだ、という主張になる。このような意見はアカデミックな研究者の間で多く見られる。

これに対して、景気が回復したので銀行や事業会社の利益が増大したため、不良債権の処理が可能になった、と因果関係を逆に考える説もあり、銀行や企業財務の実務家にはこのような論者が多い。彼らは現在各国の需給ギャップは拡大しており、需要不足を補う財政支出が必要であり、各国協調して景気対策を採るべし、と主張する。IMFは各国がGDPの2%に相当する景気刺激をやるべしとの報告書を1月にまとめている。

どちらが正しいのであろうか。

外需で景気回復したのが先

結論を言えば、筆者は前者の議論は成立しない、と考えている。わが国経済は90年代の長い低迷の後、2002年2月から回復に転じ、2007年10月まで戦後最長の景気回復が実現した。この間、銀行の不良債権は大手行を中心に着実に減った。データを見ただけではどちらが原因でどちらが結果はわからない。だが、この景気回復がもっぱら輸出によるものであることは疑いない。輸出が伸びたのは中国や米国の経済が拡大したからで、わが国の不良債権問題とは関係がない。あの時期「中国特需」という言葉が盛んに語られたのは記憶に新しい。

日本の株価は2003年5月から上昇に転じた。不良債権派によれば、これは日本政府がりそな銀行の国有化を決めた時期であり、これで不良債権処理に目処が付いたことが株価に好影響を与えた、ということになる。だが株価が上昇したのは日本だけではない。この頃から株価は世界的に上昇に転じた。世界の景気回復が輸出を通じて日本の景気を引き上げたと考えられる。もし不良債権の処理が進んだから景気回復したのであれば、内需が回復の牽引力になったはずだ。実際には内需はほとんど出なかった。

もうひとつ不良債権処理に貢献したのは、賃金がこの間ほとんど上がらず、企業収益が著しく向上したことである。企業はこれを不良債権の処理に充てた。

新たな成長産業の育成こそが長期的成長の鍵

以上が、わが国において不良債権の処理が進んだ理由である。もちろん政府が銀行に資本注入したり、一部の銀行を国有化し強制的に不良債権を処理したことも問題解決にある程度は貢献したであろう。だが不良債権さえバランスシートから除外され、毀損した分の資本注入をすれば問題は自ずと解決される、と考えることは出来ない。一旦、綺麗にしても、景気後退が継続すれば、健全と判断された債権も不良化する恐れは十分にある。

不良債権処理重視派の人々は、潜在需要が既にあるにも拘わらず、金融機関が不良債権を抱えて融資出来なくなっているのが問題、と考えているのだろうが、そうであるなら金利は相当高くなっていたはずである。実際には資金需要はなく、日本の金利は世界で最も低いままであった。だから不良債権の処理と並行して新たな需要を創出するための景気対策が必要なのだ。

なぜ、資金需要が低迷したのか。それは80年代まで日本経済を牽引してきた自動車とエレクトロニクスが生産拠点を海外に移したり、アジア新興国との競争に敗れて衰退し、それに代わる新たな成長産業が見当たらなかったからである。その傾向は今日まで続いており、米国やヨーロッパのようにサービス経済化がほとんど進んでいない。

わが国とって重要なのは、潜在成長力を引き上げるような投資を実行することだ。戦後わが国は石油ショック、バブル崩壊など大きな外的インパクトを受ける度に成長率が半減してきた。今回の世界金融危機の後、再度潜在成長力が半減するとすれば、それは実質で1%以下になるであろう。デフレ効果を勘案すると名目ではゼロ成長だ。人口が減少し続けることを考えれば、これは十分あり得るシナリオだ。今まで成長を牽引してきた自動車やエレクトロニクスには期待出来ない。今後どのような産業がわが国をリードしていくのか、新たな成長分野への集中投資が必要になる。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など