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金融危機下の中国経済のゆくえ

2008年12月17日(水曜日)

米国発の金融危機は全世界に広がり、グローバル金融システムはパニック状態に陥っている。現在、主要国政府と財務大臣および中央銀行総裁は危機の火消しに躍起となり、金融機関への資本注入や商業銀行の国有銀行化、さらに、協調利下げと市場への緊急流動性の供給など、市場の救済策が相次いで発表されている。にもかかわらず、金融市場は平静を取り戻せない。

その中で、中国経済は当初金融危機の影響をそれほど受けないだろうと見られていたが、08年第3四半期の経済成長率は07年の11.9%から9.0%に急落し、第4四半期は8.0%台に落ち込むのは必至と見られる。

10月に入ってから温家宝総理はこれまで適当な景気引締から一転して適当な金融緩和への方針転換を指示し、11月9日にさらに4兆元(約57兆円)もの景気対策を発表した。その背景には、このまま何の対策も講じないと、中国経済がクラッシュし、一層の雇用悪化により社会が極端に不安定化するという恐れがある。

グローバル金融危機に対する反省

金融危機はアメリカが震源地だが、なぜ危機が起こったか、危機からどのような示唆が得られるか、といった冷静な分析は少ない。主要国の政府当局の動きをみると、有事の緊急性から、とにかくレスキューのための流動性の確保に終始しているが、そのほとんどは焼け石に水であり、危機克服には至っていない。

ここで、まず危機がなぜ起こったのかについて議論を整理しておく。

専門家の多くは今回の危機はサブプライム問題によって起こったもので、米国の住宅価格が下げ止まらないと危機が収束しないだろうと指摘している。しかし、住宅価格が下げ止まれば、危機は本当に収束するのだろうか。

住宅価格が下げ続けることは良くないことだが、それは問題の本質ではない。住宅価格の形成は市場の需要と供給が均衡する水準にいずれ収束するはずであるが、金融危機とバブル崩壊の負の遺産は簡単には消えない。

要するに、問題の本質は、これまでレバレッジの利いた金融商品と金融取引によって膨張した金融資産がそのオリジナル価格に回帰し、金融機関と投資家のロスが明らかになるまで市場が安定しないということを認識しておくことだ。現在、各国首脳が集まる金融サミットが開催されても、市場での信用回復にはほとんど寄与しない。なぜならば、それは病名が分からないまま、とにかく処方箋を書こうという拙速な対応であるためだ。

では、なぜ金融危機が起きたのだろうか。その本源的な原因はサブプライム問題ではない。否、サブプライム問題はむしろ結果に過ぎない。もっともアメリカ経済とアメリカ社会の最大の問題は(1)財政赤字と(2)経常収支赤字という双子赤字に加え、(3)家計の収支も赤字ということにある。政府も家計も慢性的な赤字体質にあり、この3つの赤字こそ金融危機の真犯人である。

普通の国であれば、ここまで国全体が債務超過に陥ると、間違いなくその国の通貨が暴落し、深刻なインフレーションが起きる。アメリカでは、マネーサプライが増えても、通貨が暴落せず、インフレーションが起きない。その背景には基軸通貨としてのドルの存在がある。ドルは国際貿易の中で決済通貨として使われ、諸外国の外貨準備の大半もドル建て資産である。

すなわち、アメリカ政府と家計の赤字はドルの増刷(マネーサプライの増額)によってファイナンスされている。したがって、アメリカの家計は貯蓄率がマイナスでも消費を増やすことができた。

しかも、アメリカの慢性的な赤字を穴埋めできたのは日本と中国のおかげである。日中両国は米国債と米国金融債を大量に保有している。結果的に、アジアなどドル建て債権を大量に保有する国がそれを放出しない限り、ドルは大きく減価しない構造ができた。

しかし、「アジアの国際収支黒字→ドル建て資産保有増」という資金循環は続いてきたが、これ以上持続不可能である。本来ならば、金融と実物経済のバランスからマネーサプライの膨張がかなり制約されるはずである。近年の金融商品の開発と金融技術のイノベーションによって、そのリスクが隠れるようになったため、信用創造は一層膨らみ、米国家計の消費マインドは根拠なき楽観主義に陥ってしまった。

金融危機の中国への影響

1997年のアジア通貨危機の際、中国は金融市場を開放しなかったことで難を逃れた。日本を含むアジア諸国はいずれも通貨が暴落し、経済成長が大きく落ち込んだ。当時、金融市場では人民元も切り下がるのではないかとの観測が出ていた。朱鎔基総理(当時)は人民元の安定を維持することでアジア経済の発展に貢献すると述べた。ところが、中国経済もデフレに陥り、大規模の財政出動を余儀なくされた。ちなみに、アジア通貨危機の教訓として、経済成長が過度に対米輸出に依存してしまうと、不安定な成長になる恐れがあるが、その体質は基本的に改善されていない。

01年12月、中国は世界貿易機関(WTO)への加盟を果たし、市場の開放度は遥かに高まった。まず、国際貿易を中心に実体経済はほぼ完全に開放された。貿易黒字の国内総生産への寄与度は既に9.3%(2007年)に達し、外需は経済成長の重要なエンジンになっている。そして、外国の金融機関による中国の銀行への資本参加が急増している。戦略的な機関投資家を導入することで中国は海外から優れた金融技術を習うことができると期待している。同時に、中国の金融機関も海外のビジネスパートナーを拠点に海外進出しやすくなる。さらに、資本市場そのものは完全に開放されていないが、QFII(適格な外国機関投資家)のスキームで国内の投資家にのみ開放されている上海と深センのA株への投資が認められている。それに加え、国内の機関投資家もQDII(適格な国内機関投資家)のスキームで「走出去」(海外への投資)ができるようになっている。

中国市場の開放を背景に、中国経済は急速にグローバル化している。米国の景気後退との関係について、中国経済は独自で成長を続けるというデカップリング論があるが、それはいわば中国経済のグローバル化を否定するようなものである。明らかに説得力を欠いている。

確かに、今回の金融危機が起きた後も、中国経済は依然成長を続けている。07年に比べ、成長率は幾分減速しているが、それは金融危機の影響ではなく、国内の景気循環と政策運営の失敗によるものである。すなわち、5年間も続いた二桁成長はそろそろ調整期に入ろうとしている。その中で、インフレ抑制のために中央銀行は商業銀行の貸出総量規制を含む厳しい景気引締政策を実施し、景気を無理に押し下げてしまった。

結論的にいえば、中国経済は08年に9.0-9.5%の成長(表参照)を持続できると思われるが、09年に入ってから金融危機の影響が顕在化し、どれぐらいの成長率になっていくかは不透明な情勢である。

中国経済主要指標

表:中国経済主要指標(2002~2008年)

2009年の中国経済のゆくえ

08年3月に開かれた全人代(国会に相当)の記者会見で、温家宝首相は「今年は経済運営について大変難しい一年になるだろう」と述べた。何を根拠にして判断されたか不明だが、残念なことに温首相の予言は当たってしまった。

では、09年の中国経済はどのような展開を見せるのだろうか。

中国政府は8%成長の目標を掲げており、09年の成長率が8%を割り込む恐れがあると思われ、「保八」(8%成長を保つ)を09年の基本方針として打ち出した。そのために、11月4兆元(57兆円)もの景気刺激策を発表し、経済のボトムアップを図ろうとしている。現在のところ、4兆元の景気刺激策の資金構成は明らかになっていないが、その7割前後はインフラ関連の公共工事のようだ。

そもそも中国経済の潜在成長力(資本ストック+労働供給+全要素生産)は9%前後と見られている。すなわち、大きな政策の失敗がなければ、経済が9%成長を続けることは問題ないはずだ。現在、経済成長率が8%に近づく背景には、何といっても昨年来の行き過ぎた景気引締政策がある。10月末、人民銀行(中央銀行)は商業銀行に対する貸出総量規制を解除したが、既に遅すぎた。すなわち、マーケットと投資家と家計のマインドはネガティブになってしまった。金融政策はヒモのようなもので引っ張ること(引締め)ができても、押し上げることができない。人民銀行の政策判断は明らかに間違っていた。

中国経済を取り巻く環境を概観して09年の経済成長を展望すれば、既に発表されている金融緩和策と景気引締政策を踏まえて、おおよそ9%の成長が実現できると思われる。問題はその後も9%成長を持続していけるかどうかだ。要するに、一過性の景気刺激策を実施しても、市場のマインドが改善されなければ、2010年以降、経済は低迷に転じる恐れがある。何よりも、米国発の金融危機は最短でも3年ぐらい続くものと思われている。当面、輸出の拡大は望めず、内需を振興する必要があるが、いかにしてマーケットのマインドを改善するかが最重要課題となる。

そして、マクロ経済の規模の拡大が続くとしても、雇用機会を如何にして創出するかも難題だ。過去30年間、投資主導の経済成長を続けてきた結果、労働の資本装備率(資本÷労働)は大きく上昇した。言い換えれば、製造業の機械化が進んだ結果、労働生産性が上昇し、同じ規模のGDP(国内総生産)を作り出すのに必要とされる労働の量が減っている。これは中国経済が高成長を続けているにもかかわらず、雇用が改善されない背景である。要するに、雇用機会を創る観点から、製造業への投資をどんなに拡大しても、失業率が下がらない。ここで必要なのは雇用吸収力の強いサービス業の育成である。

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柯 隆

柯 隆(カ リュウ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】:1994年3月 名古屋大学大学院経済学修士取得。 1994年4月より (株)長銀総合研究所国際調査部研究員。1998年10月より現職。専門領域は開発金融と中国経済論。
【著書】:「中国の統治能力」慶應義塾大学出版会 2006年9月、「中国に出るか座して淘汰を待つか!」中経出版 2002年3月