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グローバル金融危機からの示唆

2008年12月17日(水曜日)

米国発の金融危機は全世界に広がり、世界の金融市場をパニックに陥れただけでなく、実体経済にも影響を及ぼし始めている。今回の危機を通じてどのような示唆が得られるかについて検証してみる。

示唆-1. 経営陣の超高額報酬の弊害

常識的に考えれば、金融商品と金融技術の知識を熟知したプロの投資銀行家はサブプライムローンのような資産のリスクを知らないまま、その商品に投資したとは思えない。信用力の低い低所得層は自らの所得水準を遥かに上回る住宅を購入すれば、どんなに住宅価格が上昇してもそれは評価益に過ぎず、住宅ローンそのものを地道に返済していくしかない。元利合わせて考えれば、よほどの好景気で賃金水準が大幅に上昇しなければ、返済できる見込みが薄い。多くのサブプライムローンは2段階に分かれ、最初は住宅を購入しやすいように金利が低く設定されるが、途中から金利がステップアップされる。このような金融商品の設定により金融リスクは多少分かりにくくなったが、多くの家計がいずれ返済不能になるのは最初から明らかだった。

サブプライムローンがいずれ破綻すると分かっていながら、投資銀行がそれに積極的に投資し、かつそれを証券化した関連商品を広く売りさばく背景は投資銀行の経営ビヘイビアと関係する。米系投資銀行のほとんどは経営陣と従業員のモチベーションを高めるために、経営の成功報酬として基本給を遥かに上回るストック・オプションを付与している。その結果、株価対策であれば何でもやるという傾向が次第に強まった。

今回の金融危機で経営破綻したリーマンブラザーズの前最高経営責任者(CEO)のファルド氏は2000年からの在任中に350億円もの報酬を手に入れた。同様に、実質破綻し政府によって救済されているAIGの前CEOであるジョセフ・カッサーノ氏も過去8年間300億円の報酬を受け取った。

常識的にあり得ない高額報酬につられ、投資銀行の経営ビヘイビアはますます短期的な利益を追求し、リスクマネジメントを怠るようになった。したがって、今回の金融危機の教訓の一つは米国型会社経営そのものを改革しなければならないということだ。具体的に、短期の利益追求から長期かつ安定した経営に切り替えるように経営のビヘイビアを変える必要がある。そのために、主要経営陣の報酬システムを改め、常識はずれの高額報酬を抑制しなければならない。

示唆-2. 新たなコーポレート・ガバナンスの構築

97年アジア諸国が通貨危機に見舞われた際、アメリカの研究者やアナリストの多くはアジア型のコーポレート・ガバナンスを痛烈に批判した。日本型のコーポレート・ガバナンスはメインバンクシステムが重要な役割を果たしていた。しかし、商業銀行は借り手企業に対してガバナンスをしなければならない立場にありながら、それを怠ったのである。98年長銀と日債銀および北海道拓殖銀行の経営破綻をきっかけに、日本型のメインバンクシステムによるガバナンスは大きく後退した。

その際に、アメリカ型のシェアホルダーによるコーポレート・ガバナンスが最も理想的なものとして賞賛された。株主は自らの利益のために、企業経営を積極的にガバナンスすると考えられていた。しかし、2001年米エネルギー会社のエンロンが破綻し、米国型のコーポレート・ガバナンスも万全ではなかったことが明らかとなった。

そもそも、株主の関心は会社経営の業績よりも株価の水準に集中しがちである。とくに、投資銀行のように種々の金融商品を開発し、リスクを一時的に見えないようにすることで株価を上昇させることは不可能ではなくなった。レバレッジの効いた金融取引が広がる結果、株価こそ一時的に上昇するが、金融機関のバランスシートにリスク資産が集中する。

現状において、米国型のシェアホルダーによるコーポレート・ガバナンスに取って代わる新たなものは開発されていないが、既存のコーポレート・ガバナンスが万全なものではないことは指摘しておきたい。今回の金融危機は市場の失敗であるとして、市場の欠陥を補うのは政府の役割であると指摘されている。

ところが、もし金融危機は政府が監督を怠った結果であるとすれば、市場の失敗というよりも政府の失敗である。事実、FRBのグリーンスパン前議長は自らの責任を認める発言をしている。これからは政府と市場の役割を組み合わせた新たなコーポレート・ガバナンスが考案されなければならない。

示唆-3.金融監督行政を見直す必要性

今回の金融危機がここまで広がるとは、ほとんどの専門家は予想もしなかった。世界経済は順調に成長し、インドと中国の旺盛な需要に支えられ、向こう5年間は成長が続くものと見られていた。その結果、原油と鉄鉱石などの資源価格が高騰するようになった。

しかし、9月に入ってから単なる米国の低所得層の信用不安と思われるものは全世界に広がった。そのきっかけはリーマンショックとAIGの実質的な破綻である。問題の広がりを助長したのはブッシュ政権の対応の遅さにある。が、グローバル的に広がった金融危機はもはや米国一国の力で片付けることができなくなった。米国発の金融危機はヨーロッパ、南米、アジアへと次第に広がったのである。

そこで、各国の政府当局はそれぞれ最善を尽くすつもりで危機に対応するのだが、政策そのものの一体性がなく、危機はますます広がる様相を呈した。端的にいえば、金融取引がグローバル化している中で、それに対処するグローバルの監督機関がなく、グローバルの危機に対処するリーダーシップも見当たらないなど、今回の金融危機を通して現行制度の欠陥が露呈した。

世界主要国リーダーが参加する金融サミットではIMFの機能強化が議論された。現状においてIMFの他に、新たな国際機関を設立するのは非生産的であり、事実上不可能である。したがって、IMFの機能の拡大と強化以外に方法がないかもしれない。日本は既にIMFへの追加出資(1,000億ドル)を表明している。

ここで重要なのは新たなルール作りを急ぐことである。これは市場への介入というよりも、経営破綻の恐れのある経済に対するアーリー・ウォーニングである。例えば、アメリカのような慢性的な経常赤字体質の経済に対しては、その改善を求めるのは当然のことだろう。金融機関やファンドの金融取引もある程度のレバレッジが認められるが、それを最適化する必要がある。さらにいえば、レバレッジの大きい金融取引の場合、そのリスクを明確にする透明性の確保が不可欠である。

示唆-4.ドル基軸通貨地位の再検討

1971年、ドルと金の交換を担保する固定相場制の放棄を宣言するニクソン・ショックによって、ドルの為替相場は変動するようになった。その後、スミソニアン体制を経て、1973年から主要先進国は変動相場制に移行した。その後の30数年間、米ドルは国際貿易の決済通貨となり、主要国金融資産の貯蓄手段となった。いわば、ドルは基軸通貨の地位を獲得したのである。

しかし、今回の金融危機をきっかけに、基軸通貨としてのドルの地位が揺れている。なぜならば、前述の3つの赤字を抱える米国はドルの増刷によってファイナンスしているが、それはある意味ではモラルハザードである。ドル建て資産を大量に保有する主要国は米国民のためにその穴を埋めているのである。

G20の金融サミットで、麻生総理はドルの基軸通貨としての地位を堅持すべきと主張した。これには、大量のドル建て資産を保有する日本がドルの暴落を恐れている事情が見え隠れしている。この点については中国も同じだ。胡錦濤主席は「ドルの安定を望む」と、控えめながらもドルの基軸通貨としての地位を容認している。

しかし、無条件でドルの基軸通貨としての地位を堅持するのは望ましくない。米国に対して、そのconditionality(条件)をつけなければならない。すなわち、赤字体質を改善し、金融監督の強化によって金融市場の安定を図ることである。

最後に、金融危機はまだ収束していないが、上で述べた4つの示唆から現行制度の欠陥は明らかである。今後、金融システムを再建するために、リスクが見える透明なシステムを作り、政府の監督と市場のガバナンスを組み合わせた新たなコーポレート・ガバナンスの枠組みを考案しなければならない。それに加え、金融のグローバル化を前提に、グローバルな金融監督機能を早急に作る必要がある。それを実現するには、アメリカに任せるのではなく、アジアにおいて日中のさらなる金融協力が求められるのである。

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柯 隆

柯 隆(カ リュウ)
(株)富士通総研 経済研究所 主席研究員
【略歴】:1994年3月 名古屋大学大学院経済学修士取得。 1994年4月より (株)長銀総合研究所国際調査部研究員。1998年10月より現職。専門領域は開発金融と中国経済論。
【著書】:「中国の統治能力」慶應義塾大学出版会 2006年9月、「中国に出るか座して淘汰を待つか!」中経出版 2002年3月