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  4. 技術・技能伝承への取り組み

技術・技能伝承への取り組み

失われゆく熟練ノウハウの伝承

2008年11月21日(金曜日)

1.はじめに

製造業の多くは、今後5年から10年の間に従業員の過半数を占めている熟練社員が退職する、いわゆる2007年問題を抱え、現在、技術・技能の伝承に関する様々な取り組みを行っている。しかしながら、その多くは思うような成果をあげられず、派遣社員の採用や再雇用などの一過性的な対応に留まっている。例えば、ある企業では、熟練社員の作業をビデオ撮影し、動画情報として残すなどの対策を講じてきているが、撮影目的が曖昧だったために、熟練技能を伝承するどころか、単なる作業風景としての映像にしか過ぎず、撮影した映像だけが蓄積される状況に陥っている。

筆者は、2006年から2007年にかけて富士通総研(FRI)や財団法人機械振興協会経済研究所などで「技術・技能のデジタル化」の取り組みについて研究し、また2007年より製造業を中心として技術・技能伝承に関するコンサルティングを行ってきた。そこで本稿では、これまでの経験を踏まえ、熟練者が保有している勘とコツといわれるノウハウをナレッジとして共有し、次世代へ継承するための取り組みについて、提言を行うものである。

2.技術・技能伝承を取り巻く課題

製造業を取り巻く経営環境は、2007年問題に加えて労働市場の流動化、女性の社会進出、若者の労働意識(習得意欲)の変化などの中にある。また、企業自体のグローバル展開や製品ライフサイクルの短命化などにより、技術や技能を製造現場へ効率的に伝承(移転)し、素早く生産を立ち上げ、生産性の向上に寄与する必要性に迫られている。

一方、多くの製造業の生産現場では、生産を実行するための生産プロセスが明文化されておらず、あるいは明文化されていても安全性を重視した作業標準などとなっており、熟練作業者の技術や技能がナレッジとして整理されていない。熟練作業者の技術や技能を伝承しようにも、熟練者自体がノウハウとして気付いていなかったり、また作業の自動化により若手が作業の背景や原理原則などを理解する機会が確保できないなど多くの課題を抱えている。このため、熟練作業者が第一線に立って製造活動を行わざるをえない状態となり、技能伝承の取り組みが遅れるばかりか、トラブルが発生した時に若手作業者が適切に対処できないなど、安全性低下という課題を招いている。

このような課題を解決するためには、一刻も早く企業実態に合わせた技術・技能伝承の手法を確立し、実践することが求められる。

3.技術・技能伝承の取り組み

技術・技能伝承の取り組みには、大きく2つの方向性があると考えている。第1に、技術移転や標準化など企業全体の技術レベル向上、自動化などに代表される比較的定量化や形式知化が簡単な「技術伝承」である。第2に、熟練作業者の固有ノウハウである「技」を伝承する「技能伝承」である。属人的作業の7~8割は、IE(Industrial Engineering)などの科学的アプローチを活用することにより伝承することが可能な「技術伝承」である。残りの2~3割は人間が状況に応じて判断を行いながら作業を行っている形式知化が難しい「技能伝承」であり、2007年問題で悩んでいる企業が苦慮している部分でもある。

技術・技能伝承の取り組みは、まずは自社の現状を把握して、いつまでに、何を、どのように伝承するか、いわゆる技術・技能伝承計画を、会社全体の取り組みとして明確にする必要がある。伝承目的が「全社的な技術の底上げ(標準化)」なのか、或いは「特定の熟練技能の伝承」なのかを見定め、その目的によって、進め方や効果、推進体制などの取り組む内容を決定する。例えば、人材育成計画として伝承者と継承者、伝承技能と目標レベル、育成に使用する教材(動画、作業標準等)の作成計画を策定する必要がある。

4.技術・技能伝承ポイントの特定とナレッジ化

技術・技能伝承を定義すると、「伝承者と継承者が同じ判断基準に基づき、同じ行動を行うことができること」であり、伝承者の知識、判断基準、行動を正確に把握し、継承者にとって必要な情報のみを伝承することといえる。そのためには、伝承者と継承者が一体になり、また継承者の視点に立って必要な技術・技能伝承ポイントを特定して伝承(或いはナレッジ化)する必要がある。この点をどのように捉えるかで、その後の成果に大きな違いが出ることとなる。2007年問題で課題を抱える多くの企業は、技術や技能の洗い出し(技術・技能マップ)は出来ているものの、この伝承ポイントの特定と伝承(ナレッジ化)の方法を軽視した結果、使われない動画や熟練ノウハウが含まれていない作業標準が氾濫した状況となっている場合が多い。弊社では教材型の技術・技能伝承について、これらを効率的に実現するための手順と注意すべき点について、これまで培った業務改革や情報システム企画の手法・ノウハウ、さらにはIT技術を活用し、5つのステップに体系化している。

(1)暗黙知(属人的作業)の見極め

熟練ノウハウが個人に帰属している状態で、一般的にOJTによりマンツーマンで熟練ポイントを伝承する。但し、形式知化が不十分になりがちで不特定多数の作業者に伝承するには不向きである。もちろん、既に形式知化している作業でも、作業者が創意工夫を行うことによって新たに暗黙知が発生するため、これらを随時形式知化するような取り組みが必要となる。

(2)表出(技術・技能の抽出と体系化)

暗黙知の状態である属人的作業をIE技法などの活用で形式知化し、属人的作業を構成している技術・技能を抽出・体系化する。さらに、その中から伝承すべき技術・技能を特定し、継承者が必要とする伝承ポイントを整理することとなる。この伝承する技術或いは技能を特定し伝承ポイントを整理するには、伝承者と継承者双方の作業風景(動画)を比較し、伝承者の作業に対する疑問点を継承者が質問し、習得すべき点を特定していく方法などが有効である。その際には、伝承ポイントを特定する際の視点や、継承後に継承者自身が技能を高めるような創意工夫の要素を盛り込むための仕組みづくりが必要となる。

(3)統合(既存知識と新知識の統合)

伝承すべき技術・技能、つまり熟練作業者の勘とコツといわれる熟練ノウハウを、見える化手法の活用で整理していく。具体的には、熟練者がどのような時にどのような判断で、どのような行動をしたのかを継承者が正確に把握し、理論的な裏付けとしてイラストやチェックリスト、動画などの見える化手法を活用し、作業標準などに熟練ノウハウとして盛り込んでいく。そのためには、伝承ポイントの抜けや漏れがなく継承者が必要とする情報のみを整理するためのガイドラインなどが必要となる。

(4)会得(技術・技能の習得)

教材型の技術・技能伝承では、伝承者と継承者が一体になって教材を作るため、その作成過程で試行錯誤を繰り返すことにより勘やコツを掴んでいくことになる。教材作りに参加していない作業者も、作成した教材や関連資料を使って自学習を行い、必要な技術・技能を習得していくことが可能となる。もちろん習得したかどうかについて、OJTを組み合わせた伝承内容の評価を行う仕組みが必要となる。また、学習の過程で疑問点や不明点が生じた場合、それらの内容を盛り込み、教材をブラッシュアップするための取り組みも必要である。

(5)共創(新しいノウハウ・知識の創造)

一般的に作業標準などは定期的に見直しを行うことが多いが、随時発生する修正などは見直しの期間まで盛り込まれていないケースが多い。これでは全社共通の熟練ノウハウは陳腐化する可能性が高い。従って、技術・技能伝承ノウハウを随時蓄積するような取り組み、伝承者と継承者の活動を支援する伝承トレーナーなどの人材育成、現場作業員への意識付けや技術・技能伝承を職場全体で進めるための体制づくり、教材作成ガイドラインの定期的な見直しなどが必要となってくる。また、トラブル発生など、現状と異なる状況が出てきた場合、そのギャップを埋める創意工夫を行い、その対処法を形式知化する姿勢が重要となる。継承者にそのような意識付けを組織的かつ継続的に活動することにより、教材に新たなノウハウや知識を付け加える事ができ、次世代の継承者に必要な情報を伝える事ができると考えている。

5.おわりに

伝承者と継承者が上記の技術・技能伝承サイクルを実践することにより、短期間で効率的に技術・技能伝承を行うことが可能になる。特に、この手法の適用により従来5~10年かかっていた継承が、3~5年で継承できるなど、期間的・費用的な効果は大きい。また、この伝承サイクルを通じて、伝承すべき技術・技能を特定、見える化しナレッジとして蓄積・保管・活用することで、作成した熟練ナレッジを次世代への遺産として残すことができると考えている。

本稿の技術・技能伝承は、製造業を中心に話を進めたが、サービス業や流通業・金融業などの他業種の「勘とコツ」を有する業務にも活用ができると考えている。本稿が製造業をはじめとする多くの企業の効率的な技術・技能伝承の一助になれば幸いである。

参考文献

  • 「技術・技能のデジタル化研究」報告書、富士通株式会社、2007年3月
  • 『中堅中小企業のデジタル化によるモノづくり基盤の強化』 (財)機械振興協会経済研究所2008年3月

関連サービス

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野中 帝二(のなか ていじ)
(株)富士通総研 産業コンサルティング事業部 マネジングコンサルタント
製造業のお客様を中心として技術・技能伝承、業務プロセス革新、情報化構想立案等のコンサルティングに従事。生産現場経験を活かし現場視点での改革やIT化構想への展開を得意とする。