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反故になった財政再建

2008年10月1日(水曜日)

自由民主党の麻生太郎氏が総理大臣になった。彼は2011年度までにプライマリー・バランスを均衡化させる、という方針を先送りすると公言しているので、この約束は反故になった。だが選挙を前にして誰も反対していないし、困っている様子もない。振り返ってみると財政再建は常に言われながら、最後になると腰砕けになっている。なぜこんなことが繰り返されるのだろう。私はそもそも日本人の間に誤解があるのではないかと考えている。どんな誤解か、いくつか挙げてみよう。

財政赤字は将来の負担ではない

第1に財政赤字は将来の負担になる、という考えだ。この問題を扱っているほとんどの本や論文もそのような前提に立っている。これは親が借金をすれば子供がその負担をせざるを得ないという、個人に成立することが国にも当てはまる、と当然のごとく考えているからだが、これは正しくない。国の借金は国債という形をとるが、これは現在ほとんどが国民の貯蓄で賄われている。つまり発行された時点で、消費を抑える、ということを通じて現世代の国民が負担しているのであって、将来の世代が負担させられるわけではない。逆に政府が増税して国債を償還し、国債の残高を減らしたからといって、それは現時点での民間部門や家計の消費が増えるだけで、将来の世代が楽になるわけでも無い。現在国が発行した国債のうち90%以上が郵便貯金、銀行、公的年金などで保有されているが、これらの源は全て国民の貯金であり、国民の金融資産の一部となっている。将来これを返済するために増税したとしよう。一旦は国が税金として徴収しても、すぐにまた金利や元本の返済という形で国民に返済されるので、国民の側から見れば、国債から現金に資産形態が換わっただけのことである。将来世代に負担が生じるのは国債を外国人が購入している場合だが、日本の場合その割合は7%足らずで影響は僅かだ。

それほどひどくない日本の財政

第2に、日本の財政状態は世界で最も悪い、という点だ。その根拠として国債発行残高のGDP比率が170%と、日本が先進国でも飛び抜けて高いことが挙げられる。だがあまり知られていないが大事な事実がある。それは表に示すように国債の金利負担が日本はGDPの1%にもならず、最も低いという点だ。(表中の「財政の利子支払額/GDP」参照のこと。)最大の借金を抱えていながら、金利負担が最も少ないのは国債の金利が世界で最も低いからである。国債の金利が低いのは国内に資金需要がなく、金融機関などが喜んで買っているからだ。国が無理をして押し付けているわけではない。経済学の教科書では、国債発行の弊害として、国が国債を発行して民間の貯蓄を吸収してしまえば、民間企業が将来の成長のために必要な資金の金利が上がり、投資に資金が廻らず経済成長が抑制される、という点を挙げている。だが、この20年間、日本はこのような教科書が想定するような状況からは程遠いことがわかるであろう。だから公債残高が増えてもインフレにならないし、誰も困らない。

歳入と歳出は別の問題

第3の問題点は歳入の問題と歳出の問題が区別されていないことだ。国債に依存した財政は、ばら撒きにつながるとか、逆に無駄の排除を徹底的にやるまで増税はすべきではない、とかいう意見は両者の問題を混同している。ばら撒きや無駄が良くないのは財政赤字があろうが無かろうが関係がない。議論されるべきは歳入が必要とされる支出額に満たない時さらに増税するのか、国債に頼るのかである。理論的に言えば、どちらでも後の経済に対する影響は同じと考えられる。バーロ・リカードの均等化定理と言われるもので、議論の前提などをめぐり今日でも議論はあるが、増税か国債かという議論にはあまり意味が無い、と考えるべきだ。

5年~10年のタイムスパンで財政再建を

では財政赤字をいつまでも続けてよいのか。もちろん財政規律は守られなければならない。国内で消化できないような、言い換えれば金利が上昇して、民間投資が縮小するような事にならないよう公的部門の支出規模をコントロールすることは重要だ。現在日本では家計の貯蓄が高齢化で減少し、所得の3~4%である。他方で、かつては外から資金を取り入れて投資に回していた企業は90年代以降日本経済の成長が鈍化するにつれて、投資を自己資金の範囲内に抑えるようになり、むしろ貯蓄する側に回った。その結果、家計と企業を合わせた民間部門全体ではGDPの10%近い大幅な過剰貯蓄の状態が続いている。このうち5%程度が財政赤字で吸収されたものの、残りは経常収支の黒字となり、海外に流出した。日本の経常収支の黒字幅は現在GDPの5%程度あり、これはかつて日本が通商摩擦で世界中から槍玉に挙げられた80年代よりもさらに高い。このような過剰貯蓄の状態が今後どの程度続くかによって財政再建のタイムスケジュールも決まってくる。将来を見渡せば、家計の貯蓄は今後とも高齢化の影響を受けて今後とも低下するであろう。他方、企業もいつまでも自己資金だけで成長し続けられるわけでなく、外からの資金が必要となる可能性大と見るべきだ。しかし民間の過剰貯蓄が目に見えて減少する時期は、団塊の世代が完全に退職する5年から10年後ではないか。

与謝野経済・財政担当大臣のように「日本の財政はのっぴきならないところまで来ている。」と考えている人は多い。しかし、財政は経済の一部門であり、そのあり方は企業や家計など、それ以外の部門の動きを見ながら検討すべきものである。冷静に市場の実態を見れば、国債は無理なく消化されており、直ちに手を打たなければならないようなシグナルは出ていない。冒頭言及した「2011年度にプライマリー・バランスを均衡させる」という方針は、このようなマクロのバランスを度外視して決められたから、そもそも良い経済政策ではないし、反故にされてしまうのである。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など