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日本より高い米国の貯蓄率

2008年8月20日(水曜日)

米国商務省の統計雑誌 Survey of Current Business の08年7月号が先日届いた。日本国内ではあまり関心をもたれていないが、その中に5月の所得、消費と貯蓄についての面白いデータが出ている。米国の個人貯蓄率が急上昇しているのだ。はじめにデータを紹介しよう。比較のため1年前の5月の数字と並べて書き出した。(数字は年率に換算したもの。)ここから不況に突入したと見られている米国経済の本当の姿が垣間見られる。

減っていない米国の個人所得

先ずは収入だが全体として6.4%とインフレ率(4.2%)を上回る収入増が見られる。景気後退とインフレ加速で米国人の実質収入は減っているように言われているが、今までのところはプラスの成長を維持している。勿論雇用増の効果もあるので1人当たり平均の収入ではマイナスの可能性もある。このうち大きな伸びが見られるのは公的移転所得で、これには年金などに加えて失業保険が含まれており、雇用情勢の悪化に伴い、保険金の支払いが増えていることが見て取れる。

筆者が注目しているのは税金支払額の減少だ。米国政府は本年はじめにサブプライムローン(SPL)問題の経済への悪影響を抑えるため、国民1人当たり最大800ドルの所得税の戻し減税を実行することを決めた。実際に国民に米国歳入庁(IRS)から小切手が届いたのは4月の最後の週であるから、この減税の効果は統計上は5月になってから顕れることになる。米国民が支払った税金は1年前と比較すると3,340億ドル減少している。戻し減税の総額が1,680億ドルといわれていたので、それ以外でも所得税や金利や配当にかかる税金が減少していたことになる。その結果、可処分所得は10.7%増えた。米国経済はリセッションに入る瀬戸際のような印象が広まっているが、このデータから見る限り、そのように考える根拠はどこにも無い。

米国の貯蓄率は日本よりも高い

問題は戻し減税により米国国民が手にした所得のうち、どれほどが消費に向かったかである。今までにもこの戻し減税の効果については、米国の高い消費性向から見て相当の消費刺激効果があると期待する見方と、ほとんど貯蓄に廻って消費刺激効果は少ないという見方とがあり、エコノミストの間でも意見が分かれていた。5月の支出額は前年同月比5.3%の伸びで、収入に比べて半分ほどの伸びに止まった。これは4月の5.2%とほぼ同率で、戻し減税による景気刺激効果はほとんど無かったことになる。政府の意図に反して、消費者の懐に留まってしまったのだ。

収入が失業保険や戻し減税で増えているのに対して、支出が横這っているのだから貯蓄は当然のことながら増えている。1年前の30倍だ。その結果、個人貯蓄率は1年前の0.2%から一挙に5%に上がった。この数字は1994年以来最も高い数字であり、日本の3.1%(2007年OECDデータベース)よりも大幅に高い。日本では、日本人は熱心に貯蓄をするが、米国人は借金をしつつ消費を続けている、という通念が根強く残っているが、事実はその逆になった。無論このような傾向が長期にわたり続くとも考えられないが、一時的にせよ日米の貯蓄率が逆転したことは注目に値する。

個人消費が底支えする米国経済

それでは消費を刺激しようとした米国の政策は失敗したのだろうか。そうとも言えない。米国の個人消費はGDP の70%超を占めており、これが停滞すると経済全体も振るわない。しかしながら、過去の統計をみると、米国の個人消費は景気の悪い時もそれほど大きくは落ち込まず、安定要因であることが多く、今回もそのように機能していると見るべきだ。先日発表になった第2四半期のGDPでも年率で1.9%の成長のうち1%ポイントは個人消費の寄与である。これは通常時に比べて1%ポイントほど低いが、原油の値上がりにより米国が産油国に追加的に支払っている代金がちょうどGDP の1%である。これを考慮すると米国の消費の減速は主として原油価格の上昇によるもので、SPL問題に起因するクレジットクランチや株価や住宅価格の下落によるマイナスの資産効果は一般に言われているほど大きくはないのではないか。

米国の今年前半の成長率は第1四半期0.9%(実質年率)、第2四半期1.9%と、年のはじめに予測されたようなリセッション、つまりマイナス成長にはなっていない。7~9月期は落ち込むという見通しが大勢を占めているが、その根拠は戻し減税の効果が剥落するとみられるからだ。だがそもそも減税の効果が無かったのだから、今後成長率の低下を見込む根拠も無いことになる。おそらく下半期も2%程度の成長を維持する可能性が高い。

米国依存のつけは世界が払う

米国の双子の赤字、すなわち財政赤字と経常収支赤字が世界経済の不安定要因であるとするエコノミストは多い。そういう視点からすれば、米国における個人貯蓄率の上昇は大いに結構なことだ。財政赤字は増えそうだが、家計部門で貯蓄が増えれば、米国全体としては外国の資金に頼らずにやっていける。すでに米国の経常収支の赤字は昨年夏以降、目に見えて減少している。

当然のことながら、それは米国への輸出を増やすことで成長してきたアジアや産油国にとってはネガティブな影響を持つことになる。日本のGDP 成長率は4~6月期になってマイナス2.4%(年率)と急落した。アジアもヨーロッパも当面成長率の低下が避けられそうに無い。原因は米国が収入に合わせて支出をカットしており、かつてほど輸入しなくなっているからだ。米国の巨大な市場がこれ以上外国からの商品を吸収できなくなった時、その痛みは米国だけでなく世界に拡散することになる。見方を変えれば、それは世界経済の行き過ぎた米国依存を修正するコストであり、その調整が早ければ早いほど次の成長期も早く訪れる。わが国も新興国に輸出市場を開拓するとか、内需拡大など新たな対応を迫られることになる。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など