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新公会計制度の取り組み方

―基準モデル・総務省方式改訂モデル

2008年5月7日(水曜日)

1. はじめに

2007年10月17日に総務省自治財政局長からの通知「公会計の整備推進について(通知)」により、自治体は2009年には貸借対照表、行政コスト計算書、資金収支計算書、純資産変動計算書の財務諸表4表を公表することとなった(町村や人口3万人未満の都市は2011年)。自治体は、これから相当の時間、体制及びコストを費やし、本格的に整備することとなるが、自治体によって置かれている状況がそれぞれ異なるので、その自治体に応じた方式を選択する必要がある。

しかし、既に対応している東京都、岐阜県や山形県、また昨年度の実証実験に参加した倉敷市、浜松市などを除いた多くの自治体は、どの方式を採用したらいいのかよく分からないのが現状であろう。

筆者は2002年10月から3ヶ月間東京都で、2004年に約1年間山形県で発生主義・複式簿記を財務会計システムに取り入れるために、最初のフェーズのコンサルティングを行ってきた。そこで本稿は、これまでの経験を踏まえ、今回提示された基準モデル・総務省方式改訂モデルを中立的な立場から比較し、第一歩を進み始める自治体にとって望ましいモデルを選択できるようになっていただく支援となることを目的とする。

2. 今回の改革の目的

自治体が採用している官庁会計は現金主義・単式簿記で単年度主義である。この会計の目的は、与えられた予算をその年度内にきちんと使ったかを議会に報告することである。

しかし、自治体の決算状況は、どのサービスにどのくらいのお金が使われたかというのは分かるが、人件費や光熱費などの内訳はすぐには分からない。また資産や負債の現状も正確に把握できない。そこで、現在の資産・負債状態がきちんと把握できるように、また費用対効果が明確になるように、官庁会計に加え企業会計の手法を導入するという公会計改革が進められている。

総務省は、2006年4月に「新地方公会計制度研究会」を設置し、5月に「基準モデル」と「総務省方式改訂モデル」を公表した。さらに7月から「新地方公会計制度実務研究会」を設置し、実務的な観点から検討を行い、2007年10月に報告書が公表された。同年12月にはQ&Aも出された。

今回の改革は「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」も加わり、今までの決算資料からバランスシートを作成するだけではなく、資産や負債をきちんと把握し、財務データを把握することを目的としている。

3. 基準モデル・総務省方式改訂モデルの違い

それぞれの特徴を簡単に説明する。

(1) 基準モデル

基準モデルは、開始貸借対照表を固定資産台帳等に基づき作成し、ストック・フロー情報を網羅的に公正価値で把握した上で、個々の取引情報を発生主義により複式記帳して作成することを前提としたものである。

メリット : 会計データが精緻で将来世代の負担もみることが可能である。最初に負荷があるが、一度整備すると継続しやすい。予算編成のシミュレーションも可能となる。

デメリット : 取引ごとに仕訳を行う必要があり、一括変換方式でも都度変換方式でもその作業負担が生じる。さらに1つの取引に対して、2つの仕訳(通常仕訳と財源仕訳)を行わなければならない。導入するとなると、多少のシステム投資が必要であり、作業負荷もある。ただし、負荷を軽減するために、固定資産の評価方法や標準的な仕訳パターンが提案されている。

(2) 総務省方式改訂モデル

総務省方式改訂モデルは、これまでの総務省方式とほとんど変わりはないが、加わったのは、売却可能資産をはじめに固定資産を整備することである。段階的に整備すればよいことになっているが、住宅ローンのゆとり返済のようなもので、最終的には基準モデルと負荷は同じとなる。

メリット : 勘定科目がこれまでとほとんど変わることなく、仕訳を行う代わりに計算式を解くという簡略法を導入している。さらに、固定資産の評価を段階的に整備していけばいいので、スタートがスムーズ。設備投資や作業負荷も少なくて済む。エクセルで対応することも可能。

デメリット : 固定資産については当面、普通建設事業費の積み上げが対応可能であり、勘定科目がこれまで同様、総務費、民生費など行政目的別に分類されているので、詳細なコスト把握はできない。正確な固定資産評価をするときは、追加で作業が発生する。

4. 選択し実行する際の注意点

次に、具体的に何に気をつけて、どちらの方式を選ぶか。その後、何を準備し、実行しなければならないかについて検討する。

大事な注意点としては、一般的に言われているイメージや総務省が推奨しているからといった理由だけで選択するのは危険だということがある。どちらの方式にも、メリット・デメリットが存在する。基準モデルは当初の段階が大変であるが、オペレーションを工夫し、ITシステムが機能すれば継続しやすい。総務省方式改訂モデルは、コストは低めで当初は馴染みやすいが、段階的に準備をするので、継続して整備作業が発生する。公会計は継続することがベースにあり、途中でやめることは出来ないため、その自治体に合った方式を選ぶことが最も重要となる。

それを踏まえた上で各論に目を向けると、導入時の問題点としては、①固定資産台帳の作成、②資産の評価および引当金の設定、③開始貸借対照表の作成、④財務諸表の作成形態の決定、⑤仕訳パターンの設定、⑥財務会計システムの構築または修正、⑦他システムとの連携、⑧決算整理、⑨職員の理解などが挙げられる。

この中から主だったものを抽出すると、最も時間がかかるのが、①固定資産台帳の作成である。情報は自治体内部に存在するが、使える情報に整備し、継続して活用するためにシステム化しておく必要がある。「総務省方式改訂モデル」であってもいずれは整備しなくてはならない。そして、そのデータをどこが管理するかも重要となる。②資産の評価と引当金の設定もルールを決める必要がある。有価証券・基金などの評価や貸付金・未収金などの回収不能分の引当金がこれに該当する。④以降については、自治体全体の財務諸表を作りたいのか、それとも事業別なのか、変換入力は発生するごとなのか、一括変換したいのかといった財務諸表の作成形態も検討する必要がある。それによってふさわしいシステムも見えてくる。

5. おわりに

どちらの方式を選んだとしても、多少の強弱はあるにせよ一定の負荷はかかる。数年後も含めた改革全体の負荷はどれもほぼ同じと見たほうがよいだろう。その中で自治体の財政や人員の状況などを鑑み、総務省の定める公表期日に対し、実現可能性の高いものを選択するのが現実的といえる。ただし、それだけを目標にするのではなく、継続して活用できるように各自治体における導入の目的も一緒に検討してほしい。公会計は継続するのが前提条件なので、簡単にやめることはできない。やめることは無駄に繋がるからである。

公会計改革は、今見えている課題だけでなく、開始してから見えてくる課題も沢山あるが、その都度庁内でよく話し合って検討し、必要に応じて外部の力を借りれば解決できるので、忍耐強く一歩ずつ確実に進んでいって欲しい。複式簿記・発生主義への移行や資産評価の精度化は今後も進むと思われるので、本稿が実現の一助になれば幸いである。

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柏木 恵 (かしわぎ めぐみ)
(株)富士通総研 公共コンサルティング事業部マネジングコンサルタント。税理士。
国内外の税や会計の研究および国・地方自治体に対するコンサルティングを行っている。専門分野は財政再建、公会計、行政経営、官民連携、公益法人改革など。