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米国の経済危機は短期に終わる

2008年4月17日(木曜日)

日本のバブル崩壊と米国の状況は違う

目下米国経済に対してはほとんどのエコノミストが悲観的な見方をとっている。今年前半のGDP成長率はゼロからマイナスで、これだと公式にリセッションということになる。去る4月11日に公表されたIMFの見通しでは2008年の米国の成長率は0.5%、来年も0.6%だから米国の景気低迷は2009年一杯続くと見ているようだ。それ以外の国際機関や、民間金融機関なども同様に、サブ・プライム・ローン(SPL)に端を発した今回の金融危機は根が深く、解決に長時間かかるものと判断しているようだ。日本のバブル崩壊後の経済低迷を克服するのに10年以上要したのが思い出されるような、世界的大不況の始まりのような感覚が広まっているが、筆者は逆に、比較的短期に終了すると考えている。その理由を以下7つの点から考えてみよう。

米国の人口は増えている

第一に、米国は今でも人口が年に1%ずつ増えている、世界的にも最も人口が拡大している経済だ。それにつれて住宅の需要も着実に増えることになる。SPLにより一時的に住宅が過剰供給になって、値崩れを起こしたとしても、いずれは元に戻るはずだ。日本のバブル崩壊後の土地の値崩れは、日本の人口がピークに達して、減少し始めたときに起こった。日本では地価が90年以降下落し続け、2005年以降わずかに反転したが、ここに来てまた下落し始めた。これは人口減少という根本的な問題が背後にあるからだ。日本では現在でも700万戸の住宅が過剰である。米国の住宅価格の下落が止まるまでに日本と同様に長期の時間がかかるというのは当たらない。

米国はデフレではない

第二に米国は今インフレだ。インフレということは実質金利は名目よりも低いということになる。実際のところ米国の政策金利は現在2.25%、消費者物価指数(CPI)は本年2月時点で前年同期比で4.0%だから実質金利はマイナスだ。これなら、資金需要は当然盛り上がってくる。日本は90年代を通じて長期にデフレに悩んだ。このため金利をゼロにしても実質金利は1~2%に留まり、資金需要の拡大の妨げになった。日銀が量的緩和をいくら進めても資金需要が出てこなかったのはそのためだ。

ドル安は米国経済の回復を助ける

第三に為替レートの状況が違う。現在ドルは世界的な主要通貨に対して悉く安くなっている。2007年夏から見ると1~2割の下落だ。実は円以外の通貨に対しては2000年以降徐々に低下してきており、円だけが日本の低金利政策のため例外的にドルに対して下落していたが、それも昨年夏以降は反転し始めた。その結果米国の輸出は盛り返し、経常収支は著しく改善している。勿論これは米国の成長率を押し上げる効果をもたらしている。日本のバブル崩壊の後の円の動きはこの逆であった。円は上昇し続け、1995年には1ドル80円を超える円高が出現し、輸出は落ち込み日本の景気回復を妨げた。

財政も下支えしている

第四は財政政策である。米国ではいち早く本年1月に所得税還付と設備投資減税による、総額で1680億ドルの財政刺激策を講じることを決めた。金額的にはGDPの1.3%に該当するが、これが民間の購買力となって需要面から消費や投資の下支えとなるはずだ。勿論このうちどの程度が実際に消費に廻るかは不明だ。だが5月以降実際にこの金が消費者の懐に届けば、もともと消費性向の高いアメリカ人のことでもあり、夏以降の消費の回復に相当の効果を持つと考えられる。これに対して、90年代の日本は財政再建を最重要政策課題としていたから、そのような柔軟な対応が出来なかった。そればかりか97年には消費税の増税を断行し、その結果更なる需要不足に陥り、経済の低迷を長期化させてしまった。

問題の先送りをさせないコーポレートガバナンス

第五は企業ガバナンスの差である。米国ではシテイバンク、メリルリンチ、ベア・スターンズなどの大手銀行や証券会社のトップ経営者が、SPLの焦げ付きによる巨大損失の責任を取って辞任した。後任のCEOは当然のことながら、不良資産は前任者の責任であるとして、出来るだけ表に出し、財務状態を悪く見せ、そこからの回復を自分の業績にしたいと考える。したがって不良債権隠しや問題の先送りを行うインセンテイブは無い。むしろ短期間に膿を出し、次の成長の準備が早く進むことになる。

資本回復に世界中が応援

第六に毀損した銀行の自己資本の回復である。貸し倒れなどの損失は利益の中から償却することになるが、その結果自己資本が減少すれば、新たな自己資本の調達を行わなければならない。この新たな資本調達がかつての日本よりはるかに順調に進んでいる。中東や中国、シンガポールなどの政府系ファンドは進んで米国の銀行に資本を提供している。その結果、計上された損失額のかなりはすでに補填されているようだ。たとえばシテイ・グループの損失は昨年末時点で299億ドルに対し、アブダビ、クウェート、シンガポールの国営投資ファンドから合計220億ドルの投資を受けることになっている。同様にメリル・リンチも170億ドルの損失に対して、128億ドルがすでに確保されている。米国政府自体は直接的な資金提供は避けているが、ベア・スターンズの救済に乗り出したJP・モルガン銀行には債務保証の形で事実上資金の提供に乗り出している。このように世界中のファンドが米国銀行に資本参加しているのは、米銀の将来性に依然として信頼を置いているからであろう。このような外国からの助け舟は日本の場合には現れなかった。最終的には公的資金の資本注入を行ったが、それはバブル崩壊後10年近く経過したタイミングであった。

産業の競争力は失われていない

第七。バブル崩壊後の日本経済の低迷が長期化したのは、この時期、日本のリーデイング産業であったIT産業が技術革新の波に乗り切れず、米国や韓国、台湾企業に後れ、世界市場での地位を失っていった、ということが重なったことがあげられる。たとえば半導体産業では80年代半ばには世界市場でのシェアが50%を超えていたのにもかかわらず、90年代末には30%を下回る水準にまで落ち込んだ。それ以外のIT商品も競争力を失い、ソフト分野での積年の弱さも改善されなかった。そのため、エレクトロニクス産業全体として、日本経済を牽引する力を失った。米国経済はすでに軸足をものづくりからサービスに移している。今回問題となったSPLの結果、金融セクターでさまざまの問題が顕在化することになったが、だからといって米国の金融産業が革新力を失い、衰退していく、と考える人は少ないのではないか。

今が底?

このように見ていくと、今回の米国の金融危機の結果、米国経済全体が日本と同様の長期の不況に陥ると考える理由は少ないように思われる。実際に米国経済が反転に向かうのはいつか、予測は難しいが、実は住宅市場の調整はだいぶ前から始まっていた。住宅着工件数は2006年初めから減少に転じており、供給は絞られてきている。問題のSPLは2005,6年と相当出されたが、2006年後半以降急速に絞られた。通常いわれるように2年の据え置き期間とすると、2008年後半までには問題となるローンは大方顕在化するのではないか。だとすれば、今年の後半にはSPLの処理は大方目鼻がつき、米国景気も回復軌道に戻ることが考えられる。昨年秋以降下落を続けてきた米国の株価も本年3月に底を打ち、わずかながら反転し始めている。今が底なのかも知れない。

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根津 利三郎

根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など