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ネット上の口コミは信用できるのか

2007年8月23日(木曜日)

先日公開した「CGMと消費者の購買行動」という研究レポートの中で、私はCGM(消費者生成メディア)の普及にともなって消費者の購買行動が変化していることを実証しました。CGMで流布する情報とは消費者の口コミのことですが、ネットが普及する以前は、私たちが入手できる口コミといえば、知人などのごく限られた範囲に限定されていました。文字通り、「井戸端会議」が口コミのもっとも重要な発信源であり流通場所だったわけです。

ところが、インターネット、その中でも、ブログやSNSなど情報発信に特別な技術を必要としないツールやサービスの普及によって、井戸端に代わってインターネットが口コミにとってもっとも重要な場所となりました。消費者は、インターネットにアクセスすることによって、地理的・時間的な制約に縛られずに、井戸端とは比較にならないくらい豊富な口コミを手に入れることができます。そのような豊穣な口コミが消費者の購買行動に影響を与えていることは、直感的に理解できることでしょう。私が今回発表したレポートは、データを使ってその直感を実証したものでもあると言うこともできます。

ネット上の口コミはニッチ市場向け

インターネット上の口コミは、企業のマーケティング活動にも大きな影響を与えます。実際に、先進的な企業はCGMを重要なマーケティング・ツールとみなし、さまざまな新しいマーケティング手法を実践しています。ところが、その一方で、「ネット上の口コミは信頼性が低く、まともなマーケティングには使えない」という意見も少なくありません。そして、そのような意見の持ち主と会話してみると、マーケティングやプロモーションと言えば、テレビ・コマーシャルのように、企業がマス(大衆)を対象にして仕掛けるものを思い浮かべる場合が多いようです。

確かに、高度成長期には日本中の国民がほぼ同じものを競って購入しましたし、そのような場合には企業から多くの消費者へと一方的に情報が伝わるマス広告がもっとも効果的でした。しかし、私の研究レポートの中でも指摘したように、いまや「ロングテール現象」の時代です。少数の売れ筋商品よりも、多数のあまり売れない商品の合計の方が、企業に利益をもたらす場合も少なくないのです。そのような時代には、消費者自身が発信した情報の方が、企業がマスに向かって発信した情報よりも、特にニッチ(隙間)市場では強い訴求力を持っています。「ロングテール現象」は、口コミがマーケティングの中で重要になることも意味しているのです。

CGMのインパクトについて、代表的なひとつの質問は、「口コミがきっかけになって売れたような有名な商品を教えてほしい」というものです。自分で「価格コム」や「@コスメ」の口コミを参考にして商品を購入したことのある人であれば、実際に自分がそういう経験をしているわけですから、こういう質問はしないでしょう。つまり、このような質問をするのは、CGMという言葉こそ聞いたことはあるけれども、実際にそれを参考にして買い物をしたことのない人たちだと思われます。

そのような質問に対して、たとえば自動車やデジタルカメラの製品ブログの事例を紹介しても、そのような商品のことは知っていてもブログの存在は知られていない場合が多いのです。したがって、そのような人たちに、製品ブログが商品の売上に少しでも貢献していることを実感してもらうのは簡単なことではありません。また、化粧品や菓子、アクセサリーなどの事例(CGMだけでなく非ネットの口コミで売れたものも含む)を紹介しても、そもそもそのような製品の存在が知られていない場合も少なくありません。彼ら・彼女らは、「CGMで売れている商品を自分が知らないのだから、CGMの影響は小さい」と判断してしまうようです。しかし、CGM上の口コミはニッチ市場でこそ本領を発揮するものです。皮肉な言い方をすれば、「CGMで売れた商品を教えてほしい」という人たちが知らない商品が売れているということ自体が、CGMがマスを対象とした誰でも知っている商品ではなく、ニッチ市場の商品にこそ適していることを証明しているのかもしれません。

大切なのは「信頼性を高めるために何をすべきか」

ここまでの説明で、ネット上の口コミはニッチ市場でこそ意義が大きいことは理解していただけたと思います。しかし、問題を複雑にしているのは、「ネット上の口コミは信頼性が低い」という意見が、ニッチ向けの情報であろうがなかろうが、まったくの間違いではないことです。私は、一部の人たちが指摘するように、「2ちゃんねる」の情報がすべて「トイレの落書き」と同じようなものであるとは考えていませんし、落書きがまったく信頼できず、まったく価値がないものだとも考えてもいません。しかし、インターネット上の匿名掲示板には信頼できない情報が少なくないことも事実です。ブログやSNSといった新しいタイプのCGMは、情報発信者の匿名度を低めることで情報の信頼性を高める工夫をしていますが、それでも匿名性が完全になくなるわけではありませんし、匿名度が低いからといって情報の信頼性が高いとも限りません。

平均的にみるとCGM上の情報の信頼性が低いのは、新聞やテレビ番組などといった専門家によって編集された情報を扱う旧来のメディアと比べて、止むを得ないところもあります。しかし、CGMのよいところは、専門家による編集が加えられていない生の情報がそのまま発信されていることです。したがって、CGM上の情報の信頼性が低いことを指摘して、そこで思考停止してしまうと、CGMのよいところを生かすこともできません。大切なのは、CGM上の情報の信頼性が高いか低いかを議論することではなく、CGMから信頼性の高い情報を得るためにはどうすればよいか、ということを考えることです。

ネット上の口コミから、信頼性の高い価値のある情報を得るためには、まず、ひとりひとりの情報の受け手が情報の信頼性を自分で判断できるようにならなければなりません。これは、程度の差こそあれテレビ番組のような旧来のメディアでも同じことであり、CGMに対してはいわゆる「メディア・リテラシー」が旧来のメディア以上に求められているということです。しかし、個々の受け手のリテラシーに期待することには限界がありますから、情報の信頼性を高めるためには、CGM運営者自体の努力も欠かせません。具体的には、発信された情報を他のユーザーが評価できるような仕組みや、個別の情報を他の情報と連結させることによって、個別の情報を単独で評価するのではなく、他の情報との関連性の中で評価できるような仕組みを提供することが考えられます。

eコマース(電子商取引)で普及し始めているアフィリエイト・プログラムもネット上の口コミにもとづいたものであり、商品評価には効果的です。しかし、最近は特に情報商材と呼ばれるようなデジタル・コンテンツの分野では、その商材を誉めることによって評価者にも多くの収入が得られるようにアフィリエイト料を異常に高く設定することもあるようです。そのような場合には、買い手の正確な評価ではなく、商品の売り手によって操作された情報が口コミによって伝わってしまうことになります。ネット・オークションの相互評価にしても、最初は高い評価を集めて買い手を安心させ、最後に多額の商品を出品して料金だけ受け取って姿を隠してしまう、という詐欺の手口もあるようです。このような口コミの悪質な操作は、CGMの長所を台無しにしてしまう自殺行為とも言えます。そこで、そのような人為的な操作を事前的に不可能にする方法や、事後的に無意味にする技術なども必要になります。繰り返しになりますが、アフィリエイト・プログラムやユーザー同士の相互評価も含むネット上の口コミをビジネスに活用するためには、それが信用できるかどうかを議論するだけではなく、信頼性と価値を高めるために必要な施策を検討することが必要であり、そのような施策を実現できた企業は、CGMを土台にして高い競争力を獲得できるはずなのです。


浜屋 敏(はまや さとし)
経済研究所 主任研究員
1986年、富士通(株)入社、(株)富士通総研へ出向。1993年、米ロチェスター大学経営大学院卒業(MBA) 。早稲田大学IT戦略研究所客員研究員。
専門領域は、インターネットビジネスや電子商取引の動向、ITが企業経営や産業構造に与えるインパクト、IT投資と組織アーキテクチャ・生産性の関係。
最近の著書・論文に「手にとるようにウェブ用語がわかる本」(かんき出版、編著)、「CGMと消費者の購買行動」(富士通総研 研究レポート)など。