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海外金融業界動向「BPOへの取り組み」

2007年7月17日(火曜日)

金融業界における「利ざやの縮小」、「合併・統合」および「グローバル化の進展」などの経営環境の変化はわが国のみならず、世界的に共通して見られる傾向ですが、これらを背景にそれぞれの金融機関は「終わることなきロー・コスト・オペレーション化」への取り組みを迫られています。規制緩和や自由化の進展によって「総合金融サービス化」への拍車がかかる中で、業務効率化の観点から「コスト競争力の源泉」をどこに求めていくか、業務プロセスのベンチマーキングを行った上で、競争優位を追求するために組織内に留保すべき業務プロセスとコスト削減を実現するために外部委託すべき業務プロセスを峻別する取り組みが始まっています。そこで今回は、近年、注目されているBPO(Business Process Outsourcing)と呼ばれるアプローチが欧米の金融機関においてどのように適用、活用されているのか、その一端をご紹介したいと思います。

1. 欧米金融業界でBPOが注目される背景

情報システムの開発や運用などのアウトソーシング、いわゆるITO(Information Technology Outsourcing)は既に欧米の金融機関のみならずわが国の金融業界でも取り組みが進んでいますが、近年、そうした情報処理に係わる業務のみならず、業務プロセスをも包含した形態でのアウトソーシング、BPOが注目されています。

その背景としては、金融機関を取り巻く競争環境が一段と厳しくなる中で、金融機関本来の業務プロセスに経営資源を集中してオペレーション・コストを削減しようとしたり、新たな事業分野に進出するためのリソースを捻出しようとしたりしている姿勢が伺われます。いずれにしても、ある調査結果によれば、近年、北米の金融機関ではITOを上回る伸び率でBPOがオフショア対応という弾みもあって伸長していると報告されています。

2. 今後の市場拡大が期待される金融関連BPOサービス

いわゆるITOが既にかなり一般に普及、浸透しているのに対して、金融関連のBPOはまだ緒についたばかりと言っても過言ではないでしょう。金融ビジネスに関連するBPOサービスがどの程度利用されているかという観点で主要な業種別に比較すると、電力・ガスなどのユーティリティ関連や一般製造業などが最も進んでいるようで、それに次いでハイテク産業や情報通信業、物流、小売りというような順番となっています。こうした成熟度を受けて、金融機関でも取引先企業のSCM(Supply Chain Management)に対応するようなCMS(Cash Management Service)を提供しつつあります。

このような金融関連BPOサービスには金融機関の関連会社はもちろんのこと、独立系のサービス会社やITベンダー系など参入して市場は急拡大しています。

3. BPOの対象領域と具体的な適用事例

それでは、欧米の金融機関でどのような業務領域に対してBPOを適用しているのか、その全体像といくつかの具体的な事例をご紹介したいと思います。

金融機関における業務を汎用的なバリュー・チェーンとして分類すると、「商品(サービス)開発」、「マーケティング」、「セールス」、「顧客サポート」および「トランザクション処理」というように分けられます。これらの中で最初にBPOサービスへの展開が始まったのは、決済サービスを中心とする「トランザクション処理」の分野で、米国のカード会社では現物の取り扱いも含めたBPO専門会社としてThird Party Processing会社が活躍しています。それを追いかける形でコンタクト・センターなどの「顧客サポート」の分野でBPOの適用が普及しています。近年では、「商品(サービス)開発」の領域でも専門性を生かしたBPOが始まっています。

具体的な取り組み事例としては、企業の売掛金・買掛金などの運転資金を効率的に管理するためのソリューションを北米の金融機関では提供しています。これは取引先企業の財務部門などにおける資金管理を金融機関ならではの高度なサービスによって効率化することを通じて手数料収入を得る有力なサービスとなっているものです。米国では依然として小切手による決済の割合が高いために、現物の処理などをイメージ処理とワークフローで効率化するサービスは取引先企業からの引き合いやニーズは極めて強いものがあります。

4. わが国金融機関に対する示唆

最近、わが国の金融機関でも経営効率化を追求する方策としてアウトソーシングという選択肢は次第に定着しつつあるように思われます。しかしながら、今のところ情報システムに関連するITOがほとんどでBPOについては必ずしも肯定的なスタンスではないようです。欧米の金融機関における取り組みでも伺われるように、BPOサービスは金融機関自身が自らのコスト削減によって経営効率化を図るという側面と同時に、金融機関が提供している商品を組み合わせた戦略的な付加価値サービスを提供するという側面があるという両面で捉えるという点が重要です。特に、決済サービスなどのような金融取引では金融機関の取引相手にも同じような業務プロセスが組み込まれていることからそれらを金融機関が請け負って受託ビジネスとすることで新たなサービス商品に転換できることを改めて前向きに検討すべきではないでしょうか。

従来、収益構造という観点で欧米の金融機関と比較した場合に、わが国の金融機関は依然として金利収入に依存する割合が高いという特徴はあまり変化ないし改善されていないように見受けられます。金融機関が保有する情報分析力と情報処理能力を組み合わせることによって新たな付加価値をもった戦略的なサービス商品が創造されることを期待してやみません。

BPOへの取り組み [342KB]


田村 雅靖(たむら まさやす)
金融コンサルティング事業部 プリンシパルコンサルタント
1979年富士通(株)入社。1986年(株)富士通総研へ出向。銀行、証券、保険及びノンバンク(クレジット・信販、リース)など広義の金融業界の顧客向けに「経営管理」や「マーケティング」などのアプリケーション企画、ソリューション企画等を中心としたビジョン策定型、問題解決型コンサルタントとして活動中。
中小企業診断士、システム監査技術者、特種情報処理技術者、富士通コンサルタント認定資格:シニアマネジングコンサルタント(経営)