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海外金融業界動向「情報資産の活用」

2007年1月25日(木曜日)

以前、「デジタル革命」という言葉が流行した時期があったように記憶していますが、実際に今日では文字情報のみならず動画や音楽など様々な情報がデジタル形式で膨大に蓄積されて、それらの情報がインターネットを介して流通しています。まさに情報が到るところに氾濫している「情報過多」の時代となっています。最近、着目されている「Google検索エンジン」はまさに地球規模で欲しい情報を検索することを可能にして、必要に応じて専門家の知識やアドバイスを居ながらにして入手することが可能になっています。そこで、今回は金融機関の中に存在する情報資産をいかに活用するか、欧米の金融機関が行っている取り組みの一端をご紹介したいと思います。

「競争優位」を左右する「情報資産の活用能力」

近年、欧米の金融業界でも競争力を高めるために勘定系システムや営業店システムなどの基幹システムのみならず、情報系システムなどへの投資も積極的になっています。特に、金融機関として保有する様々な情報をいかに日々の経営や業務に活用するかという観点から、組織内に散在しているデータを集約して、それらを正規化しながら、組織共通の情報資産として統合するための情報系システムを構築する取り組みが行われています。

具体的には、総合金融サービスを提供するためのマーケティングやセールス支援のための営業情報はもとより、目下の法制度対応テーマであるリスク・マネジメントやコンプライアンスなどの経営管理情報がその対象となっています。こうした分野は業務的にも専門的なスキルやノウハウが求められることから、金融機関内部のスタッフの増強や育成もさることながら、外部のコンサルタントなどプロフェショナルの活用も増加する傾向にあるようです。

「情報資産」の「検索」、「分析」そして「ビジュアリゼーション」

企画部門や経営管理部門などにおける業務で利用される情報は必ずしもあるデータベースに集約されている訳ではなく、組織内の様々な部署に散在していることが一般的でしょう。従って、まずはそれらの情報の所在を明確にするために検索という作業が必要です。最近では、Googleを組織内に導入する「Enterprise Search Platform」と呼ばれるアプローチでこうした検索機能を実現するケースも増えているようです。

次に、検索されたデータを正規化して共通的な形式で統合化し、関連する情報との関係付けを行い、それらを利用者に判りやすく表示することが必要です。このプロセスでは、いわゆる「データ・マイニング技術」も活用されていますが、利用者の視覚に直接的にアピールするような「ビジュアライゼーション技術」も重要です。

「情報資産」活用のための基盤整備とパートナーシップ

「Enterprise Search Platform」に象徴されるように、「情報資産」を戦略的に活用するためには、やはり統合的な情報処理基盤が必要です。従って、欧米の金融業界では、銀行にとどまらず、保険会社や資産運用会社などでも一元的なプラットフォームを構築しつつあります。基幹業務やCRMなどと連携しながら、顧客接点から得られる情報をいかに蓄積して、分析するか、それらを一元的な情報処理基盤の上で実現する仕組みを整備する取り組みが始まっています。

また、近年のように規制緩和のみならず、法制度が年ごとに変化、改訂されている経営環境では、金融機関としても単独で変化に追随するには自ずと限界もあります。そこで、リスク・マネジメントに代表される専門的な業務分野では外部のプロフェショナルとの協働を模索するケースが増えているようです。そうしたパートナーシップを構築することによって、新たな分析手法を見いだしたり、新商品への対応をスムーズに行ったりすることができるのみならず、増大傾向にあるコストをある程度抑制することも可能となっています。いずれにしてもそうした外部の専門家とのパートナーシップを試行することも、情報資産の有効活用を図る上で効果的なアプローチとなっています。

わが国金融業界にとっての示唆

以上、ご紹介してきたように、基幹データウェアハウスのみならず、目的別のデータマートなど、金融機関の内部にはかなりの「情報資産」が十分に活用されないまま眠っていると言っても過言ではないでしょう。わが国の金融機関として今後、これらの「情報資産」を戦略的に活用するために参考とすべき点を以下に述べたいと思います。

第一には、イントラネットや検索エンジンが普及したお蔭で、今やすべての情報を物理的に一カ所に統合する必要性はなくなりつつあります。むしろ、さまざまな情報技術を組み合わせることができる情報基盤の整備に取り組むべきでしょう。第二には、データの蓄積にあたっても、XML(eXtended Mark-up Language)のような標準化を積極的に取り入れるべきでしょう。そして、最後に、第三として、データの分析などにあたっては、外部の専門的なサービスを利用しながら戦略的な「情報資産」活用を図ることが必要です。

かつて、データウェアハウス技術がわが国の金融機関に紹介された頃には、各金融機関がこぞって「統合顧客データベース」の構築に鎬を削ったものでした。しかしながら、収集されるデータの信頼性や正確性、さらには情報の鮮度維持などの課題からかならずしもすべての金融機関で所期の目的が達成されている訳ではありません。そんな状況は欧米金融業界でも同様で、“Garbage In Garbage Out”(ガラクタを集めてもガラクタしか出てこない)と皮肉られたものです。こうした苦い経験を踏まえると、真に実務で必要な最低限の情報をいかに集めて、いかに活用するか、その方策が求められています。

情報資産の活用 [269KB]


田村 雅靖(たむら まさやす)
金融コンサルティング事業部 プリンシパルコンサルタント
1979年富士通(株)入社。1986年(株)富士通総研へ出向。銀行、証券、保険及びノンバンク(クレジット・信販、リース)など広義の金融業界の顧客向けに「経営管理」や「マーケティング」などのアプリケーション企画、ソリューション企画等を中心としたビジョン策定型、問題解決型コンサルタントとして活動中。
中小企業診断士、システム監査技術者、特種情報処理技術者、富士通コンサルタント認定資格:シニアマネジングコンサルタント(経営)