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海外金融業界動向「Webマーケティング」

2006年10月20日(金曜日)

先日、日本経済新聞に「金融機関に対する顧客満足度」の調査結果が紹介されていましたが、インターネット専業銀行やインターネットを積極的に活用している金融機関が上位にランキングされていたことはまだ記憶に新しいところです。一方、さまざまなWebサイトを閲覧する際に利用されるブラウザ技術も、最近、Web2.0と呼ばれる新たなインターフェースの登場によってリテラシーは格段に向上しつつあります。欧米金融業界でも保険会社の銀行子会社やプライベート・バンクとしてのインターネット専業銀行が顧客の支持を受けています。そこで今回は、欧州、特に構造変化が著しいイギリスの金融業界において保険商品のマーケティング戦略を推進する上で、顧客接点としてインターネットがいかに活用されているか、Webの活用という観点からその取り組みをご紹介したいと思います。

1.イギリスにおけるインターネット人口の増大

イギリスでは1998年時点で、個人所帯の僅か9%、220万人しかインターネットを利用していなかったのに対して、2004年11月には個人世帯の52%、1,260万人が利用するほどの普及、浸透を見せています。また、イギリス国家統計局の調査によれば、2000年にインターネットを利用した人口は総人口の45%であったのに対して、2005年2月時点では65%にまで増大しています。

個人の日常生活におけるこのようなインターネットの普及は様々なセグメントごとにその影響は異なるでしょうが、いろいろな商品やサービスを探索したり、比較したり、そして最終的に購買するという一連の消費行動のプロセスに決して無縁ではないでしょう。

2.引き続いて起こったオンライン保険ブローカーの台頭

金融取引へのインターネットの応用という点からすると、単純な証券仲介や資金決済などとは異なり、保険取引は商品自体が複雑で、その説明が求められることから、従来、営業員を中心とした対面取引が続くだろうという楽観的な予測が一般的でした。しかしながら、既に述べたようなインターネットの日常生活への浸透によって、イギリスにおける保険販売の構造は劇的な変化を遂げつつあります。

個人顧客にとっては、保険契約を締結するにあたって必要な、保険料率を試算したり、商品特性を比較したりできることで一連のプロセスが効率化されることが歓迎されると同時に、保険会社にとっても顧客開拓費用や事業費などを抑制できることからシェアが急拡大しています。インターネットで保険商品を購入する個人顧客は確かにある種のセグメントが多いと言われていますが、その傾向は次第に拡がりつつあることから、向こう5年程度は引き続き強含みの伸びを示すものと推定されています。

3.”Long Tail”の経済性とCRMの再評価

改めて言うまでもなく、金融商品は「色も形もない、サービス商品」ですから、人通りが多く、地価も高いメインストリートにわざわざ店舗を構えて商品を販売する必要は本質的にはないと言えるでしょう。わが国の「金融改革プログラム」が求めているように、いかに「必要としている真の顧客に、良質で多様な商品・サービスの選択肢を、好ましい方法でしかも適正な価格」で提供、ないしアクセスできる環境を構築するかが重要でしょう。

19世紀の経済学者であるパレートが実証したと言われている「80/20の法則」は、インターネットという地球規模の経済・社会インフラの登場によって経験則としての説明力を失いつつあるという論調を展開しているChris Andersonは、インターネット時代における市場構造の変化を”Long Tail”という言葉で表現しています。すなわち、インターネットの普及によって世界中の顧客の好みや選好がデジタル情報で把握できる今日、決して20%の主力商品で80%の売上が達成される訳ではなく、インターネットというインフラを駆使することで主力商品以外の残り80%でも相応の収益が確保できるという現実を明らかにしています。

今後、冒頭で述べたWeb2.0と呼ばれる次世代技術が普及するにつれて、金融機関と顧客とのリレーション形成にも変化が生じるものと思われます。すなわち、従来のいわゆるCustomer Relationship Management 、CRMが商品・サービスの供給者側の論理で構築されがちであったのに対して、Web2.0などの活用によって利用者、すなわち真の顧客主導によるCustomer Manage Relationshipという構造的な転換が起こるかも知れません。

4.わが国金融機関に対する示唆

総務省が取りまとめて発表した「平成15年通信利用動向調査」によれば、我が国でもインターネット利用者が7,730万人に達し、人口普及率でも初めて60%を超えたことが報告されており、インターネットの利用という点ではイギリスに引けを取らない状況です。そうした意味では、イギリスの保険販売で起こったような構造変化がいつわが国でも始まるか予断を許さない状況にあると言えるかも知れません。折しも、「銀行の窓口における保険販売の全面解禁」という規制緩和が目前に迫っていることを勘案すると、金融商品・サービスのマーケティング戦略を企画、推進する上で、インターネットをいかに活用するかという課題は極めて現実感をもってきました。このような時代の変化を先取りしながら、ビジネス・モデルを自己革新してきた金融機関もわが国に既に存在するのではないかと推察されますが、今後、さらなる拡がりをみせていくのではないかと思われます。

もちろん、こうしたインターネットによる取引の拡大は決して手放しで歓迎できるものではなく、一方で「デジタル・デバイドへの配慮」、「ウイルス感染などに対する情報セキュリティの確保」および「個人情報の保護」など、弊害を除去する観点からも然るべき対策が同時並行的にこうじられることが求められています。

Webマーケティング [427KB]


田村 雅靖(たむら まさやす)
金融コンサルティング事業部 プリンシパルコンサルタント
1979年富士通(株)入社。1986年(株)富士通総研へ出向。銀行、証券、保険及びノンバンク(クレジット・信販、リース)など広義の金融業界の顧客向けに「経営管理」や「マーケティング」などのアプリケーション企画、ソリューション企画等を中心としたビジョン策定型、問題解決型コンサルタントとして活動中。
中小企業診断士、システム監査技術者、特種情報処理技術者、富士通コンサルタント認定資格:シニアマネジングコンサルタント(経営)