Skip to main content

English

Japan

景気の転換はビジネスの転換

2006年6月19日(月曜日)

強い経済のファンダメンタルズ

5月に入り東証株価が急落した。17,300円から14,000円ぎりぎりまで怒涛のような落ち方だった。ところが、それもつかの間で6月半ばからは再び上昇に転じている。今回の急落は国内に原因があるというよりも世界中のマネーがリスクから逃避したことが大きな要因だ。そして回復を見せているのは、わが国経済のファンダメンタルズの強さ故だろう。証券市場では浮沈があったが、経済は何も変わっていないのである。

コンサルタントは経営者と話す機会が多い。最近感じることは、経営者が自信を持っているということだ。バブル期のようないけいけどんどんではなく、冷静に変化を読み取ろうという姿勢も感じられる。また、われわれとの議論の中から引き出そうとするものも違ってきている。「本業に関しては自分たちが一番良く分かっているので外部からの口出しは無用。その代わり、しばらく控えてきた先行投資をどうするかを一緒に考えて欲しい」とこんなところに興味が移りつつある。今勝ち組といわれる企業は技術投資を怠りなくやってきたが、それを利用した新しいビジネスというところまでは思いが届いていない。新ビジネスモデルやマーケット開拓をどうするかという課題である。

変わるコンサルティングへの期待

こんな状況を反映してコンサルティングに対する要請は自ずと違ってくる。先日まではBPRであり合理化をどうするかが最大の焦点だった。贅肉を落として筋肉質になる競争だったが、さすがに今日の勝ち組と呼ばれる企業は単純なスリム化でなかったようだ。とはいえ、長い間リスクを排除する体質だったために、どのようにリスクを取れば良いか分からなくなっている。

最近の要請は新しいビジネスをどう開拓していくかということだ。新しいビジネスであるから当然リスクは内在する。一昔前であれば「ともかくやってみろ」という具合にリスクをしっかりと見据えないまま新ビジネスに突入していった。経済全体のパイが拡大していたから、幾分無謀な試みも成功した例は少なくなかった。

ところが、今日のビジネス事情は成功パターンが定まっていない。個人の消費行動も多種多様であり流動的だ。したがって、新しいことをやろうとすると一つの決め打ちではなく複数の手を用意しなければならないし、同時にそれぞれがトライアンドエラーを繰り返し、その中から方向性が見えてくる。問題はこの試行錯誤にあるのではなく、それを行うための出来合いの仕組みがないことだ。

トライアンドエラー向きのITの先には

BPRや合理化のコンサルティングの先にはさまざまなITソリューションが用意されていた。温度差はあるものの、大方の企業はITソリューションの導入によって一定の合理化効果を期待できた。ところが今要請されている新ビジネス開拓には有効な出来合いのITが存在しない。新しい事柄だから当然のことだ。さりとてIT抜きにビジネスを語れないことも事実である。つまり、トライアンドエラー用のITが欲しいのだが、そのビジネスのスタイルができていないのである。

この現象をITベンダーからの視線に転じてみると、それはそれで興味深いことだが、それはIT開発の専門家に委ねたい。コンサルティング側から見る限りだが、幾つかのポイントがあるようだ。かつてのウォーターフォール型の開発に比べればWEB型になって柔軟性は増したと思っている。技術的には十分対応できるはずだ。難しいのは開発コストに失敗のリスクを織り込む余裕がなくなっていることではないだろうか。新ビジネスには小回りが利いて融通無碍のITマンが必要だ。そして、今ビジネスの転換点に来ているとすると、これからITソリューションの転換にも入るはずだ。次のITビジネスの形態を見出す時期に来ていると言えるだろう。


佐々木取締役顔写真

福井 和夫(ふくい かずお)
常務取締役第一コンサルティング本部長
70年富士通に入社。95年富士通総研取締役研究開発部長に就任。98年に同総研取締役金融コンサルティング事業部長兼研究開発部長、2005年常務取締役第一コンサルティング本部長に就任、現在に至る。他に、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師、日本コーポレート・ガバナンス・インデクス研究会(JCGR)監事も勤める。著書に「新たな制約を超える企業システムの構想」「ネットワーク時代の銀行経営」(富士通出版)などがある。