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国際収支不均衡に関する新たな議論

2006年3月31日(金曜日)

米国国際収支の赤字の拡大が止まらない。2005年の経常収支赤字は7800億ドルとGDPの6%に達し、さらに増加し続けている。このうち1/4は中国、1割は日本で、それ以外のアジアを加えれば6割は対アジアである。米国はヨーロッパとも赤字になっており、黒字を稼げるのはオーストラリアなどほんの数カ国である。

働かなくなった経済理論

これだけの赤字であれば常識的にはドルは下落するのが当然だ。ところが円レートは120円程度とむしろドル高である。ユーロとの関係では1Euro=$1.2とややユーロ高だが基本的にはドルは安定している。言い換えれば赤字国の通貨が下落して、その国の製品の競争力が増し、輸出が増えて均衡が回復される、という経済学者が思い描くようには世界経済は動いていない。また赤字国で輸入が増えて国内産業がダメージを受け失業が増える、というようなことも起こっていない。伝統的な経済理論が働かなくなっている。

去る1月末米国のFEDの議長に就任したバーナンキ議長は、アジアの過剰貯蓄が世界の経常収支不均衡の原因である、と語ったと伝えられている。経済学者なら、経常収支はその国の貯蓄と投資の差額であることは誰でも知っている。米国の赤字の大半がアジアの国によるものであることからそのように言ったのであろう。米国より遥かに貧しいアジアの国が貯蓄をし、それで豊かな米国の消費を更に高めているのだ。開発経済学の常識である、豊かな国が資本や技術を提供して後発国の発展を支える、という図式とは逆になっている。

米国はその巨大な市場を発展途上国に開放することで彼らの発展を支えているのだ。

米国の強みは市場と頭脳

なんとも自分勝手な議論であるが、確かに米国が経常収支の回復のために輸入制限をして一番困るのはこれらアジアの国だ。WTOなど国際交渉の場で米国が何故あのように強い交渉力を持つのかといえば、そのbuying power が巨大で全ての国がそれに依存しているからだ。中国は米国から人民元の切り上げを再三にわたって迫られているが、容易に譲歩しない。米国への輸出が止まって困るのは米国よりも中国だからだ.日本も2002年、3年あたり強力に為替市場に介入し円安操作をした。対米輸出の落ち込みを恐れたからである。今米国産業界からはこのような外国政府の為替操作を辞めさせるよう圧力が高まっている。

もちろん諸外国が米国の過剰消費に漫然と資金を提供しているわけではない。なぜ外国は米国に資金を預けるのかといえば、米国は金利が高く、国内で運用するより遥かに儲かるからだ。米国財務省証券(10年もの)は金利が4.5%と日本より3%ポイントも高い。米国企業の収益性は日本よりも遥かに高い。そして、これが最も重要なのだが、米国は世界一の所得水準にあるのにも拘わらず成長率は3~4%と先進国では最も高い。バイオもITも米国にたち打ちできる国はひとつも無い。中国やインド等世界中の優れた頭脳が米国に集まっている。彼らが中心となってベンチャーや若い企業が次々と登場し、米国経済を引っ張っている。この他国には見られないダイナミズムが米国の強みのだ。Knowledge economy の今日、経常収支の黒字、赤字は国の力を測る上では重要な指標ではないことを米国の生き様が示している。


根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など