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重要な生産性問題

2005年12月8日(木曜日)

先月、自民党のセミナーで中川政務調査会長が「米国と比べて日本の生産性の伸びが遅れている。何故なのか自民党が設立を検討しているシンクタンクで考えさせたい。」と発言していた。これは重要な問題提起である。日本はこの二十年近く対外不均衡から始まって、医療、年金、財政赤字などは大いに議論してきたが、生産性のことには無関心であった。生産性がなぜ重要かといえば、生産性の向上は生活の向上のための唯一の手段だからである。

先進国最低の労働生産性

OECDの統計によれば1991年から2005年までの15年で日本の生産性の伸びが米国を上回ったのは5回だけだ。米国は76年から90年までの平均が1.1%だったものがそれ以降平均して2.2%に上昇したのに対して日本は3%から1.5%に半減した。こうして一時はかなり米国に追いついた(統計によっては日本が逆転した)筈の日本が再び差をつけられ始めている。以上は伸び率の話だが、絶対水準では日本は先進主要国の中で最低という調査が社会経済生産性本部から公表された。米国は双子の赤字、つまり財政赤字と経常収支赤字の拡大が止まらず、いまにもドルの暴落が起こりそうな議論が広く信じられているが、実は過去20年間、ドルの対円相場は110円前後で殆ど変わっていない。それどころか最近では逆にドル高にさえなっている。何故こんなことになるのか。米国は世界で最もダイナミックな経済で世界中から優れた頭脳が集まり、イノベーションが起こり、新しいビジネスが生まれている。それらのポテンシャルの高い企業が世界中の投資家に信頼され、投資が呼びよせられるからだ。

生産性向上の鍵はintangible asset

もうひとつ注目すべきデータがある。GDPに占める設備投資の割合である。日本は2005年時点で16%、米国は11%である。付加価値のうち日本の方が常により高い割合を設備投資に振り向けてきたのに生産性は米国に劣る。これは今日日本経済が直面している重要な問題を示唆している。すなわち、今までは生産性の向上のためには新型設備を導入し機械化、自動化を進めることが不可欠と考えられてきた。しかし米国で起こっていることは生産性の原動力は設備や機械といった見える資産から見えざる資産(intangible asset)、あるいは知的資産( intellectual capital)といったソフトな資産に移っているということである。この見えざる資産にはR&D、ブランド、ビジネスモデル、人材、ソフトウェア、情報、社会的信用、顧客といったものが含まれる。これらは設備とは異なり償却資産ではなく、コストとみなされて通常資産計上されない。例えばITの世界では米国企業は生産設備を持たず、ファウンドリーに委託し、自らはR&Dや  サービス、ソフトに特化することで競争力を高めている。

今こそ取り組むべきサービス分野での技術革新

日本企業も見えざる資産に対する考え方を全面的に変える必要がある。とかくサービスと技術革新とは結びつかないが、サービスこそイノベーションが必要なのだ。先に述べた米国の生産性も伸びているのは流通、金融、通信といったサービスセクターが多数含まれる。医療や教育のような公的サービスもITを駆使すればかなりの生産性向上が見込まれる。しかしサービス分野でのイノベーションはその進め方ももたらす効果も製造業とは異なったものになる。サービス・サイエンスが今求められているのはこのためだ。大学や公的研究機関も含め日本全体で取り組むときである。


根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など