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メタバース~現実の社会と並列・並存する「もうひとつの世界(社会)」~

主任研究員 大塚宏子

2008年5月30日(金曜日)

皆さんは、『スノウ・クラッシュ』という本をご存知でしょうか。郊外都市国家(バーブクレイヴ)と呼ばれる小国家集団に分裂した近未来のアメリカを舞台に、ピザの配達人で、ハッカーであるヒロが、仮想世界内でスノウ・クラッシュという新種ドラッグ(コンピュータウィルス)を試してみないかと誘われたことから、現実の世界と仮想の世界で物語が展開していくSF小説です。この作品は、1992年に、ニール・スティーヴンスンが発表したものですが、“メタバース”の概念が初めて登場した小説と言われています。

メタバースは、超越を意味するメタ(meta-)と、世界を意味するユニバース(universe)を合成した造語ですが、簡単に言うとネット上に存在する三次元の仮想空間(仮想社会)のことです。利用者はこの空間の中でアバター(自分の化身)を操作しながら、他の利用者(アバター)とともにコミュニケーションし、また、経済活動を含んだ社会生活を営むというものです。少し乱暴な言い方をすると、実社会と並列・並存する「もうひとつの世界(社会)」がメタバースであるとも言えます。

“ニューメディア”や“マルチメディア”という言葉が喧伝されていた時代をご存知の方々は、似たような言葉として“バーチャル・リアリティ”や“サイバースペース”を想い起こすことでしょう。これらの言葉や概念と、メタバースとの違いは、“バーチャル・リアリティ”のように感覚にフィードバックする機能が、将来はともかく現状はないこと。また、“サイバースペース”のようにウェブやゲームなど、現実社会には存在していない空間までを全て含んでいるわけではないこと、という整理がなされています。

今日、メタバースが注目される大きな理由の一つは、仮想空間内のルールがオープンソース化されており、利用者自らが仮想空間内で様々なものを創造したり、変更したりできるという点です。アバターがコミュニケーションするなど、類似のものはこれまでも存在していましたが、これらと比較すると、メタバースは利用者にとっての行動や活動の自由度が非常に高くなっていると言えます。とりわけ、経済活動に関しては、従来の広告や物品・情報の売買に加え、利用者が仮想空間内で作成・制作した衣類や建物などについて、著作権や所有権が認められており、その取引に仮想通貨が使われるとともに、仮想通貨そのものが現実社会の通貨と交換できる点は重要なポイントと言えます。昨今、話題になっている米国リンデンラボ社の『Second Life(セカンドライフ)』は、まさにメタバースの代表例なのです。

日本におけるメタバースの構築は、2007年3月に「splume(スプリューム)」がリリースしたのを契機に、この1年で急速に活発化してきています。それも、多様なメディアを対象にしたものが次々と登場してきており、携帯電話向けのメタバースサービス『メタモ』にはじまり、SNS(*1)分野やオンラインゲーム分野(MMORPG(*2);多人数参加型RPG)など、各種のメタバース展開が行われています。なお、各メタバースの仮想空間内における自由度に関しては、それぞれのサービスによって異なっているのが現状ですが、「もうひとつの世界」を志向するという点では共通した取り組みと言えます。

今後の展開に関しては、仮想空間内のルールがオープンソース化されているというメタバースの特徴を活かし、これまで個々に構築されてきた多くの仮想世界が、相互に接続するマルチバース化が進展するとの見方が主力になってきています。もうひとつの世界が相互に連携し、また、拡大し、新たな仮想社会を形成するようになるということです。こうした動きに対し、日本人の性格や行動様式を踏まえると、目的のない空間で自発的に行動することは難しいのでは、との否定的な見方もありますが、メタバースの提起する概念と、その様々な特徴や本質は、次世代のネット社会を考える上での重要な鍵やヒントを示しているものと考えますので、注意深く、その動向を見守りたいところです。

注釈

(*1) SNS : Social Networking Services / Sites

(*2) MMORPG : Massively Multiplayer Online Role Playing Game

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