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2017年に注目すべきFintechトレンドとは?

~オープンバンク化の進展によるBaaSの誕生~

2017年1月16日(月曜日)

新年あけましておめでとうございます。本年もIdeaTankをどうぞよろしくお願いいたします。2017年最初の本コラムでは、今後、注目すべきFintechトレンドとして“BaaS”についてご紹介したいと思います。BaaSとはBanking as a Serviceの略称であり、IT業界における SaaS (Software as a Service)のように、銀行サービス自体をいわば「クラウドサービス」としてAPIを介して提供する潮流です。毎年、年末年始にかけて多くの金融系メディアにおいて1年の金融動向の振り返りと今後の動向予測についての特集記事が掲載されます。海外の金融メディアでは、BaaSについてもブロックチェーンやAI活用と並んで言及されることが増えています。主に海外において注目が高まるBaaSですが、その背景には何があるのでしょうか? 以下では、BaaSと関連性の高い2016年のFintechトピックを振り返り、最後にBaaSによりもたらされる金融サービスの変革について考えたいと思います。

BaaS注目の背景(1) ~Fintech推進に向けた規制改革の進展~

Brexitや米国大統領選挙など、2016年は大きな政治的変動が起こった年として記憶されることは間違いありません。Fintechの分野においても各国で重大な規制改革が次々となされ、今後の発展のあり方に大きな影響を与えるものと思われます。特に、英国におけるオープンバンキング推進に向けた規制改革、そして米国において、規制当局がFintech企業に対しても銀行免許を与える方向に舵を切ったことは大きな進展であると言えます。

まず、英国を中心に見ていきますと、2016年2月、オープンAPIに関する統一的なフレームワークであるOpen Banking Standardが公表されました。さらに同年8月、英国の公正取引委員会にあたるCMA(Competition and Markets Authority)より、金融機関やFintech企業間で顧客情報を安全に共有するためオープンバンキング推進の勧告がなされるなど、政府としてFintechを次世代の基幹産業の担い手とすること、これからの金融サービスの受け皿として拡大させていくことが示されました。現に英国では、こうした流れを受けて後述のChallenger Bankと呼ばれる新形態の金融機関が当局により続々と認可を受け、今後もこうした動きが継続していくと考えられます。

これまで、Fintech企業の発展と比較して規制改革が追いついていない感のあった米国でも、Fintechが今後さらなる発展を遂げるうえで重要となる規制改革が行われようとしています。2016年12月、米国金融機関の監督官庁であるOCC (Office of the Comptroller of the Currency: 通貨監督庁) より、Fintech企業に対して金融機関免許を付与する憲章(通称Fintech Charter)の草案が公表されました。これまで米国では、Fintech企業は州ごとに個別に認可を受ける必要があり、PayPalやSquareといった代表的なFintech企業も各州で独自に認可を受けていました。この憲章により、Fintech 企業は全米で一斉にそのサービスを展開することができ、Fintech企業がそのサービスを拡大させていくうえでの障壁が取り払われることとなります。

このように2016年は、英国と米国双方でFintech 企業がそのサービスを展開していくうえで有利となるよう規制改革が進んだ1年でした。今後、政治的先行きが不透明な状況が続きますが、規制当局がFintech企業によるサービス変革の推進、もしくは、オープンバンク化によるFintech企業と既存金融機関との連携強化の方向に舵を切っているのは間違いないようです。

BaaS注目の背景(2) ~英国を中心としたChallenger Bankの興隆~

2016年は、Challenger Bankと呼ばれる新業態の金融機関が英国を中心に数多く誕生した年でもあります。Challenger Bankとは、世界最大の辞書Oxford Dictionaryによると、「伝統的な大規模金融機関にビジネス上で対抗する比較的小規模な金融機関」と定義されます。ドイツのFintech調査会社Burnmarkによると、現在世界で開設中もしくは開設予定のChallenger Bankは67存在し、うち40ものChallenger Bankが英国において開設もしくは開設予定となっています。

これまで、Challenger Bankと言えば、MovenやSimpleといった既存金融機関との提携により顧客向けフロントサービスを代替提供するNeobankのことを指し、銀行免許を取得せずに、いわば「銀行代理店」としてサービスを展開するものが主流でした。しかし、英国では2015年から2016年にかけて、Atom Bank、Monzo、Starling、Tandemといったスタートアップ企業が、当局から銀行開設の認可を取得し、開業もしくは開業準備に入っています。また、Zopaのようにオルタナティブレンディング事業から銀行業に参入することを目指すFintech Startupも存在し、その門戸は拡大しつつあります。今後もChallenger Bankは続々と誕生していくと目されており、Bank of Englandでは、2016年7月時点で上記スタートアップを含め20以上の事業者と銀行免許付与に向けた交渉を行っていると公表しています。

Challenger Bankの多くは、スマートフォンを中心としたデジタルチャネルを通じて若年層向けに洗練されたサービスを提供し、これら顧客から収集したデータの活用に長けています。データ分析から顧客ニーズに即応した商品・サービス提供を行うことを目指し、他事業者との連携を重視したオープンな開発体制を整えています。例えば、Atom Bankは、外部事業者と提携して来年早々にも自行の顧客向けに住宅ローンの提供を検討しています。Challenger Bankにおける先駆的存在であるドイツのFidor Bankは、すでに20のFintech企業と提携して自社サービスの強化を図っています。

2017年には多くのChallenger Bankが本格的にサービスを開始することとなります。今後の動向次第ですが、Challenger Bankがビジネスとして成功し、彼らのオープンエコシステムに基づく商品・サービス開発体制が今後の主流となる場合、それを支えるバックエンドについてもフロントでのAPI連携を意識した効率的かつ柔軟な基盤であることが必要となるでしょう。

BaaS注目の背景(3) ~グローバル大手行によるオープンバンク化~

英国、米国における規制改革は、既存金融機関のオープンバンク化を推進し、今後、金融機関とFintech企業との提携がより進展していくと思われます。この際、重要となるのはAPIによるシステム連携であり、一部の金融機関では、顧客の残高情報の照会や送金時の機能呼び出しなど、一部機能に関するプログラムコードや規約をAPIとして公開しています。

2016年は、スペインのBBVAや米国のCitibankなど、外部開発者向けにAPIの公開を行う大手金融機関が増加した年でもあります。金融機関は、APIの公開によりFintech企業など外部開発者と共同でのサービス提供が可能となり、アイデアに富むFintech企業がUX (User Experience) の高いフロントサービスを開発し、伝統的な金融機関が堅確性の高いバックエンドサービスを担うといった協業がより容易になります。APIを開放し、より多くの企業に金融サービスの参入を促進することは、消費者の利便性向上や取引コストの低減につながると考えられます。

各国の政策的な後押しから、2017年以降も、大手金融機関を中心としたAPIの公開は続くと見られます。Fintech企業とのAPI連携を前提とし、既存金融機関によるサービス提供体制が変化する場合、Challenger Bankでの議論と同じくバックエンドの変革が必要となってきます。

新たなFintechトレンド“BaaS”とは?

これまで見てきたとおり、Fintech企業などの外部事業者と金融機関の連携を促進するオープンバンク化が政策的な後押しを通じて進展する中、新形態の金融機関Challenger Bank、既存の金融機関双方において、フロントサービス(営業店、インターネット、モバイルなど)では外部事業者とのAPIを介した連携が意識される一方、バックエンドサービス(堅確な事務プロセスや高信頼な情報システム)では、APIを通じてもたらされるトランザクションについて、より効率的に処理することが焦点となるでしょう。

BaaSとは、こうした柔軟なシステム基盤をバックエンド上で実現することを目的に、金融機関における基本機能(勘定系などのトランザクション処理)をクラウド上で共通の「サービス」として提供し、そのうえで多様な開発者が提供する「アプリ」を稼動させることを目指したものです。

BaaSにおける金融サービスモデルは、従来の製造から販売までを提供する「垂直統合」型モデルと大きく異なります。それは、多様なプレーヤーが機能ごとにサービス提供を行う金融サービスの「アンバンドリング化」を実現するものです。金融サービスのアンバンドリング化により、例えば、フロントサービス上では、Fintech企業が顧客への訴求力の高いサービスの開発・提供に特化し、バックエンドでは、金融機関が従来どおり堅確性の高い業務処理を担うといった役割分担も考えられます。

すでにその予兆となる動きが、世界各地の金融機関で見られます。例えば、米ボストンの小規模金融機関Radius Bankでは、外部サービスとの連携を重視した基幹系システム(パッケージ)を導入し、Fintech企業によるサービス連携により、短期間で個人間送金、個人向け融資、デビットカードリワードプログラムなど利便性の高い個人向けサービスの提供を実現しています。また、前述のFidor Bankは、自行の基幹システムを発展させることで、Fidor OSと呼ばれる金融機関向けOSを開発し、他行での利用拡大を目指しています。つまり、BaaSがiOSやAndroid OSのように振る舞い、金融機関はFintech企業と連携してそのOS上で顧客ニーズに合ったアプリを提供するビジネスモデルへと変化しつつあるのです。

BaaS(Banking as a Service)の概念図
BaaS (Banking as a Service) の概念図

おわりに

金融サービスのアンバンドリング化の進展により、利便性の高い金融サービスを提供するFintech企業が顧客から支持を得てそのビジネスを拡大させる一方、バックエンドにおいて差別化を図ることが難しい金融機関はコスト削減やリスク対応といった負担を担うなど、そのビジネス上で“Cream Skimming”(いいとこ取り)が発生することも考えられます。金融機関においては、オープンバンキングのトレンドを踏まえ、自社のチャネルから、事務プロセス、情報システムなどをもう一度見直し、いずれが顧客に対する本質的な価値であるかを見極め、的確に自社のビジネスを再定義することが求められます。

Fintech企業の参入に伴い、金融機関における伝統的なサービスのトランザクションが減少する恐れがある一方、IoTなどの新たなテクノロジートレンドはトランザクションを増加させる可能性もあり、それを支えるバックエンドサービスは、コスト効率とスケーラビリティを両立させるものである必要があるでしょう。また、顧客ニーズに適応したより柔軟なサービス提供の仕組みが求められることからも、金融システムをクラウドサービスの形態で提供することは、ある意味、論理的な帰結と言えるかもしれません。また、こうした課題を解決するICTソリューションを金融機関に提供することが事業者にとっての使命であると考えます。弊社では、今後とも金融機関のお客様に貢献し得るリサーチ・コンサルティングを継続して行っていきます。2017年もよろしくお願いいたします。

(米国富士通研究所 松原義明)

参考リンク

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