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顧客セグメントにフォーカスした金融サービスの新潮流(3/3)

2012年4月26日(木曜日)

3. 他業態コラボレーションによる新金融サービスSCENE CARD(カナダ)

3.1 SCENE CARD誕生の背景

最後にご紹介するのは、カナダ五大銀行の一つであるScotia Bankが2007年より映画館チェーンとのコラボレーションにより始めた若年層向けのクレジットカード、デビットカードサービスです。

Scotia Bankの課題は、若年層のシェアが極端に低いことであり、特に、2004年から2006年にかけて、18~34歳までの解約率が二ケタを超えるなど、カナダ五大銀行の中でも特に若者に人気のない銀行となっていました。同行は、若年層に訴求できていない原因を銀行が持つ重苦しい、活気のないイメージ、そして、いかにも会社じみたところにあるのではないかと推測しました。<図1‐2>

Scotia Bankの年代別成長率と解約率(2004‐06年)

<図1> Scotia Bankの年代別成長率と解約率(2004‐06年)
出典:Scotia Bankセミナー資料よりFRI作成

カナダ五大銀行年齢階層別銀行シェア(2004年)

<図2> カナダ五大銀行年齢階層別銀行シェア(2004年)
出典:Scotia Bankセミナー資料よりFRI作成

3.2 SCENE CARDの誕生

こうした状況下、同行が注目したのが、若者に人気のあるコンテンツとのコラボレーションです。一見、銀行と関係ないサービスの中で活用してもらうことで、同行の持つ“楽しくない”イメージを払拭できるのではと期待したのです。具体的には、カナダの若者にとって人気のコンテンツであり、且つ、そのライフスタイルを形成している、映画、音楽、そしてファーストフードに着目し、これらコンテンツと金融サービスとのコラボレーションを考えました。Scotia Bankでは、カナダ最大の映画館チェーンであるCinePlex社と提携し、“SCENE CARD”と呼ばれる新たなポイントカードサービスを立ち上げ、クレジットカード、デビットカードを新たに提供することとなりました。<図3>

SCENE CARDのイメージ

<図3> SCENE CARDのイメージ
SCENE CARD Webサイトより
https://www.scene.ca/home.aspx

SCENE CARDの会員は、提携映画館チェーンで映画を一回見るごとにポイントが付与されます。無料会員は映画館での利用でしかポイントが付与されませんが、クレジットカード、デビットカード会員になると、普段のショッピングでカードを利用してもポイントが付与されます。また、若者を意識した会員専用特典が用意されていることも特徴で、貯まったポイントは、映画の無料鑑賞券、ポップコーン無料券など映画館チェーンと提携したものに交換可能なほか、ファーストフードの商品券、映画や音楽の無料ダウンロードクーポンなど、若者にとって本当に“使える”特典が用意されています。

3.3 SCENE CARDのマーケティングプロセス

このように、SCENCE CARDでは若年層を意識した商品設計が特徴となっていますが、そのマーケティングプロセスにおいても若年層の関心を強く惹くことを目指しています。SCENE CARDでは、無料会員から銀行にとって収益を獲得できるクレジットカード、デビットカード会員へと誘導するため、「認知」、「獲得」、「きずな」の醸成というマーケティングプロセスを適用しています。

まず、利用者にSCENE CARDを「認知」してもらう段階では、ネット上でのバナー広告、映画上映前のスポット広告を積極的に活用しています。また、レコード会社と提携し、売出し中の音楽グループを宣伝に活用したり、新車発売時に自動車メーカーと共同でタイアップキャンペーンを実施したりするなど、若者が興味を持つイベントで集中的にキャンペーンを実施することで話題を生み出し、口コミでこうした話題が広っていくことを狙っています。

続いて、有料会員の「獲得」にあたっては、一般の顧客に向けたキャンペーンばかりでなく、“内部”向けにもキャンペーンが実施されました。具体的には、Scotia Bankの若い行員に対して、SCENE CARDに関する研修を実施し、カード会員への勧誘が行われました。自行の行員がSCENCE CARDのメリットを知り、有効に活用する中でSCENE CARDのファンとなり、一般顧客に対しても熱心に勧誘するようになりました。このほか、一般顧客向けに空港や繁華街などで継続的にキャンペーンを実施することで、常に若者の話題に上ることを目指しています。

最後に、長くSCENE CARDを活用してもらえるよう、会員との間に「きずな」を醸成する段階では、ソーシャルメディアの積極的な活用に加え、若者の参加を促し、SCENE CARDに愛着を持ってもらえるようなキャンペーンを継続的に実施しています。2009年には、クリエーター志望の若者にSCENE CARDの15秒コマーシャルを作ってもらう“Director’s 2 Chair Contest”を開催しました。コンテスト期間中には、延べ400以上ものSCENEC CARDの“コマーシャル”がキャンペーンサイト上に集まり、他ユーザーからの投票により優秀作品が選ばれました。期間中、キャンペーンサイトの動画閲覧者数は100万人を超え、キャンペーン自体もカナダの様々なメディアで取り上げられました。

3.4 SCENE CARD導入による効果

SCENCE CARDでは、2007年のサービス開始から、2010年までの3年間で約300万人の会員を獲得しました。CinePlexにおける1年間の若年層の利用者数は約750万人であり、若年層利用者の約3分の1がSCENE CARDの会員となった計算になります。うち、100万人はScotia Bankに口座が必要なクレジットカード、デビットカードの会員です。Scotia Bankとしては3年で100万人の若年層を新たに獲得したことになります。

こうした若年層の獲得という直接的な効果に加え、副次的な効果も出ています。SCENE CARDの会員に対して、ブランドイメージを調査したところ、Scotia Bankに対して肯定的なイメージを持つ若者が増えたとの結果が出ています。また、課題となっていた解約率についても2010年の調査では、18~40歳の年齢層で、解約率が平均して5%減少するという結果がでました。

加えて、クレジットカード、デビットカードの利用状況から、若年層に対する詳細なマーケティングデータの収集が可能となり、今後のサービス企画に向けた大きなアドバンテージが得られています。他業態とのコラボレーションにより短期間で効果を上げることができたScotia Bankでは、今後とも若年層向けサービスをより一層充実させることを目指しています。

まとめ

これまで、金融機関の多くは特定の顧客セグメントにフォーカスして商品やサービスを提供するよりむしろ、全ての顧客に対して分け隔てなく商品やサービスを提供することを基本方針としてきたように思われます。しかしながら、人々の価値観が大きく変化し、個々のニーズも多様化している昨今、金融機関としてもターゲットとなる顧客セグメントを明確化し、商品やサービスをターゲットに合わせて提供するとともに、顧客とのコミュニケーションを活性化することが必要です。日本国内においてもソーシャルメディアの台頭といった社会情勢の変化に伴い、顧客セグメント別のアプローチが有効になってくると予想され、従来と比較してより収益性の高い顧客を囲い込むことが可能となるかもしれません。

今回ご紹介した海外金融機関の事例からは、このような取り組みを行うにあたっての3つの重要なポイントが浮かび上がってきます。第一に、利用者側の目線に徹底して立ち、商品、サービス提供を行っていること。第二に、FacebookやTwitterなど新たなプラットフォームを有効に活用し、ターゲット顧客とのコミュニケーションを活性化させていること。第三に、Planningを徹底的に行い、必要に応じてサービス立ち上げ前に検証フェーズを設けるなど、サービス企画においてPDCAサイクルを意識したプロセスを有していることです。これら3つのポイントは、我が国の金融機関が特定の顧客セグメントにフォーカスして、商品やサービス提供を行う上で重要な示唆を与えるものです。

富士通総研では、今後とも継続的に海外金融機関におけるリテール分野の成功事例や最新の金融ITソリューションに関する動向調査を実施してまいります。こうした調査結果については、定期的に弊社の印刷媒体やセミナーなどを通じてご紹介する所存です。

(おわり)
(マネジングコンサルタント 隈本 正寛)
(シニアコンサルタント 松原 義明)

関連リンク

顧客セグメントにフォーカスした金融サービスの新潮流(1/3)

顧客セグメントにフォーカスした金融サービスの新潮流(2/3)