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新規事業創造の第一歩―ユーザーが本当に欲しがるものを見つけるために現場で問いかけ解を探る―

実現したい未来は、洞察を起点に構想する

企業の中長期戦略や新規事業の企画で重要なことは、いかに5年後、10年後の未来を描き切るかではないでしょうか。他社と異なるユニークな未来を構想する意義や押さえたいポイントについて紹介します。
(チーフシニアコンサルタント 黒木 昭博)


2019年9月9日

はじめに

企業の中長期戦略や新規事業の企画の際に重要になるのは、いかに5年後、10年後の未来を描き切るかということではないでしょうか。いわゆる「ありたい姿を構想する」、「自社の将来ビジョンを明確にする」必要性はいつの時代にも否定されることはありません。一方、昨今では立案する力そのものが不足していることも指摘されています(注1)。また、単なる声かけやスローガンのみで終わってしまうケースや、売上・利益のストレッチ目標や改善指標ばかりが前面に出ているケースも少なくありません。これらを踏まえると、未来を描くということは、言うは易し、行うは難しと言っても過言ではないかもしれません。
 本稿では、他社とは異なる“ユニークな未来を構想する”ことに焦点を当て、改めてその意義や押さえたいポイントを紹介します。(注2)

実現したい未来を描く意義は3つある

「ありたい姿」、「ビジョン」を描く必要性が強まるタイミングは様々ですが、そういった実現したい未来を描く意義はそもそもどこにあるのでしょうか? 大きく3つあると考えています(図1)。

【図1】実現したい未来を描く意義
【図1】実現したい未来を描く意義

(1)は、自分たちの「ありたい姿」を追求した結果につながります。これは、どのような事業を営むかだけでなく、それを通してどのような業界や社会にするのか、ということまでを含むものだからです。これにより、今後施策を立案する際、なぜ取り組むのかの認識が関係者間で揃うという意義があります。そうすると、(2)のビジネスや施策の方向性が考えやすくなります。つまり、実現したい未来に資するかどうかという視点から施策の要不要の判断ができるようになるのです。そのような判断基準を得られれば、(3)にある関係者の自律的なアクションにつながります。これは1つの施策がうまくいかなかったとしても、目指すところは1つであるため、それに向けた別ルートを考えやすくなるという点でも有効になると言えます。

注意したいことは、実現したい未来は、売上・利益目標、改善指標とは分けて考えるべきだという点です。この手の数値は未来とは紐づくものの、あくまで到達水準としての結果指標と言えます。そのため、実現したい未来を現場が動き出すものにするためには、数値指標だけでは不十分であると言えます。

予測するのではなく、洞察する

実現したい未来を描くときに忘れてはいけない前提として、企業は絶えずコンテクストの中にあるということが挙げられます。政策・規制、社会やマーケットの状況、技術などのいわゆる外部環境に囲まれた中で企業は存在し、その関係は切っても切り離せません。そのため、このコンテクストをいかに読むかが大切です。この中で、自社の機会を見出すとともに、社会の中でどのような存在になりたいかを表現することが、実現したい未来を考える醍醐味になると言えます。

これは、今すでに存在している情報をもとに、それをそのまま延長・拡大してシミュレーションする「予測」よりも、様々な視点から情報を捉え直し意味を見出す「洞察」がより重要になるということを意味しています。市況が数年先にわたってそのまま線形で推移するであろうという何らかの予測に頼る場合、自社の機会を現状の延長線上で捉えることになり、可能性を狭めてしまいます。結果的に、業界内の企業と同質的な競争に陥りかねないと言えます。

一方で、多種多様なマーケットの情報からコンテクストの変化を洞察できれば、将来の自社の機会を拡げることにつながります。言い変えれば、洞察は市場に根差しつつ、他社とは異なる独自の価値を提供する存在になるためのきっかけを与えてくれるものと言ってもいいでしょう。

未来を洞察し、アクションにつなげた取り組み事例

主体的かつ組織的に未来を洞察することに取り組む事例を2つご紹介します。1つは有人宇宙システム株式会社様(JAMSS:Japan Manned Space Systems Corporation)です。JAMSSは国際宇宙ステーション計画における「きぼう」「こうのとり」の開発から運用に携わる企業です。特定テーマのもとで、業界の変化を洞察し、宇宙のあり方や自社のあり方を構想することに取り組んだものです。

もう1つは国立大学法人香川大学様です。大学院改革を開始するにあたり、産学官民を交えて未来社会に思いを馳せて、そこからの逆算で将来の大学院像を検討したケースです。 いずれも経営幹部だけでなく若手までが参画し、社外の多様な視点を取り入れることを志向し、私たちと共同で取り組んだものでもあります。

【ケース1】 宇宙のあり方をクオリティオブライフの視点から問い直すーJAMSS

JAMSSでは、宇宙政策の見直しや、スタートアップの参入など業界の構造変化が起こる中で、「今できること」からではなく「自分たちがありたい未来」から構想し、自社の姿を見直し、アクションにつなげていく必要性を感じていました。プロジェクトは社内公募でメンバーを募り、部署もバックグラウンドも異なる計18名にて発足しました。

10年後の宇宙空間におけるクオリティオブライフをテーマに、どのような社会・業界が本来望ましいのかを問い直し、自社のビジネス領域を拡張することに取り組んでいます。

写真1 JAMSS様ケース

検討の様子。描いた将来像の実現に向けて、顧客やパートナーとコンタクトを取り始めている。


約3か月間かけてプロジェクトを推進し、顧客動向や関連しそうなテクノロジー動向など約500もの変化の予兆を収集して未来シナリオ描き、潮流を読み解く作業を行いました。そこから未来に起こり得るシーンを描き、今後顕在化するであろう課題やニーズを抽出し、将来像を描いていきました。また、プロジェクトそのものをオープンにし、計9社の企業に声がけし、ディスカッションを行うことで多様な視点を取り込むことも行いました。

最終的に、目指したい世界観と4つの将来の事業ドメインにおける活動像を描き、それらに向けた最初の一歩としての行動計画に落とし込みました。将来像は冊子にまとめられ、今後、社内外の関係者に問いかけるとともに、描いた未来からの逆算で価値提供先の絞り込み、その有効性を検証することや研究開発を行うことに着手されています。

【ケース2】 2040年からの逆算で大学院改革への視点を獲得するー香川大学

――――人類の寿命は延び続けており、大学を卒業した後もいつでも自分に再投資したい人々に学びの機会を提供することも大学の大きな使命となりつつある。(筧 善行 学長所信表明より一部を抜粋)

このような考えのもと、香川大学では、将来の大学の在り方やビジョンなど大学改革に向けた検討、とりわけ令和4年に向けた大学院改革の検討が開始されました。学内に閉じて検討していては、これからの社会からの要請に十分に応えられないのではないかという危機感を持たれていた筧学長をはじめとする執行部のメンバーは様々な視点から広く、また、大胆に未来の可能性を探索することで自分たちに新たな視点を獲得する必要性を感じていました。

大学院改革の入口として、産学官民の多様な人々計40名を交えて、2040年の未来社会の変化を読み取り、今後の大学像をアイデアとして出し合うことを検討しました。今回は短期間で行われるということもあり、予め未来に予見されるキーワードをカード化したものを準備し、2040年に起こり得る未来を想定する作業からスタートしました。

写真2 香川大学様ケース

カード化された予見される未来キーワードを組み合わせ、2040年に起こり得る未来に想いを馳せた。


最終的に10グループに分かれて、個人が“複”業を行うのが当たり前になるという未来や、AIやVRなどのテクノロジーにより言語や地理の制約がなくなる未来の中で、誰がどのような学びを得ているかのシーンを新聞形式で発表し、相互評価しました。

このプロジェクトにおいて重要だったのは、実施後に各アウトプットを咀嚼し、これからの大学に“何が問われるか”を改革に携わるメンバーと議論し、見出すことでした。いわば、未来社会における重要な課題、そして大学の価値が何かについて一度、仮説を立ててみるということです。こうした産学官民共同での未来検討を入口に、現在では本格的な大学院の姿の検討を進めています。

アクションにつなげるために、盛り込みたい4つの要素

これらのケースにおいて大切にしたものは以下の4つの要素を盛り込むことでした。プロジェクト期間や注力するポイントがそれぞれ異なるため濃淡はあるものの、実現したい未来の解像度を上げてクリアにし、アクションにつなげるためにも重要な要素だと考えています。

  • 将来の変化と機会をどのように捉えているのか(前提としての将来認識)
  • 誰にどのような価値を提供するのか、実現したいのか(顧客と提供価値)
  • その価値を追求することで、社会や業界をどのように発展させる存在になりたいのか(自社の存在意義)
  • その価値を提供するために、どのような仕組みや能力を保有したいか(自社の経営リソース、業務プロセス)

こうした要素を盛り込むことができれば、現状から実現したい未来に到達する道筋としての、いわゆる変革シナリオや施策を練りやすい状態になります。また、複数の製品・サービスがある場合は、そのポートフォリオの検討も容易になります。つまり、バックキャスティング型でアクションを立案することが可能になるというわけです。

最も大切なことは、行動を起こし、実現したい未来のさらなる具体化やその意味の深掘りをしていくことです。4つの要素から構成することで、行動を起こしたことによって書き換える必要があったとしても、どの部分に変更を加えるべきかが検討しやすくなります。

富士通総研では、このようなユニークな未来を描くことをご支援すべく、様々な人が知恵を持ち寄りながら次のアクションへ結びつける、未来洞察プログラムを提供しています。これは、お客様の価値提供の可能性を最大限に引き出すことを念頭において取り組んでいるものです。経営幹部のみで実施するだけでなく、多様な視点を取り入れて組織的にビジョンづくりを行う場合は是非ご相談ください。

注釈

  • (注1)
    例えば、『構想力の方法論』(野中・紺野 2018)では、目先の効率を重視する現場主義への信仰が構想力の抑制につながるとし、ひいてはそれが競争力の低下を招くことを指摘している。また、今後求められる視点として自社の経営戦略といったその企業に限った構想ではなく、より善い社会をつくることを射程に入れた構想力が鍵となると述べている。
  • (注2)
    何を対象とした「ありたい姿」や「ビジョン」なのかを明確にして検討することが必要になるが、本稿では主に企業の中長期戦略や新規事業としてプロダクトやサービスを企画・立案する際の初期の段階で何を目指すものかという文脈で使われる場合を主に指している。そのため、経営理念や社是などの恒久的なものとは異なる位置づけとなる。
黒木 昭博

執筆者

コンサルティング本部 ビジネスデザイングループ
チーフシニアコンサルタント

黒木 昭博(くろき あきひろ)

 

事業変革の構想立案やそれに伴うデジタル活用、新規事業・サービス企画コンサルティングを手掛け、電機、消費財、化学、学術研究機関など幅広い業界で実績を有する。企業と顧客が一体となって価値を生み出す「共創」を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。修士(経営学)。

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