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戦略性が問われるオープンイノベーション2.0

常に新しい価値創出を求められる現在、外部の力を活用し素早く市場へ新商品・サービスを提供するオープンイノベーションは注目を浴びてきた。1巡目を終えた日本のオープンイノベーションの状況を考察し、大企業とスタートアップの連携を持続的な取り組みにするポイントを紹介する。
(アシスタントコンサルタント 池田健介)



2019年9月9日

1.はじめに

2018年、日本におけるスタートアップ企業の資金調達額は過去10年で最高を更新し、空前のスタートアップブームが巻き起こった(注1)。同年経済産業省は、国内既存企業に対し「競争環境が厳しさを増す中、自社のリソースのみで、新たな顧客の価値を生み出すイノベーションを起こすことはもはや困難であり、世界中に広がるリソースを活用するオープンイノベーションは、企業にとって必須の戦略」(注2)だと言及した。このような背景から、スタートアップ連携の機会は増加しており、eiiconによると、大企業が開催するコーポレートアクセラレータプログラムは「2016年度には約50社だったものが2017年度に約90社になり、2018年度は前年比4割増の130社を超え(注3)」、2年で倍増した。多くの企業でオープンイノベーションが実施されてきたが、一方で、その施策により利益創出や株価上昇に貢献する例は残念ながらまだ多いとは言えないのが実情だ。また、多発したアクセラレータプログラムは単年で終了するケースも多く、持続的にオープンイノベーションに取り組む企業は一部である。本稿では、1巡目を終えた日本のオープンイノベーションの取り組み状況を考察し、大企業とスタートアップの連携を一時的なブームとせず、持続的な取り組みにするためのポイントを紹介する。

2.日本のオープンイノベーションの現状とその課題

プロダクトライフサイクルの短期化や顧客ニーズの多様化に伴い、現在の日本企業は常に新しい価値の創出が求められるといっても過言ではない。その1つの手段として、外部の力を活用し、早く市場へ新商品・サービスを提供するオープンイノベーションは注目を浴びてきた。さらに、縦割りによる専門化が過度に進んだ組織に風穴をあけ、多様性を取り込み、新たな視点や着想をもたらすことが可能になるという意味でも有用だと考えられている。

一方で、オープンイノベーション施策としてアクセラレータプログラムを実施する企業からは、「多くの社内関係者を巻き込んだものの、案件が小粒化し、大きなビジネスメリットを得られなかった」、「PoCを複数実施して一定の社内評価を得たが、事業化に至らなかった」、「大きな負荷がかかる一方で、大きな実にはなりにくい」など、想定より成果が得られなかったという趣旨の声を聞くことがある。いわば、既存事業の補完や投資リスクの少ない案件が実証実験の対象となり、本質的に顧客価値を飛躍的に高め、社会や産業へ大きな影響を与えるところまでは至っておらず「小さくまとまってしまっている」と言えるのではないだろうか。(参考:【図1】)

【図1】スタートアップ連携案件のステージイメージ
【図1】スタートアップ連携案件の領域イメージ

なぜ小さくまとまり、大きな成果を生むことができなかったのか、筆者は日本におけるオープンイノベーションの構造にその原因があると考える。

A. 企業の組織構造により、短期成果が求められる
この手の取り組みは、「a.経営層や上層部からトップダウンの勅令が下る」か、「b.現場が死に物狂いで予算を確保」するかして、スタートすることがほとんどだ。そのため、新しい取り組みとして難易度が高い反面、成果を出すことに対する社内圧力が大きい。
また、既存事業部の巻き込みが必要な場合、最終意思決定者は既存事業部にあり、直近の利益につながりにくい案件は敬遠される。つまり、企業担当者は実施初年度であっても、高度なマネジメントが求められる傾向がある。

B. 意思決定しやすい案件が先行し、リスクが大きい案件は優先度が落ちる
スタートアップ連携において、“スピード感”は大切なキーワードである。一方で、既存事業部のミッションから遠い案件や技術リスクが高い案件は、意思決定が難航し、スピード感が損なわれる。そのため、意思決定が比較的容易な、既存事業の延長線上にある案件が優先され、どこか新規性に欠けるような結果に陥りがちである。

C. 施策に関する情報が先行し、全体戦略の重要性が希薄化している
アクセラレータプログラムやアイデアソンなど、多くのオープンイノベーション施策が存在する。また、そういった企画の支援プレーヤーやハウトゥー本/記事は増加傾向にある。この傾向自体はエコシステム拡大にあたり望ましいものだが、近視眼的な施策のみ注視してしまうという副作用がある。長期視点の戦略がないまま、コンテンツ過多の企画を実行することが目的化すると、連続性ある持続的な取り組みにならない。

3.オープンイノベーション2.0に向けて戦略を再考する

上記のような課題に対応すべく、大企業のオープンイノベーション担当者はこれまでの反省を踏まえ、今一度視座を上げ、長期的かつ大局的な戦略を再考するべきではないだろうか。(イメージ:【図2】)

欧州では、事業成長を目的とした1対1の企業連携を「オープンイノベーション1.0」とし、社会や産業の課題に目を向け、多様なプレーヤーを巻き込んだ連携を「オープンイノベーション2.0」と位置付ける。日本企業も自社や既存事業が中心の「オープンイノベーション1.0」から脱却し、社会や産業へ大きな影響を与える「オープンイノベーション2.0」への転換が求められている。

 以下のポイントを踏まえ、オープンイノベーション2.0に向けた戦略を策定したい。

ⅰ. 持続的な活動とするために土台や仕組みを作る
 持続的に活動するために、狙いをもって仕組みを準備したい。企業において、経営方針の変更や人事異動など、担当者の範疇を超える事象は避けられず、属人的な取り組みの場合は継続できなくなる恐れがある。例えば、アクセラレータプログラムなどのイベント型の施策は恒例化に適しており、持続的な活動に昇華させるための有効な手段の1つだ。
 また、社内人材のネットワーク拡大や社外への積極的な発信により社内外の認知が広がり、廃止させにくい状況を意識的に作り上げることも必要だ。長期的な視点を持ちながら、恒例化させるまでの仕組みや風土作りを戦略的に取り組みたい。

ⅱ. ポートフォリオによる戦略的マネジメントプロセスの構築
 先述したとおり、リスク案件にチャレンジできる環境を意識的に用意しない限りは、成果の見込みが立ちやすい案件が優先される。一方で、成果なくして組織の維持も難しいため、短期成果で(社内)貢献しながら、チャレンジ案件を仕掛けるといったバランスを取ることが重要である。単年ではなく数年単位で案件ポートフォリオの計画を立て、その年にチャレンジしたい案件数、それに必要な予算規模を担当者間で合意しておきたい。

ⅲ. 組織的に関係資産を積み上げる
 オープンイノベーション担当者は新しい出会いを求めて、ミートアップイベントや他社のプログラムイベントに参加し、人的ネットワークを拡大させる。そのネットワークによって新規協業に至るケースも少なくない。一方で、そういった関係資産は個人に紐づくことが多いため、組織資産として管理することは難しい。富士通のスタートアップ連携チームでは、大型イベントでの名刺交換情報を一元管理し、どのように生かしていくかを適宜検討している。また、当チームでは新しく出会った人を他のメンバーに共有・紹介し、組織のネットワークに変換することを強く意識している。場合によっては、他社に他社を紹介するような仲介も行い、まずはネットワークを広げることを大事にする。こういった関係資産の拡大が数年後に大きなメリットとなって返ってくることが多いからだ。

【図2】視座を上げるイメージ
【図2】視座を上げるイメージ

4.ケース:富士通における中長期的視座によるスタートアップ連携の機能強化

ご紹介した課題は、富士通のスタートアップ連携においても発生している。富士通では2015年から富士通アクセラレータプログラム(FUJITSU ACCELERATOR)Open a new window(注4)を半年に1度開催し、これまで7回開催してきた。既存事業部からテーマを募集し、テーマごとにスタートアップを募集する形式である。目指すべきはスタートアップ×●●事業部の座組みであり、富士通側の意思決定は最終的に事業部に委ねられる。これまでの取り組みの中で【図3】に示す課題が散見しており、従来のプログラム形式での限界が見えている。

【図3】富士通アクセラレータプログラムでマッチングが成立しない原因パターン
【図3】富士通アクセラレータプログラムでマッチングが成立しない原因パターン

そこで2018年に、事業部とのマッチングが不成立の場合でも、直接の事業責任を持たないマーケティング部門などの事務局組織が新たな受け皿となり、将来有望なスタートアップを長期案件として独自支援する機能を追加した。新機能では、起業経験者や新規事業開発経験のあるメンバーがスタートアップの経営状況も鑑みながら併走支援を行い、短期的な事業部マッチング以外の方法で、富士通と協業できる座組みを構築することを目指す。中長期的にチャレンジできる環境が用意されたため、現場担当者も思い切った判断やこれまでのやり方に囚われない試行錯誤ができるようになった。

実際に、既存事業部とスタートアップの市場開拓の方針が異なり、短期的な連携が見込めないケースにおいて、マーケティング部門と海外のR&D組織がスタートアップの方針に協調し、双方のアプローチにより中長期的視点で市場開拓を開始している。これにより、事業部の市場開拓が不調に終わっても、協調関係にあるスタートアップとともに、顧客へサービスを提供できる可能性を残すことができるようになった。

5.おわりに

オープンイノベーション2.0に向けた変化の予兆も感じられる。例えば、SDGs等の社会課題や産業のリデザインをテーマにしたイベントやプログラムなど、大企業がよりチャレンジングな領域へ舵を切った例が散見される。冒頭で述べたように、スタートアップエコシステムは年々拡大している。しかし、アメリカや中国などのイノベーション先進国と比べると、出遅れていることも事実だ。スタートアップの成長にとって、オープンイノベーションに前向きな大企業は、初期顧客やパートナーとして欠かせない存在である(注5)。今後の日本のエコシステムには、本気度が高い大企業の継続的な参加が肝要である。

富士通総研では、企業における新規事業創出支援と富士通で実践してきたスタートアップ連携のノウハウの双方を生かしながらオープンイノベーションの戦略から実行までを広く支援し、さらなるノウハウの蓄積から日本のエコシステム構築に貢献していきたいと考えている。

池田 健介

本記事の執筆者

コンサルティング本部 ビジネスデザイングループ
アシスタントコンサルタント

池田 健介(いけだ けんすけ)

 

アイデア発想から実ビジネス立ち上げまでの新規事業創出やスタートアップ企業と共に事業創出するオープンイノベーションの戦略設計・実行のコンサルティングに従事。その傍ら、富士通アクセラレータプログラム(FUJITSU ACCELERATOR)の事務局を兼任し、主体者としてもスタートアップ連携に取り組む。

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