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フォーカス「今後のデータ利活用ビジネスの展望」

巻き込み力2.0

新しいビジネスの創造に重要な要素として挙げられる「巻き込み力」。一言で言われがちだが、明確な定義がない「巻き込み力」のこれまでとこれからを比較し、求められる「巻き込み力」について提示する。
(シニアマネジングコンサルタント 佐々木 哲也)

2019年9月9日

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構想を実現するために必要な「巻き込み力」

新しいビジネスの創造は、どのような業種や職種でも、もはや当たり前の行為となっています。様々な方法論が日々開発・実践され、インターネットを介して簡単に学べるようになりました。しかし、プロセスを学び、フレームワークやツールに習熟しただけでうまくいくものではありません。これらの知識は物事を効果的・効率的に進める助けにはなりますが、それだけでは新しいビジネスの創造はできません。実際にはもっと重要な要素があります。それは、こういった知識を活用しながら生まれたアイデアや構想を実現するために協力者を得て共に創造するための関係を構築し、大きな構想を成し遂げていく力、「巻き込み力」です。

これまでの「巻き込み力」では新規ビジネスはうまくいかない?

この「巻き込み力」は、おそらく多くの人が学生時代、そして社会人になってから、何度も必要性を感じてきたものであり、ビジネス書や研修などでも重要とされてきたのではないでしょうか。リーダーシップを発揮し物事を進めた実績のある人を指して「あの人は巻き込み力がある」と評することもよくあります。ただし、この「巻き込み力」ですが、これまでの組織の中で必要とされてきたことと、現在、新しいビジネスを創り出す際に必要とされることが、似ているようで実は違うのです。もちろん、これまでの「巻き込み力」が必要な局面もあると思います。一方で10年ほど前から、インターネットやAI、IoTによって新たな市場が生まれては瞬く間に競争激化し、目まぐるしく変化していくと言われており、私たちはまさしく今、変化の渦中にいるわけです。環境が大きく変わる中で、それ以前の「巻き込み力」では通用しない場面に直面することも増えてきました。これまで必要とされてきたものと比較してみます。

(1)ポジティブシンキングの罠

まず、「巻き込み力」に必要な考え方でよく挙げられる「ポジティブシンキング」について取り上げます。これは、何事にも前向きで積極的に行動し、物事を着実に実行していく際に持ち合わせるべき思考とされています。一方、新しいビジネスを創造するということは、本質的な価値を追求し、現状を否定して変えていくことでもあります。決められたことに対し何でも前向きに捉えるのではなく、当たり前とされることに疑問を抱き、信念を持って、時に批判していくような思考が、現在の「巻き込み力」には必要なのです。

(2)戦術に長ける=競合と戦うだけでは足りない?

つまり、新しいビジネスを創造するということは、これまでのやり方や決められたルールが適切でないのであれば大胆に変えていく、もしくは新たにルールを定める取り組みでもあると言えます。これまで「巻き込み力」があるとされていたのは、決められたルールを熟知し、その上で競合と戦う術を立てられるということでもありました。これは一方で既存のルールに縛られているという見方もできます。「戦術に長けている」、つまり戦うために思考を巡らせ、あらゆる状況を想定して行動できることが得意という部分では共通ですが、決められたルールに則って戦うことと、ルールを変えるために戦うことは大きく異なります。

(3)社内調整力があるからといって社外で通用するわけではない

戦術を実行に移す際においても、従来は企業内での調整を円滑に行う力が重宝されていました。そのため各組織のリーダーの方針や目標を正しく理解し、全員の人となりや性格、人間関係までを把握し、適切に交渉することが求められてきました。しかし、新規ビジネスの創造には同じ企業の中で縦割り化された組織間の調整だけでなく、企業間や企業と行政などのセクターを跨いだ、より大きな枠組みでの調整が必要な場面に直面することが多くあります。実際に今、物事を動かしている人たちは組織内の調整は後回しで、とにかく社外の人と会いながら、関係性を作り出し、行動を起こそうとしています。その際に社内で培った調整力がそのまま通用するということはありません。

(4)「自社のために」というストーリーでは人材確保も困難

チーム作りもこれまでとは異なってきていることを数々の現場で感じています。「自社の命運をかけた/社長特命、肝入りのプロジェクト」という謳い文句でチームに人を誘い入れる、もしくは誘われることもあったかと思います。「巻き込み力」があると言われる人ほど、こういった動機づけがうまいとされ、優秀な人もそれに付いてきたのかもしれません。ところが、昨今ではそのような会社中心のストーリーでは共感が得られなくなってきています。特にこの傾向は優秀な若手人材であればあるほど顕著であり、社会にとっての価値創出を第一に置いていることも多いです。「自社のために」というストーリーから優秀な部下を増やすのではなく、「社会のために」というストーリーで同志、仲間を作るという姿勢が必要です。

(5)明確な役割分担が裏目に出ることも

そうして獲得できた仲間に対しても、これまでのような明確な役割分担がうまく機能するかというと、それが裏目に出ることも多くあります。変化が激しく学習コストが極めてゼロに近くなってきている現在、ある時点でその人が持つ知識や技能は、極端に言えば、その瞬間で通用するものでしかありません。役割分担を明確にしたがために、各人のできることを固定化してしまい、成長が鈍化してしまうこともあり得ます。必要なことは明確な役割分担よりも、時に重複しても役割を超えて各自が主体的に成長し、各々の役割を広げていけるようなチーム作りです。

(6)巧みに操作しているつもりで、すぐ離れてしまう関係性

さらに、新しいビジネスを創造するためには自分たちのチームだけでなく、多くの人たちから協力を得ていく必要があります。これまでは、例えば仕入先やビジネスパートナーなど、すでに利害関係のある相手をうまく動かしていくことが「巻き込み力」と表現されてきたこともあると思います。この関係はうまくいっているときは強固ですが、本業での関係がなくなると瞬く間に離れて関係が弱まってしまうとも言えます。直接的な利害関係がなくとも、ビジョンに共感して協力してくれる人がどれだけいるかが大きな力になってきます。

(7)既存の技術、自社の強みに縛られることがリスクに

「巻き込み力」を支える情報活用や意思決定についても触れておきましょう。従来通りのビジネスを維持・向上するためには、確立している技術や自社の強み、個人の成功体験を前提とするのは当然です。一方で、新しいビジネスを創造するには、常にこれから発展していく可能性があるが未成熟な技術を積極的に取り入れることも必要です。これらは不確定要素が多く前例も乏しいため、リスクが大きく敬遠されかねません。しかし、だからこそ大きな変革の可能性を秘めているとも言え、むしろ未成熟・不安定なものを敬遠することが機会損失のリスクになることもあるのです。

(8)一人に情報を集約・統合することは非現実的

チーム内での情報の扱い方も異なります。以前はリーダーにはすべての情報が集約・統合されていることが良しとされ、その情報の量や質の違いで部下を統制するようなマネジメントが優れているとされてきました。情報爆発の時代とも言われる現在では、すべての情報が集約・統合された一人のリーダーが適切に判断することは現実的ではありません。むしろチーム全員が活発に情報を共有し、議論し合い、新たな知識を生み出し続けるような環境をつくることこそ、「巻き込み力」を最も発揮すべきリーダーに必要な素養であると言えます。

(9)合理的な意思決定が必ずしも正解ではない

最後は、人を巻き込むうえで最も重要なこととも言える、意思決定についてです。時に巻き込んだ人の責任として、大きな決断を迫られることもあるでしょう。その際に、誰もが合理的に判断できることが必ずしも正解であるとは限りません。特に新しいビジネスについては顕著と言えます。決断を迫られ、組織内で理解が得られる合理的な判断を選択したために大きな後悔をしている起業家を筆者は知っています。物事を俯瞰し、大局的かつ長期的な視点で何を選択すべきなのかを熟慮し、時には合理的とは言えない意思決定ができる力、これは決して簡単に身に着けられるものではありませんが、極めて大切なことです。

まとめ:巻き込み力2.0は「行動」からはじまる

これまで重要とされてきた巻き込み力を「巻き込み力1.0」、新規ビジネスのために必要な巻き込み力を「巻き込み力2.0」と題して、表にまとめてみました。いずれも方法論のように即座に習得できるものではありません。しかしながら、筆者がこれまでご支援をさせていただいた企業や共にプロジェクトに取り組んだパートナー、取材をさせていただいた起業家の方々の共通点として感じたものです。まとめに際しては、マネジメントという仕事の役割を「情報」「人間(チーム)」「行動」という3つの次元で捉える、ヘンリー・ミンツバーグ教授のモデルを意識しながら整理しました。こうしてまとめてみると、巻き込み力2.0ではまず「行動」することで、「人間(チーム)」が周りに集まり、そこから生まれた関係が価値ある「情報」や成果を生み出していくということも新規ビジネスの現場では肌で感じていることと言えましょう。蛇足ですが、同様に「巻き込まれ力2.0」とも言える、このような新しいことを創造しようとするリーダーを適切に見極め、上手に巻き込まれていく能力、これからのフォロワーシップもますます重要になってくると感じています。こちらはまたの機会に整理してみようと思います。

【表】巻き込み力1.0 VS 巻き込み力2.0

  巻き込み力1.0 巻き込み力2.0
行動 何事も前向きに捉えることができる 「当たり前」に疑問を抱き批判できる
ルールに従って戦う術に長けている ルールを作り変えるための戦いに挑む
社内での調整を円滑に行える 社内調整は後回しで組織外に越境していく
チーム 会社中心のストーリーで部下を獲得する 社会中心のストーリーで仲間を獲得する
各自の能力を適切に見極めチームを作る 各自が役割を超えて取り組めるチームを作る
利害関係のある相手を巧みに動かす 利害関係のない協力者が支えてくれる
情報 自社の技術や自身の成功体験を活かす 未開拓・不安定な領域や技術を好む
情報を集約し統制することに注意を払う 情報が活発に行き交う環境を作る
合理的に判断できる意思決定をする 時に合理的とは言えない意思決定をする
佐々木 哲也

執筆者

コンサルティング本部 ビジネスデザイングループ
シニアマネジングコンサルタント

佐々木 哲也(ささき てつや)

 

製造業や通信業の企画業務を中心としたコンサルティングを手掛ける。複数の企業や団体の技術、アイデアを組み合わせて革新的な製品やサービスを生み出す「オープンイノベーション」に、企業や研究機関と共同で取り組んでいる。

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