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パーソナルデータの利活用によって広がる発展途上国ビジネス

パーソナルデータの利活用によって広がる発展途上国ビジネス

 

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はじめに

これまで、パーソナルデータの利活用に関して、先進国における法制度動向やサービス事例を中心に整理してきた。本論では、少し視点を変え、パーソナルデータを利活用することによって、ビジネスで社会課題を解決しようとする試みに焦点を当てる。

アジアを中心とした発展途上国における生活水準の向上により、これまで様々なサービスを利用することができなかった膨大な数の人々の生活ニーズが高まっている。これに対して、パーソナルデータを利活用することで応えようとするビジネスが広まり、人々の生活を変えようとしている。本論では、なぜパーソナルデータが発展途上国のビジネスを促すのか、また、どの程度の規模でインパクトを与えているのか、どのような分野で進んでいるのか、3点について検討する。

1.パーソナルデータが発展途上国ビジネスの起爆剤となる可能性

欧米で開催されるカンファレンスに参加すると「Social Good」という言葉をよく耳にする。そのSocial Goodは、昨今、ICTを中心としたテクノロジーの利用による社会課題の解決といった観点において使われているように感じる。民間企業にとっては、未踏市場であった発展途上国に参入する市場開拓という側面があり、それが、グローバルなトレンドとなりつつある。そして、近年、パーソナルデータを利活用することで、Social Goodに取り組もうとする企業が増加している。

この背景には、まずインターネットやモバイルの普及によって、発展途上国でもデバイスを通して顧客とつながり、パーソナルデータを収集することが可能になったことがある。発展途上国では、情報通信インフラの整備に向け、各国の政府機関はもとより、例えばFacebookはFacebook Connectivity Labを設置し、農村を含めたインフラ整備に取り組む等、民間企業も行動を起こしている。

加えて、収集したデータを分析・活用するAI等のテクノロジーの研究開発が進み、データを「新しい石油/資産」として、データから新たなサービスを生み出すことができるようになった。こうしたテクノロジーを研究開発し、サービス提供するスタートアップに対して、インドや中国といった国々は、積極的に誘致を進めており、自国マーケット内でのテクノロジーの普及を支援している。

このようなパーソナルデータの収集、分析・活用を行うテクノロジーの普及が、従来では提供が難しかった発展途上国に暮らす膨大な数の人々に向けたサービスの展開を可能にし、発展途上国ビジネスを促進することが期待され、それは今後も大きくなる。次節では、具体的にその内容をみていく。

2.パーソナルデータが与える発展途上国ビジネスへのインパクト

パーソナルデータを利活用したビジネスは、発展途上国において、どの程度のインパクトを与え得るのか。ここでは、データ利活用を積極的に進めようとする事例として、インド政府と、国際機関を含めたグローバルアライアンスで実施しているプロジェクトに注目し、その潜在的な市場規模を考えてみる。

【インド政府主導によるパーソナルデータ利活用の取り組み】

人口13億人を抱えるインドでは、データの利活用を政策的に推し進めてきた。インド首相モディ氏は、2018年11月の講演で、同国の個人識別番号制度「Aadhaar」には現在までに12億人が自身の生体データ(顔写真、両手のすべての指の指紋、両眼の虹彩 等)を登録しているとした。「Aadhaar」にデータを登録した人々は、そのデータを利用し、生体認証によるデジタル上の本人証明書を利用することができるようになる。「Aadhaar」は、銀行口座の開設における本人確認証明書としても利用できることから、この3年間における新規口座開設数(3億3,000万件)を後押ししており、モディ首相は、銀行サービスは誰もが使うサービスになりつつあると主張する。

インド政府は2018年9月から、金融インフラや通信ネットワークを利用したキャッシュレス医療サービスを含む国民健康政策「Ayushman」を開始した。この国民健康政策の対象者は約5億人となり、金融データだけでなく、膨大なヘルスケアデータの収集が中央集権的に進もうとしている。

上記で紹介した事例が、実際にどこまで実現されているか不透明な部分もあるが、莫大なパーソナルデータが生まれ、活用されつつあることは確かと言える。さらに、インドはASEAN諸国を中心とする金融マーケットプレイス「Afin」への参加を表明しており、国境を越えて、他国のFintech企業がインドの金融機関と協業し、データを利活用していく可能性が高まるものと考えられる。

【グローバルアライアンスによる本人認証を軸としたデータ利活用の取り組み】

世界には公的な身分証明書を持たない人々が11億人以上いると言われている(世界銀行2017)。こうした人々は、金融サービスや医療・教育といった社会保障サービスの利用時、または選挙の投票時等に、求められる本人証明書を提示できず、サービスを受けられなかったり、投票権を行使しにくかったりする状況に置かれている。

こうした状況を解消するため、身分証明書の付与を目標に、2017年から国際機関や民間企業(Microsoft、Accenture 等)、NGO(ロックフェラー財団 等)が連携し、「ID2020」というプロジェクトを開始している。「ID2020」では、身分証が必要な人々に分散型IDネットワークから証明書を発行できるよう、生体認証やブロックチェーン技術の検討・開発を行っている。先進国では通常、出生登録を行い、公的に個人を登録するが、発展途上国では出生登録が行われない地域も多く、「ID2020」は出生登録がなくても、人々とつながりやすい機会(例えば、ワクチン接種時)に同時にデジタルIDを発行、その際、生体認証を用いることで二重登録を避けようとしている。

この「ID2020」は、2017年から2020年を、研究開発や関係機関との調整期間に当てており、2030年に向けた国際目標「持続可能な開発目標(SDGs)」で掲げられた「すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する」という目標(16.9)の実現を目指している。2018年には、新たにGaviワクチンアライアンスやNGOのiRespondやKiva等も参加しており、今後もその活動内容を拡大させていくことが予想される。

3.今後の展開が期待される分野

パーソナルデータの利活用は、どのような分野で進むと考えられるであろうか。サービスが開始されている分野や、今後、進みそうな分野として、金融や教育に加え、各分野の基盤となる認証について紹介する。

【金融分野(融資)】

アフリカ、東南アジア、南米、中央アジア地域を中心に、Unbanked/Underbanked層と言われる金融サービスを利用できない、または十分に利用できない人々が約30億人いると言われている。こうした状況を踏まえ、データを利活用することによるFinancial Inclusion(金融包摂)の実現に期待が向けられている。

米国のNPO Accionによれば、金融分野でデータ利活用が最もインパクトを与えるのはクレジットスコアリングであり、特に融資分野において効果を発揮している。具体的には、顧客の労働状況や行動のデジタルデータ(例えば、モバイルのGPSデータ等)を分析し、少額の融資を行う。そして、金融サービスの提供者は、貸出と返済の実績から得られるデータを集積して修正を行い、クレジットスコアリングをより高精度にしている。

【教育分野(高等教育)】

先進国における大学進学率が高止まりする中、高等教育インフラが不十分、かつ若年層を多く抱える発展途上国の人々を主な対象とするオンライン大学や、MOOC(Massive Open Online Course)と呼ばれるオンライン上の高等教育プラットフォームが世界的に普及している。このMOOCは、2018年末には学習者数が約1億100万人を超え、その学習者の半数は発展途上国からのアクセスと言われる。

こうした高等教育の学習者が無料または安価で教育を受ける一方、MOOC企業等は個々人の学習履歴データを収集し、教育ツールの洗練化といった教育分野での活用に加え、学習履歴データを加工して採用に活用する等、教育外での利用も取り組まれている。

【認証システム(本人認証)】

先述した「ID2020」のように、個人認証は、世界的に進むものと考えられている。特に、ブロックチェーン技術を用いた「Self-Sovereign Identity(SSI:自己証明型身分証明)」の有用性が提起されている(先述の「ID2020」も、基本的にこの仕組みを利用している)。SSIとは、企業や政府、教育機関等がオンライン上で発行した証明書を本人に渡し、本人が自らの「Wallet」の中から好きな時に証明書を利用すると、提示された側は認証を行う仕組みである。

まだ概念が確立していないSSIであるが、各国において徐々に研究開発に対する支援政策が実施されている。例えば、カナダのブリティッシュ・コロンビア州政府は、小規模な実証実験「British Columbia VON Project」を実施している。また、米国の国土安全保障省 科学技術局は、SSI関連分野に補助金を提供している。このように先端テクノロジーを利用するSSIであるが、その利用は、認証の仕組みが確立していない発展途上国でこそ、有意義なものとなる可能性が高いと考えられる。

その他、先述したインドの事例(「Ayudhman」)が、金融サービスの基盤を利用してヘルスケア分野に広がりを見せるように、分野間に及ぶパーソナルデータの利活用につながる可能性が高いものと考えられる。

おわりに

ここまで紹介してきたように、パーソナルデータの利活用によって、従来は民間企業にとって未踏市場であった発展途上国のインフォーマル・セクター(注1)に対し、事業を展開する試みが進んでいる。インド政府のような発展途上国政府や国際機関も企業活動を支援する動きがみられる中で、日本をはじめとした先進国の民間企業は、今後、現地機関(政府機関、民間企業、NGO 等)とのパートナーシップを構築しつつ、具体的なサービスを構築していくことが鍵になるものと考えられる。

発展途上国ビジネスは、多くの先進国の民間企業にとって挑戦である。そうしたビジネスを持続的なものとするためには、企画・立ち上げ・普及といった事業の段階に応じたビジネスモデルの検討や、提供するサービスの社会的価値の精査が重要である。

注釈

  • (注1)インフォーマル・セクター:
    経済活動が行政の指導の下で行われておらず、国家の統計や記録に含まれていないようなもの。
朝倉隆道

本記事の執筆者

コンサルティング本部 金融グループ
シニアコンサルタント

朝倉 隆道(あさくら たかみち)

 

2010年富士通総研入社。入社以来、新たな技術を実社会に適用するための社会的/制度的課題の解決に向けた受託調査研究やコンサルティングに従事。
近年では、データ利活用を促進するための諸外国の制度動向調査や国内の制度検討、海外金融機関における先進サービスに関する調査を実施。
2016年6月から2017年6月には、米国富士通研究所にてプラットフォーム・ビジネスの事業戦略や事業展開に伴う社会および制度上の課題に対する調査活動に従事。

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