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富士通総研が考える生活者中心のデータ利活用ビジネス

富士通総研が考える
生活者中心のデータ利活用ビジネス

 

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1.データが我々の人生を決める時代

あなたは、自分のパーソナルデータ(注1)がどこにあるか意識しているだろうか? GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を始めとした巨大デジタル・プラットフォーマー、Yahoo!、楽天等が抱えていることは意識しているかもしれないが、実態としては、病院や銀行も含め、あらゆるところに散在している。しかし、私たちは自分のパーソナルデータの所在が分からなくなってはいないだろうか、わかろうともしていないのではないだろうか。

私たちが日常生活を送る中で、パーソナルデータを始め各種データが発生している。そして、どこかで保管・管理されている。それを各企業はOne to Oneマーケティングに利活用したり、個人の趣味・嗜好に合わせたサービス提供に利用したりしている。しかし、これからの時代は、それらのデータが私たちの行動を決める「データ駆動型社会」(注2)が到来しようとしている。その社会では、知らず知らずのうちにデータが私たちの生活を決める。データが指し示してくれないと、私たちは動けなくなる可能性を秘めている。例えば、食事する店を選ぶとき、検索サイトから提案されたお店に誘導されていないだろうか? ネットショッピングするときも同様である。「データ駆動型社会」は身近になってきている。しかし、その延長線上に生活者の理想の姿はあるのだろうか? 現実とデータが高度に連動する社会だからこそ、自らの意思決定の品質やスピードを上げ、QoLを向上させていくように、あくまでも私たち生活者が主体的に、それらのデータをうまく利用していくように賢くならなくてはいけない。

現在の「情報社会」と言われる世界では、GAFA等の巨大デジタル・プラットフォーマーがパーソナルデータを囲い込んでいるが、生活者個人はさほど困らない。自分の意思で、SNSやeメール等の内容を他のデジタル・プラットフォーマーに移転できない程度である。しかし、現実とデータが高度に連動する「データ駆動型社会」になると、その囲い込みが日々の生活に直接影響することが懸念される。診療データが治療方法を決定する仕組みが当たり前になると、診療データがないと治療してもらえないことが考えられる。走行履歴データが運転できる車を決定することになれば、走行履歴がないと車が買えないかもしれない。そのような社会になるとすれば、他の病院に通院することもできなくなり、他のメーカーの車も買えなくなる。そのようにならないためにも、自らパーソナルデータをコントロールする権利は個人が持つべきである。

2.世界で進む法整備

世の中が大きく変化しようとしている中、世界各国は敏感に反応している。今までの法整備は個人情報の安全性確保といった観点が強かった。そこから、自己の情報に対する実質的コントロール確保に基づく、自身による自己データの活用機会拡大といった観点へと変化している。つまり、生活者中心のデータ利活用に舵を切っていると言ってよいのではないか。

EUのGDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)は2016年に採択され、2018年5月25日から全面施行されている。GDPRは、個人データ保護に関するEU域内での統一的なルールを制定するものであり、生活者個人に対して自己のデータのコントロール権を認めようとしている。フランスでは2016年10月に「デジタル共和国法」が制定され、GDPRに生活者保護の観点を補完する「データのポータビリティと回収」が盛り込まれている。

一方で、アメリカでは、EUにおけるGDPR対応の動きとは異なる形で、「Smart Disclosure」「MyData Initiative」が進められ、分野の個別法および自主規制に依拠してデータポータビリティの実現が図られている。

中国での「サイバーセキュリティ法」には、GDPRに類似したデータポータビリティに関する規定が盛り込まれている。これは、GDPRと整合性のある条項を規定することで、中国企業のEU含む国外への進出を促進させるという競争政策強化の狙いがあるものと読み取れる。

3.業界の動きと流通する情報

GAFAを始めとした巨大デジタル・プラットフォーマーは、GDPRの動きに俊敏に対応している。その一方で、日本企業は、GDPRを意識した新規ビジネスの創造に出遅れているのではないか? 巨大デジタル・プラットフォーマーは、GDPRを意識し、生活者個人に対して自己データのコントロール権を与え、生活者を中心としたデータ流通を差別化ポイントとしてサービスを強化してくるのではないか。 そうであれば、官公庁の規制を待つのではなく、黎明期にある日本で今こそ動き始めなければならないのではないだろうか?

日本の産業界も変わりつつある。今までは各産業界の関係者で比較的安定した商習慣の中で各種取引が行われてきたが、ネット産業が加わり、関係者を今までにない形でつなぎ合わせている。例えば、スマートフォンを利用し、医師とのチャット形式にてオンラインで診察を受け、薬を最短翌日に自宅へ届けるサービス等が出てきている。伝統産業とネット産業の同居する時代の到来である。

私たちが生活する中では、電子的か否かを問わなければ、情報を使わないことはほとんどない。そして、情報はあらゆるところに流通している。特に、電子的に管理されれば、データとして、目に見えない形で流通していく。その流通するデータの種類は、パーソナルデータと非パーソナルデータ(つまり産業データ)の2種に大別することができる。例えば、銀行の預金・入出金情報や病院の診療情報のような個人に紐づくデータがパーソナルデータに当たる。なお、GDPRでは、パーソナルデータを入力データ(問診票で記入したデータ等)、観測データ(CTやMRI等の検査したデータ等)、推測データ(医師の所感のデータ等)と分類している。一方、工場内機器の稼働情報や病院内の医療機器の故障情報は非パーソナルデータに当たる。

それぞれのデータが流通することにより、地域活性化や社会保障費の削減、国際競争力の向上につながることが期待される。

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【図1】パーソナルデータと非パーソナルデータ

4.産業データの流通促進

産業データを流通させるためには、何らかのルールや標準を作る必要があり、そのためにはコンソーシアム等を組成し、他業界に情報を移転させるためのコンセンサスも得る必要がある。今までも各種データの標準化の動きはあった。業界内の無秩序化・複雑化の排除、効率化等を目的に各業界で取り決めてきた。しかし、今後の標準化は、対象が業種横断的な社会システム分野にも拡大している。「Connected Industry」の実現に向けて、各産業界で流通しているリアルデータを大手中小企業からAIベンチャーも含めて、業種横断的に流通できる標準化が必要である。現存する標準化をさらに進化させることが差別化の源泉になる「データ駆動型社会」の到来を見据えて、デファクトからスタートしてでも、企業・社会・国を挙げたルールや標準を策定する必要がある。すでに経済産業省の「産業データ共有促進事業」等で議論が深まっている。

5.パーソナルデータの流通促進

パーソナルデータは21世紀のニューオイルと言われて久しい。各企業は、各企業のサービスを展開するにあたって、顧客のパーソナルデータを分析し、戦略を練る。特にデータビジネスを行うに当たっては、非常に重要な位置づけになってきている。そのため、各企業は自社の営利を求めて自社の顧客にかかわるパーソナルデータを囲い込んできた。

しかし、近年登場した巨大デジタル・プラットフォーマーは抱え込んでいる顧客数の桁が違う。各企業の顧客数をミリオンオーダとすれば、巨大デジタル・プラットフォーマーはビリオンオーダくらいだ。日本ならではのきめ細かいニーズを拾い上げ、生活者が幸せを実感できて地域全体が活性化できるサービスが作り上げられれば、その違いを払拭できるのではないか。

一方、各種情報流出報道などを聞くと、生活者個人は不安でたまらない。先にも述べたが、データは見えない。現実問題として、私たちは自分のパーソナルデータの所在が分からないため、必要以上に企業に対して不信感も生まれてくる。

だからこそ、自らのパーソナルデータを自らコントロールする権利は個人が持つべきであると考える。それに反対する人はいないだろう。

しかし、個人に関わる情報は、発生する頻度の高まり、センシング技術の向上、データ容量の大きい情報の発生等により、もはや個人では管理・取捨選択といったコントロールができなくなってきているのが実態である。

その解決策の1つとして、個人に代わり当該個人のパーソナルデータをコントロールする「情報銀行」というものが考えられる。「情報銀行」は、個人の意思を反映して個人のデータをお金のように預かって管理し、第三者への移転も任せることができる機能を提供するものである。

海外では、パーソナルデータを集中して保管・管理せずに生活者が希望するクラウドで分散的に管理する「Digi.me」、提携企業のID・パスワードを共有化する仕組みを提供する「Verime」、アメリカ独特の年末調整の文化を捉えた「Turbotax」、銀行口座そのものをポータブル化させる「CASS」等があり、日本よりも世界各国の方が情報銀行に限らずパーソナルデータの流通は進んでいる。

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【図2】パーソナルデータを流通させるマネタイズのイメージ

6.求められるデータポータビリティ

しかし、個人がパーソナルデータのコントロール権を持つことは簡単ではない。そこで求められるのが「データポータビリティ」という考え方である。つまりは、「データポータビリティ」とは、GDPRで言及されているとおり、自らのデータを機械可読なフォーマットで受け取ることができ、当該個人データを、提供された管理者から他の管理者に移転することができることである。繰り返しになるが、パーソナルデータのコントロール権は個人に帰属するべきである。通常、銀行にお金を預けたら、定期預金ではない限り、好きなときに好きなだけ引き出せる。情報も同様であるべきではないか? 好きなときに好きなだけ情報を手元に取り戻し、別の情報銀行に預ける(移転)といったこともできるようになるべきである。それができてこそ、真の個人起点の情報流通というものではないだろうか? データポータビリティが担保された情報銀行には、以下に示すような機能が備わっているべきである。逆に言うと、以下に示すことを現在の情報社会で生活者個人ができるかと言うと、答えは「No」である。だからこそ、情報銀行が必要なのである。

  • ・安全・安心なデータの蓄積・管理
  • ・データや利用履歴の整形・見える化(トレーサビリティ含む)・
  • ・開示コントロール
  • ・他情報銀行への移転(他情報銀行からの取り込み)

7.PDS(Personal Data Service/Store)/情報銀行という社会システム

国のデータ流通環境整備検討会等では、情報銀行とは「PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示または予め指定した条件に基づき、個人に代わり、データを第三者に提供する事業」と定義づけている。

しかし、日本全国の各社から提案されている情報銀行(情報信託と呼ばれることもある)は、同じ情報銀行という言葉が使われているが、それぞれ提供価値や事業者の関与レベルが異なり、個人データを預かって外部事業者に開示(二次利用)し報酬を還元するという従来の情報銀行のイメージに比べて、より広く捉えられているようである。また、包括同意の信託サービスに加え、個別同意のサービスも情報銀行に包含されつつある。

忘れてはいけないのは、情報銀行は個人主導のデータ流通を支援するためのものであり、あくまでも生活者個人の権利を守るための社会システムであるべきである。それが、形式的なものではなく、実行可能な仕組みではなくてはならない。そして、単なるプライバシー保護の議論に矮小化することで企業・巨大デジタル・プラットフォーマーをエンパワーメントするものではなく、「人を幸せにする」ものでなくてはならない。その先に、オープンエコシステムがある。それが、私たちが目指す情報銀行という社会システムなのである。

8.おわりに

富士通総研は、生活者個人に起点を置いたデータ利活用ビジネスの確立を目指していく。そのためには、制度上や技術上の課題解決だけでなく、マネタイズが成立するビジネスモデルの模索が先決だ。イニシャルコストは国費を投入することも考えられるが、そもそも継続運用が期待されないビジネスモデルに自分の大切なパーソナルデータを流通させることを生活者は許容しないだろう。

しかし、正解のない「情報銀行という社会システム」を提案していくためには、私たちがいち早く実践しなくてはならないのかもしれない。データポータビリティを実現するサービス自体を運営してもよいし、その一部の機能・役割を担う形でもよい。富士通総研は、そのような実践を踏まえ、継続的な生活者起点のデータ利活用ビジネスを世の中に提言・発信していきたいと考えている。

注釈

  • (注1)
    パーソナルデータ : ここでは、オンライン上で管理されているか否かにかかわらず、自ら入力したデータやIoT機器等で観測されたデータも含め、生活者個人に紐づくデータすべてを指す。
  • (注2)
    データ駆動型社会 : ここでは、現実とデータが高度に連動する社会を指す。
湯川喬介

本記事の執筆者

株式会社富士通総研 コンサルティング本部 クロスインダストリーグループ プリンシパルコンサルタント

湯川 喬介(ゆかわ きょうすけ)

 

2003年某コンサルティング会社入社。2006年7月 株式会社富士通総研入社。 これまで防災、ヘルスケアといった安全・安心分野をテーマに国内外における調査・コンサルティング業務に従事。近年は、主に医療・介護連携や地域包括ケアシステムに関わるコンサルティング業務に従事

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