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【シリーズ】令和元年の災害対応を振り返る(3)

災害に強い社会の実現に向け、事業継続能力はどのように評価すべきか

毎年のように災害が発生し、それに伴うビジネスへの影響が報告されており、さらにはこれまで経験したことのない大規模災害の発生も懸念される中で、わが国でビジネスを営む組織は事業継続能力の可視化を求められることが少なくありません。これまでの事業継続能力の評価の特徴的な取り組みを振り返りながら、あるべき姿について考察します。

掲載日:2019年12月26日

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今年は前線に伴う大雨や台風15、19号、昨年は西日本豪雨や北海道胆振東部地震と、自然災害の被害でビジネスが止まるという事象が毎年のように発生しています。これらの災害は、政府・自治体や各企業の事業継続計画(BCP:Business continuity plan)で想定して対策を進めている首都直下地震や南海トラフ地震といった大規模災害と比較すると、いずれもその災害の規模は限定的であったにもかかわらず、ビジネスへの影響が発生する事態に至っています。また、これらは各組織単独の影響にとどまらず、取引先企業へ伝播してしまっているというのが現状です。

このような状況下で、自らの組織の事業継続能力を高めることはもちろん、サプライチェーンを構成する各社の事業継続能力についても関心が高まっています。一例として、自動車部品製造業においては災害の発生時に、影響の有無を川下の完成車メーカーからヒアリングされて回答するという行動がとられていますが、グローバルに展開している企業では、対象となる災害は世界中の災害事象であるので、月平均2回以上の頻度で影響有無の調査・回答を行っているという事例もあります。負荷は当然高いですが、災害時に被害が発生しているかどうかの返答が速いかどうかも、サプライヤーの選定基準の1つとなっているため、丁寧な対応が必要となっているのが現状です。これは有事のコミュニケーションの例ですが、平時から事業継続能力を可視化して取引先に示すことが、自社の価値を示す営業要素となってくることも想定されます。

一方で、事業継続能力の可視化については、東日本大震災以前から取り組まれてきた分野であり、過去の取り組みが蓄積されています。これらの中でも特徴的な取り組みを追いかけながら、あるべき事業継続能力評価について考察します。

1. 事業継続能力評価の特徴的な取り組みの整理

東日本大震災以降から現在まで、事業継続能力評価の取り組みとして特徴的なものを、対象の広さと作成された時期で整理しました。

【図1】事業継続能力評価の特徴的な取り組み
【図1】事業継続能力評価の特徴的な取り組み

東日本大震災後、サプライチェーンの寸断により大きな影響を受けてリスクを強く認識した製造業が、サプライヤーの事業継続能力調査を始めました。調達部門が中心となり、各社ごとに現場の経験・ノウハウを駆使して甚大な災害でも対応できる能力を測れる項目をひねり出し、かつサプライヤーになるべく負荷のないように項目を選定しながら30問から50問程度の質問票を策定し、調査依頼が出されて賛同したサプライヤーからの返答が集約・整理されました。その特徴は、サプライチェーンの下流メーカーが安定供給を維持するために聞きたい項目が網羅されているという点です。一方で、災害発生時の安定的な部品供給を維持するという目的からブレークダウンされているため、サプライヤー側の中長期的な競争力強化の視点が反映されていませんでした。また、各社が個別に策定しているため会社ごとに評価指標が乱立し、取り組みが普及すればするほどサプライヤーの回答負荷が高くなってしまうという懸念がありました。

これらの懸念を受けて策定されたのが、業界団体による標準指標です。これは、自動車や電機の業界団体において会員企業の知恵を集約し、下流メーカー各社のニーズを満たしつつ個別の質問に回答する負荷を排除することを目的の1つとして作成されました。これらはサプライチェーン評価を行う下流メーカー各社にひな型として活用してもらうとともに、サプライチェーン上の各社が自己評価や外部へのアピールに用いることも想定して策定されており、下流メーカーに「やらされる」という考え方から脱却して主体的に各社で取り組む姿勢を促すことが意図されています。しかし、すでに出来上がっている下流メーカーのニーズを満たすということが前提にあるため、枠組みとしての大きな変化は見られませんでした。

こうした流れの中で、経済産業省が策定し、国内製造業へのアンケート調査を通して試行した指標が、事業継続能力評価指標です。この指標は、短期的な安定供給だけでなく中長期的な競争力強化の視点を取り込むことで、下流メーカーの短期的な安定供給のニーズに偏らない関係性を作り出すことを目指して策定されました。また、自動車、電機といった業界を超えて複数社へ回答する手間を減らすことも意識して製造業で幅広く使える汎用性を持たせています。

加えて、この指標の特徴的な点は、場合によっては10次まで連なるサプライチェーン各社を、下流のメーカーがすべて追うのではなく、トライアングルアプローチ(各社が自らの調達先の評価を行い、それを連鎖させるバケツリレーのような形)と名付けられたマネジメント方法を推奨した点です。日本の製造業は、安定的な取引環境の下ですり合わせによって品質を作りこむという慣例により、自らの直接の取引先(Tier1)だけでなく、さらに上流の企業とも付き合いが見える取引関係になっているケースがありますが、これは海外のメーカーでは一般的ではなく、国内の製造業でも変化の多い状態になったときには、下流メーカーが直接すべてのサプライチェーンを管理するという方法では不都合が生じるという懸念がありました。

しかし、この指標は、汎用的であるがゆえに自らのニーズと適合させる能力が活用する側に要求されるため、広く活用されるという状況には至っていません。

同じ頃、資源エネルギー庁による石油元売会社を対象とした系列BCP格付審査が開始されました。これは、石油元売会社が自らの系列(特約店契約を結んだ販売会社)全体にわたって事業継続能力強化の取り組みを行い、その状況を資源エネルギー庁および有識者委員で構成される系列BCP格付審査委員会が評価するという取り組みです。評価で用いられる指標は、業界に特化して作成された18項目で構成されており、それぞれ4段階で評価された合計値で総合評価(5段階。良い評価から順にS、A+、A、B、C。Cになると政府の補助金等の申請ができないというペナルティが課される)が判定されます。取り組み開始から6年経過し、最高レベルにあたるS評価を受ける会社も出てきており、業界全体としての能力向上を評価の仕組みが後押しできている好事例です。

特徴は大きく2つあり、1つは、系列BCPに係る多くの関係者で共有されるコミュニケーションツールであり、審査にも耐え得る品質であること、もう1つは訓練の評価に踏み込んでいる点です。具体的には、訓練の設計および運用において達成すべき事項が各社に示されており、これに基づいて各社は訓練を設計・運用して自己評価を行い、審査委員会が自己評価の結果の精査や直接の訓練視察によって品質を確認するというプロセスが取られます。

ここまで取り上げた個社や業界としての評価の取り組みと並行して、汎用的に活用できる評価の仕組みも整備されています。

BS25999は英国規格協会から2006年に発行された事業継続マネジメントの規格で、これを参考に発展する形で2012年にISO22301が国際標準化機構(ISO)から発行されました。グローバルで認められているものであるため、活動を世界中に広げている企業にとっては認証を目指す対象となってしかりですが、2019年12月時点で登録は100社程度になっています。認証企業が増えない理由は様々かと思いますが、コンサルティング先の企業からは、「環境や品質という幅広く活用されているテーマと異なり、インシデントが起きてしまう前提でどう早期に対処するかという性質の取り組みを評価するのは難しい」「甚大な災害への対応能力が備わっているかという実効性を確かめることが困難」といった声を伺います。

国内では、レジリエンス認証が2016年に開始されました。2019年11月末時点では様々な業種にわたって184団体が認証を受けており、今後も広く活用されていく可能性が高いと考えます。また、レジリエンス認証を取得するまでのステップとして中小企業庁の事業継続力強化計画認定制度が、2019年から開始されています(2019年11月末時点で認定者数3,906)。レジリエンス認証や事業継続力強化計画認定制度の特徴は、認証・認定に必要な要素を絞り込んで、より簡素に取り組めるようになったという点です。簡素になったことによるメリットは評価を受ける側の組織だけでなく、評価をしたい側にとってもあります。具体的なメリットは、これまでサプライチェーンを評価しようと考えていた企業にとっては、自ら評価を行う必要があったものが、第三者の評価を活用できるようになったという点です。

2. あるべき方向性についての考察

事業継続能力を可視化して取引先に示すことが自社の価値を示す営業要素になる時代において、見たい側のニーズを満たしつつ、見られる側の負荷が高くなりすぎず、また、中長期的な競争力強化の妨げにならないようにすることが相互にとっての理想的な評価方法になると考えます。その実現のためには、石油元売会社系列BCP格付で行われているように、評価する側が「こういった状態を目指してほしい」という目標を示し、評価される側が自らの状況を鑑みて効果的かつ効率的な対策を考案して実行するという役割分担でコミュニケーションを取ることが1つの解ではないかと考えます。対策についても、危機的な事態が起こらないようにするハード対策だけでなく、危機事象が起きた後にどれだけ速く対処できるかというソフト対策もバランスよく交えることが必要であり、それを包括的に評価する意識を双方が持つことが望ましいと考えます。

また、サプライチェーンの評価の方法については、下流のメーカーがサプライチェーンをすべて管理する方式は前述のとおり変化への対応の妨げにつながる可能性もあり、直接取引のあるもの同士の評価が積み重なるトライアングルアプローチが望ましいと考えます。しかし、それでは確証が得られない、また直接管理する方がコストがかからないという状況であるため、直接見る方式が選択されています。この状況を打開する1つの方法が第三者認証の活用です。第三者認証が信頼を獲得し、多くの組織が取得する状況になれば、第三者認証に依拠しつつ個社が見たいもの(見るべきもの)を加えるという役割分担が進み、トライアングルアプローチが実現すると考えます。

サプライチェーン全体の評価コストが抑えられ、かつ各社が相互に知恵を出し合いながら、中長期的な競争力と事業継続能力の強化を両立させていく状況の実現が望まれます。

菊池 貴文

本記事の執筆者

ビジネスレジリエンスグループ
マネジングコンサルタント

菊池 貴文

 

2003年富士通株式会社入社。2007年より株式会社富士通総研。入社以来、幅広い業種の情報化構想策定や内部統制構築、IFRS導入支援コンサルティングに従事。2012年より事業継続マネジメントに軸足を置いたリスクマネジメント強化コンサルティングに従事。最近は、中央省庁や石油業界などの重要インフラ事業者を対象とした災害対応能力強化に関するコンサルティングを中心に活動中。

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