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Japan

「戦略人事サミット -イノベーション創出に向けた人事の取り組み-」開催レポート(3/7)
第1部 特別講演レポート 3

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経営者が目指すべき「働き方改革」2つの方向性

では、日本企業の経営者は「働き方改革」において、どのような方向性を目指せば良いのでしょうか。方向性は大きく2つ。1つは「効率による利益創出から独自性による利益創出へ」の転換を目指すこと。もう1つは、「投入量の削減より、産出量の増大」を目指すことです。

ただし、「明日から、この2つの方向性へ経営の舵を切ります」と言っても、そう簡単には運びません。それはなぜか。日本はこれまで過剰なまでの効率化を進めてきたために、イノベーションを創出する力が減退しているというデータがあります。INSEADという国連の機関が毎月出しているレポートでは(図2参照)、日本のイノベーション力は2017年に第14位(127の国と地域が対象)と、多少は回復傾向にあるものの以前のような勢いを取り戻してはいません。

図2:グローバル・イノベーション・インデックスにおける日本の順位推移

図2:グローバル・イノベーション・インデックスにおける日本の順位推移


なぜ、日本のイノベーション力は減退してしまったのか。それは、現行のビジネスの効率を追求すればするほど、企業の組織風土や人材の資質、あるいは業務内容そのものが現在のビジネスを実現するために最適化されていくからです。その分、イノベーション力は効率化とのトレードオフとなり、どんどん低下する負のスパイラルに陥ってしまうのです。再出量の増大を図る働き方改革には、相当腰を据えて取り組む覚悟が必要です。

また、働き方改革に対する労使間の意識には大きなズレが見られます。2017年1月に日本経済新聞が上場企業301社に向けて実施した調査によると、回答が多く集まった意識には以下のようなものが挙げられています。

企業の働き方改革への意識
関心が高い 関心が低い
長時間労働の是正 終身雇用の見直し
女性の活用 非正規社員の処遇改善
子育て・介護と仕事の両立 賃金の引き上げ
政府への期待 働き方改革への期待
脱時間給 人材採用で有利
税や社会保障制度の見直し 効率的な働き方が生産性向上
正社員の働き方改革への意識
力を発揮する条件 政府への期待
安定した給与 賃金の引き上げ
人員の適切な配置

これを見ると、企業側が賃金引き上げについて関心が低いのに対し、労働者側が力を発揮する条件や政府への期待に、安定した給与、賃金引き上げを挙げるなど、企業と労働者の間に働き方改革に対する意識のズレがあるのが明らかです。企業側は、労働人口の減少による人手不足を見越して、職場環境や労働環境を良くすることで少しでも魅力的な職場であることをアピールしたいという本音が透けて見え、人件費の削減が可能であればさらに減らしたいと考えています。一方、働く側は、景気減退は最悪の状態から脱したとはいえ、一向に上がらない給与に不満を抱えています。契約社員の立場では、長時間労働の是正によって給料が減るのであれば、働き方改革は逆にうれしくないことだという意識があります。

働き方改革を推進する上で、この労使間の意識のズレをそのままにしておくと、働き方改革もこれまで何度も行われてきた制度改正の1つに過ぎないと労働者は受け止め、結果的に「働き方改革は楽しくない」という感情が生まれてきます。2017年9月13日の日本経済新聞朝刊に、サイボウズが「働き方改革に関するお詫び」という全面広告を打ちました。あからさまな残業削減を進める世間の風潮を風刺したこの広告は、長時間労働の是正のみに走る働き方改革へ一石を投じるものとして、話題になりました(図3参照)。

図3:サイボウズの「働き方改革に関するお詫び」

図3:サイボウズの「働き方改革に関するお詫び」


価値を生み出す「異質性」のマネジメントへ

経営者が目指すべき働き方改革の方向性の1つに、「効率による利益創出から独自性による利益創出へ」の転換を挙げました。
そのとき、労使の「働き方改革」に対するベクトルが一致していることが、特に産出量の増大を進めていくための必要条件です。なぜなら、イノベーションによって独自性のある価値を生み出すためには、組織力ではなく「個々の人」の存在がとても重要だからです。
新たなアイデアは、大人数で繰り返される会議から生まれるのではなく、ある個人の頭の中で生まれることが多いのです。しかも、これまでの企業で歓迎されていなかったような「人」が発想力に優れ、独自の価値を生み出す可能性も高いと言えます。

独自性の価値を生み出すために必要なのは、多様な人材です。性別・年齢・人種・国籍など属性の多様性だけでなく、大切なのは、価値観の異なる人材を組織に受け入れることです。
現在でも新卒採用のときに、「個性ある人物が欲しい」と、ほとんどの企業は言っていますが、それは「自分たちが理解できる狭い範囲の個性」に収まっていることが多いのではないでしょうか。本当に個性的な人物に対しては「うちのカラーには合わない」といって不採用にするでしょう。
また、社内では「チャレンジ精神が大切だ」と言いながら、一方で「出る杭は打つ」という企業風土がなくなっているワケでないのが、多くの日本企業の現実です。
つまり、価値観を含めた多様性を企業内に取り込んでいくためには、経営自体が変わる必要があります。効率を重視した「同質性」のマネジメントから、価値を生み出す「異質性」のマネジメントへ変える必要があるでしょう。

これまでの経営は、人口増加というファンダメンタルズに支えられて、市場の拡大に合わせて企業を効率よく成長させていくことが大きな目的だったので、人材においても、なるべく異質なものを排し同質なものを集めて一気に回していく「同質性のマネジメント」が重要でした。
しかし、これからは「価値を生み出す」ことが大切なので、人材においては、なるべく異質なものを取り込みながら、一人ひとりが最大限に能力を発揮していけるような「異質性のマネジメント」が重要になるという、大きな転換が求められているのです。

異質性のマネジメントにおいて重要なポイントは、多様な価値観をもつ人材と企業をつなぎあわせ、エンゲージメントを高めるための共有されたビジョンやミッションの存在です。もちろん既に企業理念や将来ビジョンを掲げている企業がほとんどですが、同質性の高い人材のエンゲージメントを高めるために役立っていた内容では、異質性の高い人材のエンゲージメントを高めることには役立たないことが多いのです。経営者は、あらためて人材の多様性をインクルージョンしていく横糸になり得る企業の存在意義やコアバリューについて問い直す必要があります。

実現するのは「働きがい改革」

さらに、人材の多様性を豊かにしながら「働き方改革」を成功させるためには、もう一つ重要なポイントがあります。それは、「エンプロイー・エクスペリエンス」という視点です。
「エンプロイー・エクスペリエンス」という言葉を、あまり聞き慣れていない方もいるかもしれませんが、「社員が仕事を通じて得られる経験価値」というのが厳密な定義になります。もう少し詳しく言うと、エクスペリエンスとは、「心地よさ」「驚き」「感動」「誇らしさ」といった感覚的、感情的な付加価値を意味します。
これまでもES(従業員満足度)という考え方はありましたが、先ほど上げた「エンゲージメント」も含めた、より大きな概念として「エンプロイー・エクスペリエンス」があります。
これまで、人事の分野では、制度やシステムなどの会社都合の目的が先にあり、それをどのように社内に定着させるかとう考え方で、導入が行われていました。多少、導入に反対があっても、それをどう説き伏せていくかが重要だったわけです。

それに対して、「エンプロイー・エクスペリエンス」視点では、先ずそれぞれの社員にとっての望ましいエクスペリエンスを描いて、その実現のために逆算の発想で制度やシステムを構築していく方法への転換が行われることになります。「システムや制度中心の発想」から、個々の人間の違いを尊重した「人中心の発想」の転換とも言えます。
会社側は、給料、企業文化、キャリア形成、職務環境、健康などをバラバラに考えていることが多いのですが、働く側は、そうしたものをすべて含めて、その会社で経験するワーク・エクスペリエンスとして捉えています。
したがって、エンプロイー・エクスペリエンス目線での「働き方改革」を行うためには、これまでの人事部のあり方とかその他の組織との連携のあり方を根本的に変える必要が出てくるはずです。
なぜ、こうした発想の転換が必要かと言うと、人材の多様性を増し、それをインクルージョンしていくためには、これまでの発想の延長線上では限界があるからです。
さて、今日のここまでのすべての話をまとめる段階になりました。
今日は、「働き方改革」では、労働生産性を上げることが重要で、そのためには人材の多様性を高めて、エンプロイー・エクスペリエンスの視点でマネジメントのあり方を変えていこうという話をしてきました。
それをまとめると、「働き方改革」とは、結局こういう言葉に置き換えられるのではないでしょうか。
働き方改革で実現するのは、「働きがい改革」です。優れた人材を惹きつける、「働きがい」のある会社になることが、働き方改革のゴールであると言えます。

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