2018年9月7日更新

物流危機への処方箋 第01回 物流で何が起きているか

山田経営コンサルティング事務所代表 中小企業診断士 山田 健 氏

元請受難の時代

この夏の記録的な猛暑もようやく落ち着いたようである。
ところで、物流関係者の間で猛暑といえば「飲料」である。ビールを始めとする飲料水は物量規模が大きいうえに、とくに夏場の天候によって物量が大きく変動する典型的な季節商品である。物量事業者にとっては安定的なベースカーゴである一方、波動が大きくてなかなかやっかいな貨物でもある。
この飲料関係の荷主をメインとしている物流事業者が、猛暑のおかげで活況を呈しているであろうことは容易に想像がつく。先日、筆者が関係している物流事業者を訪問した際、飲料の出荷状況と会社業績について経営者に尋ねてみた。ところが、案に相違して経営者の顔色はさえない。
「物量が増えたために業績が赤字になってしまいました。」理由を聞けば、たしかに飲料の荷動きは活発だが、それを運ぶトラックが足りない。それでも輸送責任を果たすために割増運賃を払って傭車(ようしゃ)を集めた結果、荷主からの収受運賃との間に逆ざやが発生したのだという。
物流事業者は、安定配送と波動への対応のために自社のトラック以外にスポット傭車を活用することが多い。事業者によっては、その比率が5割から8割近くに達することもある。スポット傭車の運賃はその時の需給関係で大きく変動するが、荷主との契約運賃は固定されている。それでもトラックが足りなければ外部戦力に頼らざるを得ない。そのような事業構造の中で起きた「逆転現象」である。
末端の作業費用は人手不足で高騰しているのに、収受料金は思ったように上がらない。このような昨今の業界事情を、先の経営者は「元請受難の時代」と自嘲した。

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古紙が輸出できない

日経新聞によれば、古紙問屋でつくる関東製紙原料直納商工組合(東京・台東)は今年6月積みの段ボール古紙輸出を4カ月連続で見送った。古紙の最大の需要国である中国が、3月から輸入できる古紙の不純物の割合の上限を1.5%から0.5%へ厳しくしたことも理由の一つだが、根本的な問題としてドライバー不足に悩む海上コンテナ輸送会社が運賃を引き上げるなどして、商社が車を手配できなかったことが主な理由である。
海上コンテナは港湾地区の「コンテナヤード」に一時蔵置され、輸出通関を経て船積みされるのであるが、そのコンテナ積卸し作業が物量の増加でキャパを超えている。東京港、横浜港など首都圏の主要港湾でその傾向が顕著である。ヤードでの積卸し待ちのトラック待機時間が4時間近くに及ぶこともまれではないという。トラックの回転率が落ちてしまうために、収入を確保するために近距離の輸送でも運賃は上昇している。このため、運賃負担力の少ない(商品価格が安い)古紙輸送が成り立たなかったのである。

宅配だけではない

宅急便の総量制限と値上げを表明した昨年2月の「ヤマトショック」、それに続く「宅配クライシス」によってインターネット通販の配送が危機的状況であることは社会問題化しており、世間の関心も高い。
ところが、こうしたマスコミが取り上げやすい末端の物流以上に、川上の物流での人手不足は深刻である。業界大手であり、賃金や労働時間などの待遇もトップクラスであるはずのヤマトや佐川などは、むしろ恵まれている部類である。先にあげた飲料やコンテナの例は「氷山の一角」であり、原料、素材から製品流通に至るまでの、長大なサプライチェーン上で起きている物流危機はより重大で根が深い。
ただマスコミは取り上げないし、現段階ではわれわれの生活に目立った支障はきたしていないから気づいていないだけである。

物流危機の今昔

実は、こうした物流危機はバブルといわれた1986年から1990年代前半にも発生している。当時と今とでは何が違うのか、そもそも物流危機の根本的な原因や遠因はどこにあるのか、そして、昨今注目を浴びるIoT、AI、ロボティクスなど最新技術はこの物流危機をどこまで救えるのか、など筆者の拙い経験を通してではあるが歴史に学びつつ物流危機への処方箋を探っていきたい。

著者プロフィール

山田経営コンサルティング事務所
代表

山田 健(やまだ たけし)氏

Webサイト:http://www.yamada-consul.com/
流通経済大学非常勤講師

1979年 横浜市立大学 商学部卒業、日本通運株式会社 入社 。総合商社、酒類・飲料、繊維、アパレルメーカーなどへの提案営業、国際・国内物流システム構築に携わった後、 株式会社日通総合研究所 経営コンサルティング部勤務。同社取締役を経て2014年、山田経営コンサルティング事務所を設立し、中小企業の経営顧問や沖縄県物流アドバイザー、研修講師などを務めている。
主な著書に「すらすら物流管理」(中央経済社)、「物流コスト削減の実務」(中央経済社)「物流戦略策定シナリオ」(かんき出版)などがある。

山田 健 氏

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