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Japan

第01回 日本企業の中国投資と中国子会社のリスク管理(1)

中国ビジネス

有限責任監査法人トーマツ 中国担当

2016年06月24日更新

対中投資ブームの経緯

最近、我々のような中国業務を担当している会計士のもとに来る相談というのは、残念ながら、中国子会社の再編、リストラ、撤退などとネガティブなものが多くなっています。このような動きは、この2~3年において特に顕著となっていますが、なぜ今、中国からの撤退が必要となったかを議論する前に、過去、日本企業はどのような経緯で中国に進出していったかについて、おさらいをしてみたいと思います。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることを予めお断りいたします。

わが国において、1980年代後半から数回の大きな対中国投資ブームがありました。
第一次投資ブームは、1980年代後半、日本経済がバブルで活況となっている中、円高進行を背景として、中国の安価な労働力を求めて、繊維・雑貨・食品加工業などの企業が中国に進出した時期です。この時期は、深センなどの経済特区や日本語を話せる人材が多い大連などの中国沿岸部に進出が集中しました。
その後、1989年の天安門事件後にはいったんは外資企業の中国からの撤退が起こりましたが、1992年年初の鄧小平氏の南巡講話により、中国での外資誘致や市場経済化が再び加速し、広東省などの華南地域を中心に第二次投資ブームが起き、日本企業も電気産業や機械産業の企業において、生産拠点としての中国子会社設立が進みました。この時期は、安価で良質な労働力の獲得を目指しての、製造メーカーの大量進出の時期であったといえます。
第三次投資ブームは、中国のWTO加盟を前後した2000年前後から2006年前後であり、この時期には、日本企業もWTO加盟による中国の市場開放、経済自由化を見据えて、中国の消費者市場も意識しながらの進出拡大となりました。日系企業の大手自動車メーカーが中国に本格的な生産工場を設立し、現地生産を開始したのもこのころです。例えば、ホンダは広州で1999年ごろから、トヨタは2002年に天津で現地生産を本格化させました。また、トヨタ、ホンダ、日産などの完成車メーカーとともに、そのサプライヤーであるデンソーやアイシンなどの部品メーカーや多くの二次下請け、三次下請け企業も、ほぼ時を同じくして中国での現地生産を本格化させた時期でもありました。
第四次中国投資ブームは、2008年9月のリーマンショック以後の対中投資ブームです。この時期になると、日本企業の対中国投資の内容も大きく変化してきます。もはや中国の安い労働力を目的とした投資ではなく、むしろ中国を世界一の巨大な消費市場ととらえた非製造業の比率が上昇し、中でも卸売・小売業と金融・保険業の中国本格進出が目立ってきています。イオンやセブンイレブン、ユニクロなどの一般消費者をターゲットにした企業が本格的に中国本土に進出したのもこの時期と言えるでしょう。

(図表1)日本からの対中国直接投資の趨勢

対中投資を支えた税制の役割

以上、マクロ経済的な視点から対中国投資ブームの経緯をおさらいいたしました。さて、その間、中国の税制が果たした役割というものはどのようなものだったのでしょうか?特に日本企業の中国子会社運営にとって効果が大きかったものとして、(1)保税による加工貿易制度(来料加工、進料加工等)と(2)外国企業優遇税制(地域優遇税制、期間減免税率等)の制度がありました。

(1)保税による加工貿易制度(来料加工、進料加工等)
  加工貿易制度とは、中国企業が海外企業から生産委託を受け、原材料や部品等の部材の支給を受けて中国国内で生産し再度輸出する方式をいいます。その場合、海外から支給された部材については保税扱い(輸入時には関税・増値税が課税されない)となり、委託生産された製品は保税状態のまま輸出することができます。
  加工貿易制度は、以下のような形態を中心に複数の形態が存在しました。

形態 特徴
① 来料加工貿易 外国企業が無償で原材料等の部材を提供し、また必要に応じて生産設備も無償で供与する。中国企業は、生産指示にしたがい、組立・加工を行い、生産された製品の全量を外国企業に引き渡し、対価として加工賃を取得する。
② 進料加工貿易 来料加工と同様に、外国企業からの生産委託と保税による部材の支給により中国企業が組立・加工を行うが、外国企業が有償で部材を提供するため、生産された製品を外国企業に引き渡す場合には、原材料費を含めた代金を請求する。
③ 華南モデル(法人格のない来料加工貿易) 外国企業が香港現地法人を利用して、広東省などの鎮政府の開発公司(郷鎮企業)などに加工委託し、実質的に郷鎮企業内に来料加工工場を設立し、保税による加工貿易を行う方式。外国企業は、実質的に法人格のない委託生産工場を中国本土に持つことができた。

以上のような保税による加工貿易制度では、中国子会社は保税で原材料を輸入し、生産した製品を中国国外に輸出することで、中国の外貨獲得に大きく貢献しました。このような加工貿易形態は、中国が「世界の工場」と呼ばれる生産基地としての重要な役割を果たした90年代から2000年代前半ぐらいまで活況を呈しました。上記のうち、①来料加工貿易と②進料加工貿易は、現在も引き続き実施されていますが、③「華南モデル」については、中国政府が外国企業に対して中国国内に合法的に現地法人を設立するよう要求しているため、2009年以降、原則として廃止されています。

(2)外国企業優遇税制(地域優遇税制、期間減免税率等)
  2008年に新企業所得税法が施行される前は、中国では、外資企業は内資企業と異なる優遇税制が適用されており、そのような優遇税制も日本企業が中国に進出する際のインセンティブになっていました。
  当時の外資企業向けの優遇税制には、主として、①地域優遇税制(低税率)と②期間減免税の二つがありました。
  まず、①地域優遇税制(低税率)については、深セン、珠海などの「経済特区」や、北京、天津、広州などの国家級経済開発区、保税区、上海浦東新区などの一定の地域では、外資企業について、特に多くの労働者の雇用が期待できる製造業企業を中心に、企業所得税率が15%などの優遇税率が適用されていました(当時の法定税率は30%)。
  次に②期間減免税率について、生産型企業で経営期間が10年以上などの一定の要件を満たす企業については、課税所得発生後の2年間は企業所得税が免税、第3年度から第5年度は企業所得税納税額を半減する、という優遇措置が取られていました(いわゆる「二免三減税制」)。また、二免三減税制により中国で減免された企業所得税については、日本の親会社が当該中国子会社から配当を受ける際には、日本の法人税法上、中国で企業所得税が納付されたものとみなして外国税額控除を適用することができるという「みなし外国税額控除」を適用できたため、中国では企業所得税の減免を受け、日本では外国税額控除を受けることができる、という「一粒で二度美味しい」税務メリットを享受することができました。
  以上のような外資企業向けの優遇税制は、2008年に新企業所得税法が施行されたことによって外資企業は中国内資企業と同じ税制が適用されることになったのと同時に、経過措置を経て廃止されました。

このように、2000年代半ばごろまでは、外資企業、特に製造業企業にとって有利な制度が存在しました。中国各地の開発区は、競って外資誘致を行い、独自の優遇措置を講じたり、多額の補助金を供与するケースも多々ありました。特に、上記の優遇税制のうち「二免三減税制」は魅力的でした。新規設立された子会社は、事業が軌道に乗り利益が生じても、課税所得発生から2年間は企業所得税が免除されるため、日本企業も、新たに中国で工場を建設する必要がある場合には、既に設立済みの子会社の第2工場、第3工場…として工場建設するのではなく、新規に子会社の設立を行いました。これにより、各地で1工場=1子会社の形態で子会社設立が進み、工場の数と同じだけの子会社がある、というような事態が生じました。日本の大手製造メーカーの中には、100社を超える中国子会社を有している会社があるのは、上記のようなことも原因のひとつと言えるでしょう。

このように日本企業は、これまで数次の対中投資ブームにのり、多くの子会社を中国本土に設立してきました。しかしながら、この数年、中国における人件費、不動産価格をはじめとするコストの高騰、税制優遇の廃止等により、進出当時と比べて大きく環境が変化してきました。
次回は、中国におけるこのような投資環境、事業環境の変化により、日本企業の中国子会社がどのようなリスクに直面しているかについて、検討してみましょう。

(参考文献)

  • 「中国の投資・会計・税務Q&A 第6版」デロイトトーマツ中国サービスグループ
  • 「中国新企業所得税制の実務」税理士法人トーマツ
  • 「日本企業の対中投資」独立行政法人 経済産業研究所 柴生田 敦夫(2009年)
  • 「2015年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査―中国編―」 日本貿易振興機構(ジェトロ)(2015年)
  • 「貿易・投資相談Q&A」日本貿易振興機構(ジェトロ)HP
  • 「日本の第4次中国投資ブーム(1)(2)」21世紀中国総研HP 中村公省(2012年)
  • 「中小企業白書2006年」中小企業庁 2006年

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