AI活用の「いろは」
株式会社チェンジ 執行役員
株式会社ボイスタート 取締役
高橋 範光 氏
2018年11月14日更新
前回、AIが果たす役割の1つ目として認知、特に「目」の役割としてのAIをご紹介しました。例えば、AIを使うと、リンゴの写真に対して「リンゴ」とタグを付け、犬の写真に対して「犬」とタグ付けることができるということでした。ただし、今のAIは、その写真の意味を正確に理解してタグ付けをしているわけではなく、「『リンゴ』の画像」を「『リンゴ』という文字」、「『犬』の画像」を「『犬』という文字」に、言葉通り“機械的”に置き換えているだけと言えます。
ここまで書くと、勘の良い方はお分かりになられたかもしれませんが、その逆、すなわち「『リンゴ』という文字」から「『リンゴ』の画像」、「『犬』という文字」から「『犬』の画像」を描写することも人と同じように可能だということです。
この第3回は、AIが果たす「デザイン」の観点について触れていきます。
2015年頃、Googleが発表した人工知能「Google deep dream」。画像を渡すと、Googleが持つ動物などの見覚えのある画像の一部を使って、絵を再構成して表現してくれるというソフトウェアで、その画像の奇妙さもあって非常に話題となりました。
出典:Google deep dreamの画像(クリエイティブ・コモンズ画像)
その技術自体は、画像から画像を生成するものですので、他の例を上げると、犬の画像を同じレイアウトの猫の画像に変えてしまったり、オレンジの画像を同じ佇まいのリンゴの画像に変えてしまったりすることができるという、如何にも今のAIらしい機械的な変換を象徴した技術といえます。
そして、この機械的な変換技術は、前述したような “テキストから画像を自動生成”する人工知能技術として、現在では研究・利用が進んでいます。いずれ、これらの技術が一般化すれば、これまでは利用したい写真をアーカイブから検索して利用していたのが、今後は検索ではなく生成して利用するという未来も近いと言えるでしょう。
ちなみに、これらの画像生成で用いられる技術はGAN(Generative adversarial networks:敵対的生成ネットワーク)と呼ばれるものです。
以前NHKで歴史上のモノクロの風景や昔の動画をカラフルに着色して放映するという番組をしていました。このように、漫画の色塗りや画像の着色という技術は、いまやAIで簡単に行われるようになってきています。
また、画像の編集ソフトウェアにもAIが組み込まれ、加工技術も飛躍的に簡単、かつ高速に行えるようになってきました。例えば、写真に写り込んでしまった人や物を取り除くという作業は、ほんの1分もあればできてしまいます。具体的には、削除したい画像を特定すれば、その画像の輪郭を認識し、自動的に周辺の背景画像に置き換えるという流れです。
このようにデザインの世界における、創造的な部分というよりは作業にあたる部分は、AIによってかなり自動化が進みつつあるのが現状と言えます。
オランダの画家レンブラントのタッチで絵を描くAIのプロジェクト「The Next Rembrandt」がたちあがり、見事にレンブラント風の絵をいくつも生み出すようになりました。この技術は、絵画の世界だけのことではなく、多くのクリエイティブの領域で同様のことができることを示しています。
小説の世界でいうと、太宰治の小説を学習し、太宰治のような小説を描くAIも作ることも簡単にできるようになってきましたし、音楽の世界でも、多くのジャズを学習し、ジャズっぽい曲を新たに生成することもできるようになりました。
しかしこれらをもって、創造的な領域がAIによって自動化されるようになったと言えるでしょうか。あくまで、先人やプロの「作業」を真似て作ることができるようになっただけで、これを創造性というと誤解が生じるところでしょう。
まだまだ、現在のAIはクリエイティブの作業レベルでの自動化にとどまっているというのが現状と言えるでしょう。
ではビジネスの世界では、どのような領域で利用されているのでしょうか。デザインの領域では、以前から利用されているのが新幹線の先頭部分の形状設計です。東海道新幹線のN700系は、高速でトンネルに入るときに生じる空気の圧力波によって発せられる発破音、通称「トンネルドン」を軽減するために、遺伝的アルゴリズムというシミュレーション手法をもちいて、現在の「エアロ・ダブルウィング」という形状を設計したと言われています。
また、建築業界では、耐震性などの構造設計の領域でもAIが一部代替するようになりつつあります。先程の新幹線の設計もそうですが、創造性という側面よりは、機能面での最適化シミュレーションにおいてAIの利用価値が提供されているということが分かります。
例えば、最近ではホームページ作成を行うAIも登場しています。ホームページにも、創造性と機能性の両面がありますが、現在登場しているAIは、やはり機能性、すなわちウェブサイトユーザビリティの観点から最適化したものを作ってくれます。具体的には、サイト名称やコンテンツ内容、ビジネスモデル、コンセプトなどの質問に答えるだけで、テンプレートが完成するようなもの、さらにA/Bテストを自動で行い、デザインパターンを最適化してくれるものまであります。改善運用まで自動で行ってくれるわけですから、Web担当者や情報システム部門の方は本当に楽になりますよね。
第3回は、6つの役割の2つめ「デザインの自動化」を紹介しました。機能面での代替の可能性が広がる一方、創造性の側面ではまだまだ人の出番が欠かせないという状況であることがわかったかと思います。次回は、3つ目の役割「作業の自動化」について紹介していきます。
株式会社チェンジ 執行役員
株式会社ボイスタート 取締役
高橋 範光 氏
株式会社チェンジ執行役員として、ビッグデータやAI(人工知能)に従事
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