AI活用の「いろは」
株式会社チェンジ 執行役員
株式会社ボイスタート 取締役
高橋 範光 氏
2018年9月18日更新
最近、新聞を賑わすことが多いAI(人工知能)。そんなAIをうまく活用できるかどうかが今後の経営の鍵であると言われながら、他社事例を見てもなかなかピンとこないということも多いでしょう。自社では一体何から取り組めばいいのか、どのように活用していけばいいのか、どうすればうまくいくのか、疑問ばかりだと思います。そこで、本コラムでは、事業にAIを活用していくためのアイデアを生み出す情報をお伝えしていきます。
AIとはいったい何なのでしょうか。人工知能という言葉から、「人が作った知能(脳)」というイメージをもたれやすいですが、実際に現在活用されている多くのAIは、「人が作った知能(脳)」というよりも、「人の知能(脳)が考えておこなった作業と同じことを真似てできる機械」といったほうが正確です。すなわち、人がこれまでにやってきた“こと”を学習し、同じように振る舞うことができるのが現在のAIなのです。
たとえば、最近販売された翻訳AIは、日本語から他の言語への翻訳ができます。この翻訳AIは、実際に人が翻訳した内容を大量に学習することによって、人の真似をして翻訳ができるように作られています。ただし、当然ですが、教えていないことは翻訳できません。現在の翻訳AIが、地名や固有名詞、専門用語をうまく翻訳できないのはこのような理由からであり、うまく翻訳できるようにするためにはしっかり教えてあげる必要があるということです。この手間を惜しんでAIをうまく活用するのは不可能だといえるでしょう。
また、現在のAIは、自由自在にどんな問題にも答えるわけではなく、単一の“こと”にしか対応できません。たとえば、先ほどご紹介した翻訳AIには複数の言語への翻訳機能が搭載されています。しかし、実際には、1つのAIが器用に言語を使い分けているわけではなく、英語に翻訳するAIと中国語に翻訳するAIなど複数の異なるAIが用意されており、ユーザーが選択することで使えるような仕組みになっています。
みなさまの中には、囲碁のチャンピオンや将棋のチャンピオンを負かしたAIのニュースをご覧になられた方もいらっしゃるでしょう。このように圧倒的に強い将棋のAIがあったとしても、チェスを眼の前にして同じくチャンピオンを負かすことができるでしょうか。きっと、そもそもチェスを把握することができず、何をしてよいかわからないという結果になるでしょう。すなわち、1つのことに対しては器用に対応できるものの、複数のことに対して柔軟にこなせるわけではないということです。
そこで、AIを活用していくには、あれもこれもできるような器用なAIをイメージするのではなく、業務において「何を担わせるか」をしっかりと絞り込む事が肝要です。あれもこれもと欲張るとAI活用は失敗に終わるでしょう。
例えば、会議の議事録を作るAIのニュースを最近耳にします。しかし現状のAIが作るのは、議事録ではなく逐語録までであり、議事録のように読みやすいように編集・推敲する作業は、引き続き人がおこなう必要があります。
そして、だれかが正解を教えてあげないとAIは成長しません。AIの成長には、「教師データ」と呼ばれる学習用の正解データを大量に用意する必要があります。この正解データを用意できない分野でのAIの活用は現状難しいといえます。よって、未知の分野でのAI活用を考えることはあまり現実的ではなく、学習用の正解データを用意できる「既知の分野」でのAI活用を考えることが大事であるといえます。
この第1回では、現状のAIについて正しく理解してもらうために、何ができて何ができないのかを整理しました。AIは決して魔法の箱ではありません。ただし、うまくその使い方を理解できれば、業務で大きな価値を生み出す「武器」になりえる「新しいIT」です。
そこで、次回からは、AIが活用できる6つの役割について、事例を交えながらご紹介していきます。この6つの役割を把握することで、単なる他社のAI活用事例の真似ではなく、自社にあったAI活用を考えるヒントを得ることができるでしょう。
株式会社チェンジ 執行役員
株式会社ボイスタート 取締役
高橋 範光 氏
株式会社チェンジ執行役員として、ビッグデータやAI(人工知能)に従事
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