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Japan

第04回 「同一労働同一賃金」が企業経営に与える真のインパクトとは【前編】

誰も言わない経営者が持つべき“働き方改革”の視点

株式会社ワイズエッジ
代表取締役  経営コンサルタント  清水 泰志 氏

2017年09月15日 更新

今回で4回目になる本コラムも最終回を迎えました。ここまで、「働き方改革」に含まれる3つのテーマの整理、労働生産性と長時間労働の是正の関係、そして高付加価値ビジネスを生み出していくために大切な視点について取り上げて来ました。「働き方改革」を考えるときには、キーワードとして他に「雇用の多様性」「ホワイトカラー・エグゼンプション」などがありますが、これらのテーマを考えるときに不可欠な視点は「同一労働同一賃金」になります。そこで、今回のコラムでは、同一労働同一賃金を中心的なテーマに置いて、積み残している「働き方改革」のポイントについて取り上げて、総括をしていきます。

「ニッポン1億総活躍プラン」が掲げる同一労働同一賃金

安倍首相は、「ニッポン1億総活躍プラン」において同一労働同一賃金の実現に踏み込む考えを表明しています。同一労働同一賃金とは、文字通り「同じような仕事であれば同じ賃金となる」という、当然とも言える考え方です。経済学には、「一物一価の法則」があるので、それに照らしても、労働においても同一労働同一賃金が成り立つべきであることに、論理的に異論を唱えることは難しいはずです。それにも関わらず、日本においては成立してこなかったという事実があります。具体的に現在の日本で、いくつかの点で同一労働同一賃金が実現されていません。一つ目は「年功賃金」です。これは同じ仕事に就いていても年齢が高ければ賃金が高いことを意味します。二つ目は、男女間の賃金格差の存在です。そうした中で、とりわけ近年大きな問題となっているのは、三つ目の非正規社員と正規社員の賃金格差です。アベノミクスによって失業率が低下し、有効求人倍率が高まるなか、量的な雇用状況は改善していますが、実質賃金が伸び悩むなど雇用の質的改善が遅れている原因は、この賃金格差にあります。したがって、安倍首相が実現を目指す同一労働同一賃金も、具体的には、この正規・非正規間の賃金格差を解消するために、主に非正規労働者の賃金を引き上げることを指しています。
現在、日本の非正規労働者の割合は、2017年5月の「労働力調査」によると36.8%ですが、1990年には20%程度であったことと比較すると、ほぼ倍増したことになります。この間、非正規労働者の属性も変化しました。1990年時点では、非正規労働者に占める一人暮らしを含む世帯主の割合は約6%でしたが、2014年時点では約13%と倍増しました。このことは、家計の補助としてではなく、自らの稼ぎで生計を立てなければならない非正規労働者が大幅に増えたことを意味します。
実際のところ、飲食業では、ファストフードを筆頭に、規模の大小に関わらず従業員の90%以上がパート・アルバイトという店舗が普通という状態です。特に最近では、そのパート・アルバイトの90%以上が日本人ではなく外国人という店も珍しくありません。
また、東洋経済オンラインの2016年2月22日付けの記事「最新!これが『非正社員の多い』トップ500社」を見ると、飲食業に限らず、知名度の高い大企業においても、非正規社員比率が驚くほど高いことが分かります。
<参考リンク>
「最新!これが『非正社員の多い』トップ500社」(http://toyokeizai.net/articles/-/105989Open a new window

イオンやセブン&アイ・ホールディングスといった大手小売業が60%超え、日本郵政が41%、介護業のニチイ学館が83%、KDDIが54%、鉄道運輸業の東京急行電鉄が50%、女性に大人気の夢の国ディズニーランド&リゾートを運営するオリエンタルランドが82%という具合です。
これだけの非正規社員を雇用しながら、日本企業が世界に誇る「オモテナシ」を提供可能な理由は、日本のパート・アルバイト・派遣社員の方々が、世界的に見て最高水準の能力を持つ低賃金労働者であるからです。
飲食店では時給900円のバイトの若者が、食材の仕込みに始まり新人教育から店舗のポップデザインまでをこなし、サービス残業や早出を厭わず、1ヶ月休みなしという連続勤務をやり遂げるという驚嘆すべきコストパフォーマンスの高さを発揮しているからこそ、あれほど安い価格で料理を提供することを可能としているのです。
また、コンビニの夜勤をバイトの若者だけに任せることは、外国ならばレジのお金を一切合財盗まれるリスクが高いけれど、日本ではレジのお金や商品を盗まないことは当然として採用されています。低賃金労働者の質とロイヤリティがここまで高い水準で保証されている社会が、世界中で他にいくつあるでしょうか。

なぜ日本で非正規労働者が増加したのか

日本では、どのような経緯で非正規労働者が増加したのでしょうか。1999年小渕内閣時の経済戦略会議委員であった竹中平蔵氏は、「日本経済再生への戦略」において、労働者派遣の原則自由化こそが、日本経済を再生し、「個人の転職能力を高め、雇用の安心を確保する政策」と打ち出しました。これを受け、1999年12月、労働者派遣法「改正」で派遣労働は一部の業種を除いて自由化され、2004年、竹中氏が経済財政政策担当大臣をつとめる中で、製造業への派遣労働が解禁されたのです。こうした正規社員の非正規化の流れに乗って、リーマン・ショック後、真っ先に非正規雇用者の大量解雇に踏み切ったのは、当時の経団連会長が経営している企業でした。
それ以降、日本を代表する経営者を筆頭に、ほとんどの経営者たちは、減益に耐え内部留保を減らしても「雇用を維持する」あるいは「国民経済を支える」という仕事は、誰か他の人がやるべきことであって、自分たちは自社の利益確保だけをしていればよいと考える「常識」を持つようになりました。
ところが、最近になって、非正規社員の増加を問題視し、正規社員化を推進する流れが出てきました。なぜ、手のひらを返すように反対の動きが加速しているのでしょうか。それは、「非正規労働者の増加によって日本経済が不利益を被っている」と政治家と経済人が思い始めたからです。バブル崩壊後の「日本経済の再生」においては、人件費を削減すべき主要なコストと見なして、正規労働者の非正規化を強力に推進し、海外市場での競争力を上げ、デフレの国内市場で販売数を稼ぐために、低価格商品を提供すること躍起になっていました。
そして、コスト優先の戦略をとり続けるうちに、生産拠点の海外移転が加速していき、国内市場の消費者に「貧乏」な非正規労働者が多くを占めるようになると、「買ってくれる人」がいなくなってしまい、そもそも市場自体が成り立たなくなったわけです。非正規労働者は、所得水準が低い「貧乏人」です。だから、家も買わないし、車も買わないし、国債も買わず、現預金を含めて何らの資産も有しません。 非正規という低賃金労働者を収奪することで、わずかながら浮力を得た日本経済は、非正規社員を収奪し過ぎたことによって、今度は自分で自分の首を絞める状態になったのです。行政や財界が、最近になっていろいろ動き始めているのは、今ごろになってその事実に気付いたからに他なりません。

労働市場で進む働き手の属性の多様化

同一労働同一賃金の実現に当たっては、正規と非正規労働者の格差に加えて、男性と女性の格差を無視することが出来ません。国税庁によると、男性の給与に対する女性の給与の水準は、1979年に51.1%で、2014年でも52.9%とほとんど変化がありません。一方で、雇用者に占める女性比率は、1970年代前半の約32%から2015年には44%弱にまで上昇しています。日本では女性の社会進出が着実に進んでいる一方、男女の賃金格差が先進国中でも大きい国のままであることが分かります。
実は、同一労働同一賃金の先進国である欧州では、就業形態による賃金格差の是正ではなく、男女格差の是正を主眼として取り組まれてきたという経緯があります。ただし、働き手の属性という意味では、男女だけに留まるのではなく、他の切り口にも目を向ける必要があります。例えば、高齢者の労働力化が進んでいることがあげられます。雇用者に占める60歳以上の割合は、1970年の8.8%から2015年には19.8%まで上昇しています。年金支給開始年齢が順次引き上げらに伴い、企業の定年延長と定年退職者の再雇用促進が行われた結果です。高齢者の就業率が高まり、しかも就業期間が長期化してくる状況では、シニアにも戦力として活躍してもらわなければ職場のモラルに悪影響が及びます。また、年功賃金制度が崩れていく潮流のもとで、相応の成果を上げているシニアの賃金を年齢を理由に低く抑えることは、公平性の点からも問題があり、あくまでも仕事あるいは成果に応じて賃金を決めていく「同一労働同一賃金」の発想が求められています。
さらに、外国人労働者の増加も考慮すれば、「同一労働同一賃金」の考え方の重要性はますます高まります。国境を越えた事業展開が加速するなか、外国人を雇用している日本企業は確実に増加しています。世界的には職務を基準にした賃金制度が主流で、日本のような職能をベースとした賃金制度は一般的ではありません。その意味で、外国人にとっても納得性の高い人事給与制度を構築するために、同一労働同一賃金の考え方は重要です。外国人労働者と言うと、大手企業に限ったことで中小企業には関係が薄いと考えている経営者がいますが、労働市場において人手不足感が高まり続けている中で、優秀な外国人労働者を惹き付け高い成果を上げてもらうためには、日本人と外国人の間の不条理な賃金格差を無くすことが必要で、正にそれは同一労働同一賃金の考え方が求められることを意味します。
日本では、正規・非正規という就業形態の格差を是正することを目的として提唱されていますが、同一労働同一賃金という考え方の発祥の地である欧州では、むしろ人権保護の概念が基本にあり、男女格差、人種格差などの労働者属性に基づく格差是正のために提唱されたという出自の違いがあります。そのため、欧州では、同一労働同一賃金が意味することは、所得分配の平等というよりも、社会のダイバーシティを認める公正に関わるもので、その意義は、性別や人種などの属性で差別をすることなく、各人の能力を十二分に発揮する環境を整備することで、社会全般で正義を実現し活力を高めていこうとするところにあります。むしろ欧州では、合理的な理由があれば、就労形態の違いによる賃金格差の発生は当然のこととされているため、就労形態間格差に対する所得是正の効果は、必ずしも認められていません。したがって、経営者としては、政治的な思惑だけにとらわれることなく、女性活用、高齢者活用、外国人活用をしていくうえで同一労働同一賃金の実現を考える視点を持つ必要があります。

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