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Japan

第03回 労働生産性向上のために、労働時間の短縮より重要なこととは【前編】

誰も言わない経営者が持つべき“働き方改革”の視点

株式会社ワイズエッジ
代表取締役  経営コンサルタント  清水 泰志 氏

2017年08月10日 更新

今回で3回目となる本コラムの1回目では、最近人気のキーワードである「長時間労働の是正」とそれを実現するための「働き方改革」には3つのテーマが含まれているので、それらを混同せずにきちんと区別して考える必要があることを述べました。2回目のコラムでは、長時間労働が行われる原因として、「日本の労働生産性が低い」ことが指摘されることが多い現状を踏まえ、そもそも労働生産性とは何かを明確にしたうえで、日本の労働生産性に検証を加えて、実際に低いことを確認しました。そして、労働生産性を向上させるために重要なことは、分母の労働量の削減以上に、分子にあたる創出価値を高めることの重要性をお伝えしました。

今回は、「日本人が高い付加価値を生み出す労働が出来ていない」現状を分析することで、「労働生産性向上に向けてどのような処方箋があるのか」を考えていくことを主眼として話を進めていきます。

実は人口の多さに助けられて成長してきた日本

ここまで客観的な数値を示して、「日本人の労働生産性は先進国の中で最も低い」という話をしてきましたが、それでも現実を素直に受け入れることが出来ない方が多いかもしれません。百歩譲って、今現在の労働生産性の低さは認めても、「バブル景気までの日本は最高の労働生産性を誇っていたに違いない。ジャパン・イズ・ナンバーワンの時代があったはずだ」と思う方もいるでしょう。

たしかに今より一昔前の方が、日本の労働生産性を国際比較した場合の順位が高かったのは事実です。バブル景気に日本中が沸いていた27年前の1990年、米国に次いで世界第2位のGDPでしたが、それでも労働生産性は世界第10位に留まっていました。とは言うものの、2010年にGDPで中国に抜かれ世界第3位に落ちたとはいえ、今でも製造業生産額で世界第3位、輸出額で世界第4位、研究開発費世界第3位という数字を見ると、まだまだ日本は経済大国です。

日本人の多くは、終戦後の経済の驚くべき復興と成長を「アジアの小さな島国の国民が発揮した勤勉さとたゆまぬ努力の結果」と考えています。だから、「日本人の優秀さ」に誇りを持っている人も同時に多いのです。

しかし、日本は決して「小国」ではありません。それは経済規模という意味ではなく、国のファンダメンタルズという意味においてです。人口減少局面に入ったとはいえ、日本の人口1億2700万人弱という規模は、世界で13ヶ国しかない1億人超えの国の一つで、世界第11位の人口大国です。OECD加盟国内では、日本より人口が多い国は、中国、インド、アメリカ、インドネシア、ブラジル、ロシアしかありません。また、国土面積については、人口に比べるとだいぶん順位が下がります。それでも世界252ヶ国中62位で、先進国の中では、ドイツ、イタリア、イギリスより国土面積が広いことを考えると、広さの点でも「小国」と言い張るには無理があります。

つまり、GDPは[労働人口×一人当たりの生産性]で決まるわけですから、日本が経済大国である理由を、「国民性」とか「技術力」という要素だけで理解することはできず、むしろ、「人口の多さが生産性の低さを補って余りあった」という、見て見ぬ振りをしたい事実から目を反らしてはいけないのです。日本が世界第2位のGDPの座をキープしていた期間、先進国の中で日本より人口が多い国はアメリカだけしかなく、欧州には1億人超え国家は一つもないのですから。

世界一能力が高い労働者を活かし切れていない日本

一方で、日本人労働者は世界一スキルが高いという調査結果があります。2013年OECDが初めて実施した『国際成人力調査』で、出題された3分野のうち2分野で参加国中トップだった日本は、国別平均点でもトップという好成績を記録しました。調査対象国は、OECD加盟国以外も含めて24ヶ国。この調査結果から、あらためて日本人労働者の能力の高さが証明されたことになります。

この調査は、16~65歳までの男女を対象として、(1)読解力(2)数的思考(3)ITを活用した問題解決能力および対象者の属性(年齢・性別・学歴・職歴)について調査しました。日本のブルーカラーの読解力の高さが、他の国のホワイトカラー並みであることが報告されていることは、「ものづくり日本」の高品質を支えている理由の一つが明らかにされたといえますが、その反面、日本の弱点も浮き彫りになりました。この調査は、IT化が職域環境内で浸透する一方である状況を考慮し、原則としてパソコンを使って行われましたが、日本の調査対象者の4割近くがパソコンを使えないなどの理由から筆記で回答しました。スコアリング対象ではなかったものの、日本人労働者のITリテラシーの低さが露呈したことになります。

いま「働き方改革」が必要な理由は日本的経営が限界を迎えているから

ここまでの話を読むと、「日本がせっかく国として立派な実績をあげ続けているのに、屁理屈をこねて日本の素晴らしさを否定しているだけだろう」という非難をしたくなるかもしれません。でも、意図していることはまったく異なります。これまで、多くの日本人は、自らの持てる能力をいかんなく発揮した結果として経済大国になったと信じていますが、実は正反対で、せっかく高い潜在能力を働き手が持っているのに、それを十二分に生かし切れていないのが実態です。それは、裏を返せば、個々人の持てる力を生かし切るところに、成長の余地がたくさん残されていることが言いたいのです。

日本の人口動態を見ると、1995年に生産年齢人口がピークを迎え、以後減少し続けています。繰り返しますが、GDPは[人口×一人当たりの生産性]なので、働き手の数が減る状況下で経済成長するためには、トータルのボリュームだけを見るのではなく、一人当たりの生産性を引き上げることに企業の戦略目標を切り替えるべきでした。しかし、従来のやり方のまま、努力を続けています。1995年以降、日本経済の成長スピードが一気に落ち横ばい状態が続いている理由はここにあります。

「失われた20年」についての原因分析で多いのは、「1990年の総量規制で不動産バブルが弾け、その後金融機関の不良債権処理が・・・」というような話ですが、難しいデフレ論を振りかざすまでもなく、労働力人口が減少しているのに生産性を上げていないからGDPの成長が鈍化した。考えようによっては、案外単純な話なのです。

「働き方改革」には、細かく分けると3つの視点があることを第1回目のコラムの中でお伝えしましたが、「過労死」や「過労自殺」はどちらかと言うと「労働衛生」としての働き手のケアに属するテーマであり、もう一つの「女性の社会参画の推進」は労働人口の確保というマクロ的視点から国が推進しているテーマです。これらのテーマに共通した処方箋として「長時間労働の是正」があげられていて、その実現のために「労働生産性の向上が必要」だと認識している経営者が多いのではないでしょうか。しかし、経営者はもっと重要なことを理解する必要があります。

これまでの日本的経営は、人口の持続的増加という社会のファンダメンタルズをベースに、自然と拡大していく市場が用意されていたので、会社の規模を大きくすることを目指し、何ごとにおいても上手に管理することが大切なこととされてきました。国のGDPがトントン拍子に増加していったように、企業の成長も経営手腕というより市場の拡大という外部要因によって達成され、売上利益が伸び株価も上がるという好循環の恩恵に預かれたのです。

しかし、人口増加が止まれば、企業の売上利益は以前のようには伸びていきません。そこで、今までのように増えていく売上を効率よく捌く受け身の経営から、自らの知恵と工夫でビジネスを生み出していく本当の意味での経営戦略が必要になっているのです。

「もっと能力の高い社員が集まれば、労働生産性なんか一気に上がる」と思っている経営者の方は、本音では「労働生産性を上げるのは社員の問題だ」と考えています。残念ながら、それは大きな誤解です。「労働生産性を上げるのは、社員ではなく経営者の責任です」世界一優秀な労働者から先進国最低の労働生産性しか実現できていないという日本の経営の現状は、これまでの日本的経営が破綻しているという証左以外の何ものでもありません。残酷な事実かもしれませんが、この現実を経営者自身が受け入れることが「働き方改革」の第一歩なのです。

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