Skip to main content

Japan

第03回 労働生産性向上のために、労働時間の短縮より重要なこととは【後編】

誰も言わない経営者が持つべき“働き方改革”の視点

株式会社ワイズエッジ
代表取締役  経営コンサルタント  清水 泰志 氏

2017年08月10日 更新

企業にとって必要な真の「働き方改革」とは

個人だけではなく、企業自体も「効率を高めること」で利潤を生み出すビジネスから、「付加価値を高めること」で利潤を生み出すビジネスへの方向転換が必要になります。これまで企業は、残業削減などによる長時間労働の是正で、労働生産性の改善に努めてきました。この取り組みの中で、労働者がより効率的に働き、同じ仕事のアウトプットを短い時間で達成できるようになれば、企業としては、アウトプット(生産量=売り上げ)は変わらず、労働者の残業代が減るため、賃上げが行われないかぎり、企業の受け取る利益が増えることになる訳です

同じアウトプットをより短い時間・人数で達成することで、労働生産性を改善することも、経済発展のために大切なことです。労働生産性が高まることで、余剰となった労働力が新たなサービスや製品の生産に携わることで、実質所得を向上させることが出来るからです。
ただ、「新たなサービスや製品」がイノベーティブではなく、高い付加価値を生み出せなければ、余剰となった働き手は移った職場で、従来どおりの低賃金を余儀なくされます。

バブル崩壊後、日本企業は不況を乗り越えるための切り札として、生産性の向上に邁進してきましたが、それは効率化の追求に過ぎず、付加価値の向上には無頓着でした。そのため、飲食・宿泊や卸売業・小売業、運送業などのサービス業を中心に、企業は需要確保のために安売りに走りました。労働者の勤勉さや高スキルが貢献し、日本企業の労働生産性は向上したけれど、コスト削減が値下げ原資に回されたために、最終的な労働生産性の伸びは相殺され、むしろデフレ経済を助長する結果となったのです。

では、企業が高付加価値なビジネスを目指す場合、どうしたらよいのでしょうか。プロジェクトを起ち上げて、優秀な社員を集めて議論を繰り返したとしても、一朝一夕に新たな高付加価値ビジネスを生み出すことはできないでしょう。あるいは、経営者が自ら改革の旗手となって斬新なビジネスモデルを編み出すことも難しいでしょう。なぜなら、現在の企業の姿が、効率を追求するために最適化された人材、組織、文化として完成されているからです。

アメリカのイノベーティブな企業の代表であるアップルやグーグルは、人材の採用に並々ならぬエネルギーを投入しています。もちろん、日本の企業も新卒採用については、毎年多大な労力を費やしていますが、問題は「どのような人物を採るか」にあります。

イノベーションは、多くの人の考えを集めたり、調査を繰り返したり、多数決をしたりする今までのやり方からは生まれません。卓越したビジネスプランは、個人の頭のなから生まれることの方が多いのです。最近では、日本企業も求める人材像の中で、創造性に重きを置く傾向がありますが、依然として「出る杭は打つ」組織風土まで変化している訳ではありません。しかし、高付加価値ビジネスの創出を待ったなしの課題として突き付けられている日本企業では、ずば抜けて突出した人材を認めざるを得ないのが現状です。これからの時代を生き延びていくために、企業は卓越した技術や能力で利益をもたらす社員には、文句を言えないし、高い給料を支払わざるを得ないのです。

ただし、多くの経営者は、高付加価値なビジネスを展開するために必要な人材について勘違いをしていることがあります。それは、全ての社員全員が飛びきり優秀になればいいという誤解です。ところが、米コンサル会社ベイン&カンパニー(B&C)の調査によると、パフォーマンスが卓越した「高スペック社員」が全従業員に占める割合は、アップルなどのトップ企業と、そうでない企業のあいだに大きな差はありません。B&Cのパートナー マイケル・マンキス氏は、「アップルやグーグルなどでは、全従業員のうち16パーセントがパフォーマンスの高いエリート社員であるのに対し、ほかの企業では15パーセントほどと、ほとんど変わらない数字になっています」と語っています。しかし、企業全体のパフォーマンスを見ると、前者が後者をはるかにしのぐ結果となっています。実際、トップ企業の生産性は平均よりも40パーセント近く高く、結果として事業全体の付加価値も30~50パーセント高くなっているという。

高スペック社員の数は変わらないのに、事業効率と結果としての事業収益に莫大な差が生まれる理由のひとつは「組織づくり」にあると、B&Cのレポートは指摘しています。たとえば一般的な企業は、平等主義的な人員配置を行う傾向にありますが、グーグルなどのトップ企業はエリート社員のパフォーマンスを最大化するために戦略的な配属を行うとのこと。具体的には、「一般的な企業と違って、トップ企業は会社の戦略や業績に大きな影響を与えるクリティカルなポジションに高スペック社員を集中的に配属します。その割合は該当する部署に存在する全ポジションの95パーセントにも達するほどです」とマンキスは説明する。

第1回目のコラムで、日本生産性本部が、2016年12月に発表した『日米産業別労働生産性水準比較』という調査において、「直近の日本の労働生産性水準は、製造業で米国の7割(69.7%)、サービス産業で5割(49.9%)」だったことを伝えましたが、サービス業の付加価値労働生産性を高めるためには、こうした優秀な人材の戦略的配置が必要です。

さらに、日本の付加価値労働生産性を高めるためには、ICT活用度合いを高める必要があります。だが、ほぼ全員がスマホを持ち、会社では一人一台のPCが用意され、業務フローはほぼシステム化されている会社が多いのだから、「現状のICT活用度合いが低い」などということはあり得ない。そう思う人が多いことでしょう。たしかに、日本企業は相応のICT投資はしていますが、投資目的が成長の制約要因として指摘されています。それを端的に指摘しているのが、『平成28年度情報通信白書』における以下の記述です。
“日本の企業は、これまでICT投資を主として業務効率化及びコスト削減の実現手段と位置づけており、「ICTによる製品/サービス開発強化」、「ICTを活用したビジネスモデル変革」、「新たな技術/製品/サービス利用」などへの期待度が米国と比べて著しく低いと指摘されている。このようなICT投資に対する取組姿勢の違いから、ICT技術や製品・サービスで先行する米国に比べて、日本ではICT投資が付加価値向上につながらなかった可能性がある。”

また、ニューヨーク連邦準備銀行(FRBN)の調べるによると、1995年以降アメリカなどの先進国において生産性が向上している最大の要因は、ITおよび通信産業の発達だとしています。そのIT活用が最も盛んに行われている業種がサービス業です。裏を返せば、日本のサービス業の生産性が低い原因の一つは、攻めの投資によるIT活用が不十分だということになります。

「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査結果

そして、FRBNは攻めのIT投資を高めるためには、「現状の仕事の進め方や組織に合わせるのではなく、先ずは仕事の進め方や組織のあり方を刷新し、当然人材にも投資する必要がある」との指摘をしています。単に業務の効率化を図るのではない以上、IT活用は経営基盤そのものの見直しを必要としているのです。

私は、この中で最も優先順位が高い事項は、「人」だと考えています。付加価値の高いビジネスでは、「何をするか」以上に「誰とするか」の方が重要だからです。したがって、真の働き方改革とは、会社側においては、現状に疑問を抱き、物事を批判的に捉え、問題解決のために自ら行動するような従来の基準に照らせば「疎ましい」人材を惹きつけるようなフィロソフィを明確に打ち出すことからスタートします。

そのうえで、より高い付加価値を生み出すビジネスモデルを創造し、国内で少ないパイの奪い合いだけに終始するのではなく、企業規模の大小に関わらず世界に打って出るという覚悟が不可欠です。

また、働く側の立場では、必ずしも正社員という身分拘らずに、自分のスキルアップのためには自ら投資を怠らず、強みを武器に複数の企業から報酬を得られるような自営自立的な働き方を目指すことが望ましいと思います。

そうなれば、日本の労働生産性の向上は、「効率化」の結果としてではなく「付加価値の向上」を通して達成されるはずです。

ページを移動

 前へ

著者プロフィール

清水 泰志 氏

株式会社ワイズエッジ

清水 泰志 氏

代表取締役 経営コンサルタント

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。大学卒業後、アーサーアンダーセン&カンパニー(現アクセンチュア)のコンサルタントとして金融機関、製造業、サービス業、国・地方公共団体等をクライアントとする複数のプロジェクトに参画する。同事務所を退所後、建設資材商社に後継者として入社。社長就任後、法的整理による事業の清算を行う。自身の反省点を踏まえ、その後は企業再生支援に取り組む。その過程で、企業が持続的に繁栄するためには、「好調なとき」にこそ経営改革を行うべきだ、との信念を持ち、今では好調企業の指導に軸足を移している。「経営者は小手先の技を身に付けるのでなく王道を行くべし」をモットーに、経営者の成長を促すため、耳が痛い質問や助言を厭わないコンサルタントならぬインサルタントとして、活動の場を全国に広げている。

関連情報

お問い合わせ

Webでのお問い合わせ

入力フォーム

当社はセキュリティ保護の観点からSSL技術を使用しております。

お電話でのお問い合わせ

0120-835-554 お客様総合センター

受付時間 9時から17時30分まで
(土日、祝日及び当社指定の休業日を除く)
[注] お問い合わせ内容の正確な把握、およびお客様サービス向上のため、お客様との会話を記録・録音させて頂く場合がありますので、予めご了承ください。