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Japan

第02回 「日本の労働生産性は低い」は本当か?【後編】

誰も言わない経営者が持つべき“働き方改革”の視点

株式会社ワイズエッジ
代表取締役  経営コンサルタント  清水 泰志 氏

2017年07月05日 更新

日本の「労働生産性」は本当に低いのか?

ここまでの話で、「労働生産性がOECD加盟35ヶ国の中で22位だから日本は効率の悪い働き方をしている」と単純に決めるつけるわけにはいかないことは分かりましたが、日本の労働生産性は実質的に十分に高いと言えるのでしょうか。あるいは、過去20~30年の間で労働生産性は向上しているのでしょうか? さらには、労働生産性を今後向上させる余地はあるのでしょうか? つぎにこのような疑問が出てきます。
先ほど、日本では就業者数を多目に見積もる傾向があることを指摘しましたが、過去の推移を見ると、1998年の6793万人をピークに減少傾向が続いています。2015年の労働人口は6075万人ですから、ピーク時に比べて10.5%減少しています。その原因は、少子高齢化による生産労働人口(15~65歳)の減少の他に、就業率が低下していることがあげられます。平成19年の71.6%から平成24年に68.8%へ落ちていますが、その原因を探ると、高齢化が進み60歳以上で無業になる人が多いからではなく、特に男性の場合、すべての年代で低下しています。しかも10代~20代の若年層は下落幅が大きくなっています。女性については全世代を通して若干就業率は伸びていますが、10代から20代前半の若年層では、やはり低下しています。
また、年間総労働時間を見ても減少の一途で、バブル景気真っ盛りだった平成元年(1989年)は2076時間でしたが、2015年には1724時間へと約17%減少しています。
一方で、日本のGDPは1990年が454兆円(名目)・404兆円(実質)で、2016年は537兆円(名目)・521兆円(実質)となっているので、「失われた20年」があったと言われながら、27年間で18%(名目)・28.9%(実質)成長しています。
過去20~30年間に就業者数と年間総労働時間も減少して、GDPが増えているなら、労働生産性の算出に使用する分子が増え、分母が減っているわけですから、日本の労働生産性は大いに改善されているはずです。
では世界一の経済大国アメリカの状況はどうなのでしょうか。過去20年間で就業者数は約20%増加し、総労働時間は1800時間で横ばいのままなので、1724時間の日本より長くなっています。一方で、アメリカのGDPは、過去20年間で2.29倍(名目)・1.58倍(実質)に成長しています。
「長時間労働が労働生産性を悪化させている」という主張に従うなら、就業者数が減少しているにも関わらず、実労働時間の削減を果たした日本と米国の生産性の差は、過去20~30年の間に縮まっているはずです。
しかし現実は、労働生産性の国際比較において、米国が3位を維持し続けている一方で、日本は16位から22位へと順位を下げています。
なぜなら、日本の労働生産性の向上が、過去20年に渡って僅かな上昇に留まっているからです。裏を返すと、アメリカなど労働生産性が高い国は、現在の数値が高いだけでなく毎年上昇を続けているという特徴があります。実際にOECD加盟国35ヶ国の実質労働生産性上昇率(2010年~2015年平均)のランキングを見ると、日本は28位で0.4%しか上昇していません。これは加盟国平均0.8%の半分の水準です。
以上のことから、やはり日本の労働生産性は低く、しかも改善の兆しがないという状況は事実だと認めざるを得ません。

労働生産性を改善するために必要なこととは

ここまでの話で、労働生産性の向上において、労働時間は必ずしも重要な要素ではないということが明らかになります。むしろ、約17%も労働時間を削減して「労働生産性を改善」したはずの日本のランキングを下落させた「何か他の要素」こそが、労働生産性を向上させるために重要だと言えます。
「何か他の要素」とは、分子であるGDPの成長です。ただし、これまでのような「気合いを入れて売上を増やそう!」というようなガンバリズムでは、日本のGDPは増やせません。むしろ、これまでのやり方が通用しなくなったという現実を、労働生産性が現に低いこととしかも向上率が低い事実が指し示しているのです。
これまでのビジネスにおいては、「効率」が利益を生み出し、利益を拡大していくための重要なキーワードでした。そのため、より多くのモノをより早くより少ないコストで、を目指して企業経営は行われてきた。だからこそ、シックスシグマとかTPS(トヨタ生産方式)とかERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)などの、効率により利益を生み出そうという手法が成功の鍵だとされて来たのです。
しかし、効率を追求し続けた先にあったものは、「偽装」や「不正」や「ブラック企業」の頻発という結果でした。大企業ですら、いままで通り効率によって利益を上げ続けることが難しくなっているという認識を、先ずは持つべきでしょう。 ましてや中小企業が、効率を追求することで利益を上げていくという考え方では、遅かれ早かれ立ち行かなくなります。
より身近な例で考えてみると、あるスーパーでピーク時のレジの混雑を改善するために、レジの数を増やすのではなく、いまいるレジ打ち担当者のスキルアップをして、全員が従来の2倍のスピードで打てるようになったとすると、なにが起きるでしょうか。
売上が2倍になるかというと、そんなことは起こりません。なぜなら、お客さんの数が増えることはないからです。したがって、効率化を利潤に結び付けるためには、レジ打ち担当者の半分近くをクビにして、人件費を削減する以外の方法はありません。
市場が成長している時代では、生産性の向上が売上増大という効果をもたらしますが、いまの日本のように人口減少が始まり市場が縮小している状況では、供給が需要を上回っているので、従業員が生産性を高める努力をしても給与に反映されることはなく、働き手のモチベーションアップは期待できません。
つまり、長時間労働の是正のためには、残業ゼロに向けて効率良い働き方を実現する必要があるとして、日本人をこれ以上頑張らせることには、そもそも無理があります。その替わりに必要なことは、効率によって価値を生み出すのではなく、企業の中核的価値を源に利益を生み出す新たなビジネスモデルへ日本企業が乗り換えていくことです。そのための経営基盤づくりが、真っ先に経営者に課せられた使命になります。

今回のコラムでは、労働生産性の導き方とその意味を詳細に検討しました。「そんな小難しいことを細かく考えることは、自社の経営とは関係ない」と感じたかもしれません。しかし、客観的に問題を分析し、仮説を立て、検証を加えるためにデータサイエンスを活用することは必須条件です。ただし、数字は客観的なものですが、間違ったプロセスで導き出された数字は、正しい判断の助けにはなりません。これまでのビジネスのやり方を見直し、新たな高付加価値ビジネスを生み出すためには、従来のKKD(経験・勘・度胸)に頼った経営のスタイル自体も変えていく必要があります。その際に、単に売上が増えたとか減ったという以上に数字をきちんと使いこなしていくリテラシーが経営者に求められて来ます。

次回以降のコラムでは、効率に頼らずに労働生産性を上げていくために、何をどうすべきかについて具体的に考えていきたいと思います。

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著者プロフィール

清水 泰志 氏

株式会社ワイズエッジ

清水 泰志 氏

代表取締役 経営コンサルタント

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。大学卒業後、アーサーアンダーセン&カンパニー(現アクセンチュア)のコンサルタントとして金融機関、製造業、サービス業、国・地方公共団体等をクライアントとする複数のプロジェクトに参画する。同事務所を退所後、建設資材商社に後継者として入社。社長就任後、法的整理による事業の清算を行う。自身の反省点を踏まえ、その後は企業再生支援に取り組む。その過程で、企業が持続的に繁栄するためには、「好調なとき」にこそ経営改革を行うべきだ、との信念を持ち、今では好調企業の指導に軸足を移している。「経営者は小手先の技を身に付けるのでなく王道を行くべし」をモットーに、経営者の成長を促すため、耳が痛い質問や助言を厭わないコンサルタントならぬインサルタントとして、活動の場を全国に広げている。

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